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男を狂わせる魅了の祝福を持つ令嬢は、野獣と恐れられる辺境伯様と三か月の仮婚約をしたら溺愛されました  作者: 紳士テニス


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改稿中☆44 口づけのあとで

※現在、改稿作業を進めています。


第1話から順番に、改稿版へ差し替えております。

差し替えが完了した話から、こちらの前書きは外していく予定です。

物語の大筋に変更はありませんが、細かな描写や内容については、改稿前と改稿後で異なる部分があります。

 どれほどそうしていたのか、リリアンナには分からなかった。ようやく唇が離れたとき、二人とも息が上がっていた。


「……っ、は」


 リリアンナは、うまく呼吸ができなかった

 

 頬どころか耳まで熱い。目の前のガレスも、耳から首筋まで真っ赤に染まっている。いつもは鋭く見える金の瞳が、今は熱を残したままリリアンナだけを見つめていた。


 互いに何か言おうとするが、言葉にならない。


 そのとき、広間の方から足音が聞こえた。


 二人は弾かれたように離れる。


 幸い、足音は途中で別の方向へ逸れていく。ほっと息をついたところで、ガレスは改めてリリアンナを見て固まった。


 結い上げた髪が、少し乱れている。胸元へ留めていた花のブローチが、斜めに傾いていた。頬は上気し、息もまだ整っていない。わずかに乱れたその姿は、ひどく艶(つや)めいて見えた。


(この姿のまま、広間になど戻せるものか……!)


「あ、あの、ガレス様。わたくし、そろそろ戻ら——」


 言いながら一歩踏み出したリリアンナの膝が、かくんと落ちた。


「リリアンナ!?」


 慌てて伸ばした腕が、その身体を受け止める。そのままリリアンナは、くったりと彼の胸へもたれかかった。


 力が入らない。息を止めていたせいなのか、緊張が抜けたせいなのか、腰から下がまるで自分のものではないようだった。


「……すみません」

「ガレス様?」

「俺が、やりすぎました」


 心底申し訳なさそうに言う。


「——失礼します」


 人が来る前にここを離れた方がいいと判断したガレスは、リリアンナを抱え上げると足早に廊下を進んだ。




 ◇◇◇




 人気のない小さな休憩室へ入り、長椅子へそっと下ろす。リリアンナを座らせると、すぐにその前へ膝をついた。


「本当にすみません。苦しくなかったですか。どこか痛むところは?」


 先ほどまでの勢いはどこへやら。ガレスは大きな身体を縮こまらせるようにして、すっかり項垂れていた。


「ガレス様」


 リリアンナは、思い切って顔を上げた。


「謝らないでくださいませ。……嬉しかったですから。それに……」


 最初は、触れるだけだった。すぐに離れようとしたのはガレスの方だ。それを引き止めたのは自分である。


「……もっと、とねだったのは、わたくしですもの」

「うぐっ……」


 ガレスは、思わず顔を背けた。


(自分が何を言っているのか分かっているのだろうか……)


 分かっていないのなら、それはそれで困る。分かって言っているのなら、もっと困る。


 ガレスとて男だ。


 頬はまだ熱を残して赤く、整えていた髪もわずかに乱れている。そんな姿で「もっと欲しかった」と言われたのだ。理性を試されているとしか思えない。


「……リリアンナ」


 低く名前を呼んでから、ガレスは深く息を吐いた。


「あまり煽るようなことを、言わないでください」

「え?」


 きょとんとした顔で見上げられて、ガレスはますます弱った。


「……本当に、困ります」

「ご、ごめんなさい……?」


 その顔を見て、ガレスは悟った。


(……やはり、分かっていない)


 これ以上何か言えば、かえって自分が墓穴を掘りそうだった。ガレスは諦めて話題を変える。


「動けそうですか」

「いえ。まだ……足に力が入らなくて。もう少しだけ、ここにいてもよろしいでしょうか」

「無理に広間へ戻る必要はないでしょう。このまま帰った方がいい」

「よろしいのでしょうか」

「今夜の目的は、十分果たせていると思います」


 リリアンナの評価が確かに変わりつつあることも分かった。多くの貴族と話し、これからにつながる縁もできた。これ以上、無理をしてまで残る理由はない。


「では、お言葉に甘えます」

「伯爵に話してきます。ここで待っていてください」


 そう告げると、ガレスは広間へ向かった。




 ◇◇◇




 ロイドはすぐに見つかった。


「伯爵」

「おや、閣下」


 振り向いたロイドが首を傾げる。ガレスの顔が、うっすらと赤い。


 ガレスは周囲へちらりと目をやると、ロイドへ身を寄せ、声を落とした。


「リリアンナなのですが」


 その様子に、ロイドも自然と声を潜める。


「娘がどうかしましたか」

「その……少し、具合が」


 言葉が、妙にぎこちなかった。


「具合が?」

「はい。その……少し、休ませた方がよいかと」


 やはり歯切れが悪い。


 ロイドは、しばらく黙っていた。


 ガレスの様子を見れば、おおよその察しはついた。——ついてしまった。


「……」

「……」


 微妙な沈黙が流れる。


 ロイドは、これ以上追及するのをやめた。父親として、その先まで聞くのはあまりに気まずい。


「……分かりました。今日はもう帰ります」

「……ありがとうございます」




 ◇◇◇




 その夜。リリアンナはロイドとともにルベルハルト邸へ帰り、ガレスもヴァルグレイブ邸へ戻った。


 時刻はすでに遅い。使用人たちも下がり始めている。だが、ガレスには一つだけ済ませておきたいことがあった。


「レオン」

「はい」

「国王へ、至急で謁見を願い出たいです。ルベルハルト家との婚約について報告したいと」


 レオンが顔を上げる。それだけで事情を察したらしい。


「承知いたしました。では、閣下名義で謁見願いを整えます。今夜のうちに王宮へ届けるよう手配いたします」

「お願いします」


 レオンはすぐに必要な書類を用意するため、部屋をあとにした。


 決めたのなら、もう先延ばしにするつもりはなかった。


 ——今度こそ、誰の前でも婚約者としてリリアンナの隣に立つために。

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