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男を狂わせる魅了の祝福を持つ令嬢は、野獣と恐れられる辺境伯様と三か月の仮婚約をしたら溺愛されました  作者: 紳士テニス


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改稿中☆33 悪評を覆す作戦会議

※現在、改稿作業を進めています。


第1話から順番に、改稿版へ差し替えております。

差し替えが完了した話から、こちらの前書きは外していく予定です。

物語の大筋に変更はありませんが、細かな描写や内容については、改稿前と改稿後で異なる部分があります。

「さて、リリアンナ様の悪評を覆す、と仰いましたが」


 執務室へ移った二人は、応接用の長椅子に低い卓を挟んで向かい合った。


「一体何のことでしょう」


 レオンが知っているのは、リリアンナが『ワケありで縁談が進まない令嬢』という情報だけだ。


 ガレスは椅子に深く腰を下ろすと、これまでリリアンナから聞いた話を順に説明した。


 レオンは時折、眉をしかめながら話を聞いていた。


「……ふむ」


 しばらく考え込んだあと、口を開く。


「ずいぶんと理不尽な話ですね。祝福はリリアンナ様ご自身が望んで得たものでもなければ、男性方を惑わせようとなさったわけでもないのでしょう」

「はい」

「それなのに、責任だけがリリアンナ様に押し付けられた、と」

「だから、覆したいです」

「ええ。それは私も賛成です」


 レオンも頷いた。


「それで、どのようになさるおつもりですか」


 返事がなかった。


「閣下?」

「…………」

「……閣下」

「……今、考えています」


 レオンの目が細くなる。


「とりあえず覆すと宣言しましたね?」

「その通りです」


 ガレスは悪びれもせず頷いた。


 レオンはしばらく主人の顔を見つめていたが、やがて深く息を吐く。


「……まあ、そんなことだろうとは思いました」

「なのでレオンに相談しています」

「分かりました。では、ちゃんと考えましょう」


 レオンは手を打って、気持ちを切り替えた。


「ただし、悪評の当事者はリリアンナ様です。ご本人を抜きに決めてよい話ではありません」

「……確かに、そうですね」

「それからハンス殿にも参加していただきましょう。ヴァルグレイブ家として何ができるかを考えるなら、あの方がいたほうが話が早い」

「ええ」


 そこでレオンは窓の外へ目を向けた。夜明けの空が次第に明るさを増していた。


「その前に、少し休みましょう。頭が働かない状態で考えても、ろくな案は出ません」

「では、後ほど改めて四人で」


 こうして、リリアンナの悪評を覆すための作戦会議は、数時間後へ持ち越されることになった。




 ◇◇◇




 数時間後。


 短い眠りと遅めの朝食を挟んで、四人はふたたびガレスの執務室に集まっていた。


 ガレスとリリアンナが並んで長椅子に座り、向かいにレオンとハンスが腰掛けた。


「悪評をどう覆すかを考える前に、確認しておきたいことがあります」


 レオンがそう切り出すと、三人の視線が集まった。


「リリアンナ様の『魅了の祝福』については、今朝、閣下から伺いました。八つのときに、男性方が騒ぎを起こしたことも」

「……はい」


 リリアンナは静かに頷いた。


「デビュタント前にリリアンナ様に悪い噂が立ったこと自体は、それほど不自然ではありません。実際に騒ぎは起きていますので。私が引っかかっているのは、その先です」


 レオンは指を一つ立てた。


「私はリリアンナ様がこの屋敷にいらしてから、何度もお話ししました。礼儀も教養も申し分なく、慎み深く、節度をわきまえていらっしゃる。世間で噂されるような、男性をもてあそんで喜ぶ女性にはとても見えません」


 ガレスが当然だとばかりに力強く頷いている。ハンスも穏やかに目を細めた。


「私も同感でございます。リリアンナ様と実際に接した者であれば、少なくとも噂とのあいだに隔たりがあることには気づきましょう」

「そう、そこなのです」


 レオンは頷いた。


「最初に悪評が立ったとしても、社交界に出続けていれば、リリアンナ様ご本人と接する者は増えていくはず。そうすれば『噂ほどひどい令嬢ではなかった』という声が出てもおかしくありません」


 一度広まった噂は簡単にはなくならない。それでも人の評価が、ここまで悪い方向へそろい続けるものだろうか。


「それにリリアンナ様は伯爵令嬢です」


 ガレスが首を傾けた。


「それがどうしました?」

「伯爵家の令嬢を、誰もが好き勝手にないがしろにできるわけではない、ということです。好かれているかどうかは別の話ですよ。家同士の付き合いもあれば、礼儀として言葉を交わさなければならない場面もあるでしょう。……ですが、リリアンナ様はそうではなかった」

「そう、ですね……。男性に話しかければ色目を使うなと言われましたし、女性にご挨拶をしても、最低限のお返事だけでその場を離れてしまわれるか……中には、話しかけても聞こえないふりをなさる方もおりました」


 語尾が小さくなっていく。ガレスの瞳の鋭さが増した。


 何度聞いても、リリアンナが社交界で受けた扱いには腹が立つ。


「それはやはり妙ですね。これだけの家格があって、ご本人にも何の問題もないというのに、どうしてそこまで失礼な態度をとれるのか。閣下のように、見た目が怖くて令嬢に逃げられるのは防衛反応ですから仕方ありませんが」

「どうしてそこで俺がおとしめられるんですか」


 レオンは主人の抗議をまったく無視して、話を続けた。


「私には、最初の事件の余波だけでここまでになるとは思えません。悪い噂だけが広がるのも、誰もがリリアンナ様に冷たく当たるのも、祝福以外に原因があるのではないかと」


 リリアンナが、はっと顔を上げた。


 誰からも相手にされなかったことも、何をしても悪く言われたことも、すべて自分の祝福のせいだと思っていた。けれど、レオンはそこを疑っている。


「黒幕がいると決めつけるわけではないですが。例えばルベルハルト家と敵対的だった家や、リリアンナ様に執拗に攻撃してきた方などはいらっしゃいませんか」

「攻撃……」


 悪意のある視線や言葉も、数えきれないほど浴びてきた。だが一人だけ、鮮明に思い浮かぶ顔がある。


「……デボア様」

「デボア?」

「デボア・バーリンガム侯爵令嬢です」


 その名を聞いた瞬間、三人の表情が険しくなる。


「皆様、ご存じなのですか」

「……以前、ヴァルグレイブ家と縁談の話があった方でございます」


 ハンスが補足する。


「顔合わせのお食事の席で、我が家の料理をはじめ、辺境領のありようにいたるまで、随分と率直なご感想をいただきました」

「料理を家畜の餌のようだと言われて、散々こき下ろされたのが……率直?」

「使用人としては、これ以上申し上げにくいのでございます」


 ハンスの答えにリリアンナはどう反応するべきか迷った。


 どうやらデボアは、ヴァルグレイブ家にも強烈な印象を残していたらしい。


「ただ、以前から印象が悪かったからと言って、決めつけることはできません」

「分かっています。ですが、リリアンナの悪評を覆すのに、祝福以外の原因があるなら、調べないわけにはいきません」


 レオンの言葉に、ガレスははっきりと答えた。レオンが大きく頷く。


「その通りです。原因があるのなら、それを取り除かないかぎり、リリアンナ様の悪評はなくならない可能性がございます」


 方針は決まった。問題はその次だった。


「……誰が調べますか」


 ガレスの問いに、部屋が静かになる。


「わたくしから、父にお願いしてみます」


 リリアンナが口を開いた。


「父ならば、わたくしが社交界にいた頃のことも多少は把握しておりますし、知り合いの方に尋ねることもできるかと」

「お待ちください」


 レオンは首を振った。


「悪評を広げている者が、ルベルハルト家の近しい人物である可能性もゼロではありません。それに伯爵が動けば、相手に警戒されることも考えられます。原因が判明するまで、私たちで動いた方がよろしいかと」

「……わかりました」


 リリアンナは小さく頷いて、引き下がった。


「閣下、王都の社交界で噂を探る伝手はおありですか」

「ないです」

「そうですよね」


 ヴァルグレイブ家は、目の前に敵がいるなら強い。だが、姿の見えない噂を追い、貴族たちの思惑を探り、社交界の裏側から情報を拾い集めろと言われると、途端に勝手が違った。


「調査は協力を仰げる方を探すとして、もう一つ考えるべきことがあります。原因があろうが祝福のせいだろうが、リリアンナ様の悪評そのものは、それだけでは消えません」


 リリアンナは背筋を正した。


「はい」

「悪評を覆すには、結局のところ、リリアンナ様ご本人を見ていただくしかないと思います」


 ガレスは眉を寄せる。


 それはつまり、彼女をふたたび社交の場に立たせるということだ。悪評を覆すと言った以上避けては通れないのは分かっている。それでも、彼女が社交界でどのような目に遭ってきたのかを聞いた今、できることなら近づけたくなかった。


 だが、閉じ込めて守ることが彼女の望みでないことも、ガレスには分かっていた。


「ですが、いきなり大勢が集まる夜会へお連れするのは危険です」

「……では、うちで催しを開くのは?」


 ガレスが問うと、ハンスは困った顔をした。


「難しいかと存じます。まず場所がございません。人手も足りませんし、何より我が家には、大規模な社交行事を主催した経験がほとんどございません」

「……そうですか」


 ガレスはがっくりと項垂れる。


「ならば、どこかの家が主催する場へ出るしかありません。ただし、事情も知らない方の催しへ、突然参加するのは避けるべきでしょう。まずは事情をお話ししたうえで、協力してくださる方を探すべきだと思います」

「協力してくださる方……」

「できるなら、社交界で影響力のある方で。家格が高く、顔が広い。そして噂だけで人を判断しない方」


 ハンスがそこへ言い添える。


「女性方から一目置かれている方なら、なおよろしいでしょうな。礼儀や教養に厳しい方であれば、リリアンナ様を実際にご覧になった際に、公平に評価していただける可能性も高うございます」


 リリアンナは強く頷いた。


 そのような機会があって、自分の礼儀や教養で判断してもらえるなら、七年かけて身につけたものを、すべて出し切るつもりだった。


 ガレスは目を閉じ、しばらく考えていた。


「……クロード殿下に相談してみようと思います」


 リリアンナが目を瞬く。


「クロード第一王子殿下ですか」

「はい。殿下なら貴族たちの事情に詳しいので、希望する協力者に心当たりがあるかもしれません」

「リリアンナ様の悪評が広がり続けた原因も、調べる手立てがいくらでもありそうですね」


 レオンも賛同する。ただ一人、リリアンナだけが心配そうな顔をしていた。


「クロード殿下に、そのようなお願いをしてもよろしいのでしょうか」

「大丈夫です。幼馴染なので」


 迷いなく言い切るガレス。リリアンナは思わずレオンとハンスを見るが、二人はそろって苦笑いを浮かべていた。




 ◇◇◇




 その日のうちに、ガレスは執務机に向かった。


 クロードへの手紙を書く。


 まずは婚約を決めたことの報告と、仲介への礼。


 それから今日話し合ったこと——リリアンナの悪評に祝福以外の原因がある疑いと、デボア・バーリンガム侯爵令嬢について。最後に、彼女がふたたび社交界へ出るために、協力を仰げる人物について助言をもらいたいこと。


 一つひとつ書き記し、面会を願う言葉を添える。


 乾ききらないインクの上へ、蝋を落として印を押した。


「これをクロード殿下へ。直接お届けするように」

「かしこまりました」


 手紙を受け取った使者が執務室を出ていく。ガレスは閉じた扉をしばらく見つめていた。


 剣で斬ることも、力でねじ伏せることもできない。ここはガレスの戦場ではない。それでもリリアンナのためなら勝ってみせる。


 そのための最初の一歩が、王宮へ向けて送り出された。

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