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男を狂わせる魅了の祝福を持つ令嬢は、野獣と恐れられる辺境伯様と三か月の仮婚約をしたら溺愛されました  作者: 紳士テニス


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改稿中☆閑話①――辺境伯邸の一幕

※現在、改稿作業を進めています。


第1話から順番に、改稿版へ差し替えております。

差し替えが完了した話から、こちらの前書きは外していく予定です。

物語の大筋に変更はありませんが、細かな描写や内容については、改稿前と改稿後で異なる部分があります。

【子犬の名前】


「だから、フェンリルが格好いいだろうが!」

「ふざけるな! 金狼姫のほうが強そうだ!」

「ポテト!」


 談話室に怒号が飛び交っていた。


『フェンリル』『金狼姫』『ポテト』『ヴァルグレイブ号』『つよい丸』


 それぞれが思い思いの名前を叫んでいる。


(……これは会議なのかしら)


 リリアンナは椅子に座り、膝の上の子犬を抱き直した。


 先日、屋敷探検のときに保護した子犬だが、親犬も飼い主も見つからなかったので、屋敷で正式に飼うことになった。


 リリアンナは子犬の名づけ会議に呼ばれたのだが、白熱しすぎて喧嘩のようになっている。


 隣でガレスが腕を組んで、無言で会議を見守っていた。


「この子は女の子なんですから、もっと可愛い名前にしましょうよー!」


 兵士たちにまざって、エマが負けじと声を張り上げている。


「じゃあ、可愛い魔狼姫で」

「どこがだ!」


 会議の熱はさらに高まっていく。そのときだった。


「きゅうん」


 膝の上から子犬が身を乗り出し、ぱたぱた尻尾を振っている。視線の先にはガレスがいた。


「あら、辺境伯様のところへ行きたいようです」

「……俺、ですか」


 止める間もなく、子犬はリリアンナの膝を蹴って跳んだ。そのまま傷だらけの太い腕の中へ、すとんと納まる。


 まったく怖がることなく、綿毛のような身体が丸くなって落ち着いてしまった。


「おお! 閣下を怖がってねえ!」


 バルドが感心して言った。


「なんかリリアンナ様みたいっすね」

「たしかに。全然怖がらないもんな」

「リリアンナ様……」


 誰かが呟く。


「リリアンナ……リリィ、とか?」


 一瞬、部屋がしんと静まり返った。


「「「それだーーーっ!!」」」


 大きな歓声が部屋を揺らす。


「……い、いいのですか?」

「いいと思います」


 一人だけ困惑しているリリアンナの横で、ガレスは満足そうに頷いて、リリィを撫でている。リリィも嬉しそうに尻尾を振った。


 こうして辺境伯邸に、リリィという新たな家族が加わったのだった。




 ◇◇◇




【大きすぎる屋敷】


 リリィの名づけ会議から、さらに数日。


「……また増えている」


 廊下の長椅子の上に、見覚えのないクッションが置かれていた。


 ガレスは足を止めて、それを見下ろす。屋敷のあちこちで、クッションや踏み台を見かけることが増えた。


 首をひねりながら歩き出すと、談話室から声がする。


「では、ここにもクッションを置きましょう」

「ありがとうございます、フィーネさん」


 中を覗くと、フィーネと使用人、それにリリアンナが長椅子の前に立っていて、一緒にクッションを眺めていた。


「どうしたのですか」


 ガレスが声をかけると、三人が一斉に振り返る。


「ああ、旦那様。実はリリアンナ様用にクッションを用意していたのです。この屋敷の家具はリリアンナ様には少し大きいので」

「……大きい?」


 ガレスの眉が動いた。


「食堂の椅子は、そのままお掛けになると足が床に届きません」

「こちらの長椅子も、背もたれまで下がると足が浮いてしまいます」

「浴室の湯船も大きいので、お一人で入るのは危ないです」

「……」


 フィーネと使用人の報告に、ガレスの表情が険しくなっていく。


「辺境伯様? わたくしは困っておりませんよ。皆様がこうして工夫してくださっておりますので」


 リリアンナが笑ってフォローしたのだが——。


「……すべて、作り直しましょう」

「はい?」

「家具の大きさをすべて、リリアンナ嬢に合わせます」

「旦那様、落ち着いてください!」

「湯船はもちろん、階段の段差も危ないです。屋敷も立て直さねば」

「そこまでですか!?」

「危険でしょう」


 ガレスは至極真面目な顔だった。


 暴走するガレスを、フィーネと使用人とリリアンナが三人がかりで説得する。途中からハンスも説得に加わってくれて、最低限の家具だけ直すことで話は落ち着いた。


 ガレスもしぶしぶ納得したはずだった。


 ——ところが翌日。


 談話室に入ったリリアンナは目を丸くした。長椅子にクッションが山ほど積まれている。


 誰がやったのか、考えるまでもない。リリアンナは、部屋の隅に立っている大男へ顔を向けた。


「……辺境伯様?」

「……」


 ガレスは無言で目を逸らした。




 ◇◇◇




【リリアンナ様を奥方様にお迎えする会】


 リリアンナが屋敷に来て一か月が立った頃。


「では、本日の定例会議を始める」


 文官の仕事部屋に声が響いた。


 三人の文官が黒板を囲んでいる。黒板の上には大きく文字が書かれていた。


『リリアンナ様を奥方様にお迎えする会』


「まずは近況報告から」

「はい。一昨日の夕食時、閣下からリリアンナ様へ話題を振った回数が五回でした」


 部屋の空気がどよめく。


「五回!?」

「素晴らしい成長だ……」

「次の報告だが。実は最近、リリアンナ様が書庫で本を読まれている際に、高確率で閣下がお茶にお誘いしている」

「な、なんだって……!」

「どうやらリリアンナ様は、一度読書を始めると没頭して時間を忘れてしまうらしく、疲れてしまうのを心配した閣下が声をかけるようになったそうだ」

「閣下がそんな気遣いを……」

「あれでかなりの心配性だから、それが上手く作用しているんだな」


 三人は頷き合う。最年長の文官が、黒板に白墨を走らせた。


『今後の作戦』


「まず、今のところおおむね順調といったところだが、閣下が暴走しないよう注意が必要だ」

「現時点で、もう何度も暴走していますけどね……」

「あとは照れると仕事へ逃げるのも問題だ」

「執務室への退路を断つか」

「いや、それはさすがに……」

「甘い。残り二か月だぞ」

「一度、閣下に自覚を持ってもらうための話し合いの時間が必要だな」

「閣下がお一人のときに捕まえますか」

「総力戦だな」

「いや……無理だ。寝ているところを闇討ちしよう」

「討つのは駄目だが……。まあ、それくらいの勢いでいくぞ」


 白墨が激しく黒板を叩く。


 そのとき、扉が開いた。


「失礼します。予算書について相談が……」


 文官三人の肩が跳ねる。入ってきたのはガレスとレオンだった。


 二人の目が黒板へ向かう。


『観察』『退路を断つ』『閣下を追い込む』『総力戦』『闇討ちも視野に』


 しばらく眺めていたガレスは、真剣な顔で三人を見た。


「……もしかして、謀反ですか」

「…………」


 文官たちは黙った。状況を理解したレオンだけが、後ろで肩を震わせていた。

リリィは、ポメラニアンのような、もこもこで茶色い毛のメスの子犬です。

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