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食べられるもの

「さてと……じゃあ、王都へ行かないといけないわね」


紅茶を飲みながら、レティシアは面倒くさそうにため息をつく。


「王都へ?」


お菓子を口に運びながら、ラウタは首を傾げた。

 

「そうよ。王候補を選んだら、連れて王都へ来いって言われてるの」

「……なぜだ?」

「そりゃ、貴族の前で紹介するためよ。これが、次の王候補ですってね」

「……となると、他の候補者もいるのか」

「そりゃね?ライバルたちはたくさんいるわよ。なんせ、あんた以外に六人もいるんだから」

「……そうか」

「ねぇ、ちょっと。あんた、どんだけ食べるのよ」

「ん?」


ラウタはお茶会で用意されたお菓子というお菓子を食べていた。

すでに、皿は五枚も重なっている。


「あんた、ちょっと前まで死にかけてたはずよね?なんでそんなに食べられるのよ」

「食べられる時に食べるのが大事だからだ」

「そんな精神で食べないで!もっと味わってちょうだい!」

「味わってる」


そう言うと、大きく口を開けて、カップケーキを一口で食べた。


「それの!どこが!味わって食べてるのよ!!」


バンッと机を叩き、レティシアは目一杯叫んだ。


「それはね!こだわって作ったのよ!セクンダのために生クリームを甘すぎない絶妙な配分にしたんだから!」

「確かに甘すぎない、美味い」

「そんな一言ですませないで!!」


レティシアは歯ぎしりをしながら、ラウタに文句を言う。


「美味いものを美味いと言って、なにが悪いんだ?」

「敬意を感じないからよ!」

「……敬意」


ラウタは咀嚼したものを飲み込んだ。

それから、皿の上に載ったクッキーを手に取る。

しばらく眺めたあと、今度はゆっくりと口に運んだ。


「……こちらも、甘すぎずに美味い。菓子作りは大変だと聞いたことがある。それをこんなに美味く作るのは素晴らしいと私は思う」

「感想文じゃないのよ!」

「……すまない」

『いいじゃないか、レティシア。これで俺が食わなくてもすむんだから』

 

眠そうにあくびをしながら、ミリアは呟いた。


「あんたが勝手に食べてるだけでしょ」

『ふん、あの量の菓子を保存したところでなんになる?ただ溜まる一方だ。あとで困るのはお前だろ』

「あー!うるさいわね!これはプリマたちのお菓子なの!それのお下がりをもらってるだけなんだから感謝して食べなさいよ!」

『子どものようなことを言うな……あぁ、子どもだったな』

「ほんっっとムカつく!」


一人と一匹が言い争っている中、ラウタは黙々とお菓子を食べていた。

ラウタの人生の中で、こんなに甘いものを食べたのは初めての経験だからだ。

幸せ。

それに尽きる。

しかし、驚くほどに顔に出なかった。


「……これは食べられないのか?」


ラウタはテーブルの中央に置かれたものを指差した。


「え?……ちょっと、本気で言ってるの?」


それは透明なティーポットだった。

透き通ったガラス越しに、たくさんの果物が見えた。


「お茶に浸しているが、中にあるのは果物だろ?」

「……それ、食べる用じゃないわよ?」

「では、なに用だ?」

「香り付けよ!フルーツの風味も紅茶に入って美味しくなるのよ!」

「食べないのに使うのか?」


一瞬、空気が変わった。

レティシアが、ぽかんと口を開けたからだ。


「……あんた、食べることしか頭にないの?」

「食べられるなら、食べるまでだと思っただけだ」

「……あっそ。生きてた世界がほんとに違うのね。食べてもいいけど、美味しくないわよ?」

「そうなのか?」

「美味しい成分が紅茶に溶け込んだし、なにより熱でふにゃふにゃよ?」

「だが、食べられる」


そう言うと、ラウタは近くにあったフォークを手に取った。

そして、ポットを開けると、中の果物にフォークを突き刺し、口に運んだ。


「うわっ、ほんとに食べた……」


引き気味のレティシアを気にすることなく、ラウタは次々と果物を口に運んだ。

熱で柔らかくなった果肉を咀嚼する。


「……うん、食べられる」

「食べ物の感想とは思えないわね……」

『……そういえばレティシア』


まだ引いているレティシアに、ミリアはあくび混じりに声をかけた。


『お前、近くの村のやつから子ども用の服を頼まれていただろう。あれはいいのか』

「え?……あ、やだいけない!村のじじいから頼まれてるんだったわ!王都へ行く前に納品しないと」


そう言うと、レティシアは慌ただしく別の部屋の扉を開き、中に入った。

そして、しばらくドタバタと音をさせたかと思うと、両手に大きな袋を持って、戻ってきた。


「……多いな」

「ほんとよね!十二着も依頼されたのよ!あと、繕い物も頼まれたし最悪よ!」

「……人間嫌いと言ってたのによく引き受けたな」


咀嚼したものをごくり飲み込み、ラウタは問いかけた。

  

「そりゃ、対価があるもの!お菓子作りに必要な小麦粉でしょ?お砂糖もだし、牛乳、卵なんかとも引き換えに頼まれたんだからやるに決まってるじゃない!」

『お前、後のことを考えているのか?』


今まで眠そうに丸くなっていたミリアは、すくりと立ち上がった。


「なにをよ?」

『そんな量のものをどうやって持ち帰る気だ』

「……それは」


チラリとレティシアはラウタに視線を向けた。


「……ねぇ、あんた。体力は回復した?」

「栄養はお前のおかげで充分取れた」

「そうよね!充分すぎるくらいよね!……体力回復するの早すぎて引くけど」


荒野の出来事から、まだ四時間ほどしか経っていない。その間に、風呂で身を清め、食事で栄養補給をすませたが、五日極限状態にあったとは思えないほどの、異常な回復速度だ。


「私、とーってもか弱い女の子なの」

『死体をここまで運ぶ女がか弱いものか』

「黙って!!……だから、運んでくれる人がいたらすごーく助かるんだけどなぁ」


凄まじいほど露骨なアピールである。

これ見よがしに、レティシアはラウタをチラチラと見た。


「……それは命令か?」

「いいえ、お願いよ」

「お願い……命令ではないのか」

「もう、察せない子ね!いいわ!これは命令!村までついてきて!あと、ついでにこれを持って!」


レティシアは、袋をラウタに突き出す。

ラウタは、それを素直に受け取ると特に顔色を変えずに立っていた。


「あら、頑丈ね。重くないの?」

「特段は」

「ふふっ、いい子!とっても便利な荷物係誕生ね!じゃあ、早速行くわよ!」

「あの棒でか?」

「箒!!……まぁ、今回は重いもの多くて、明らかに重量オーバーだから、徒歩よ」

「そうか……どのくらい歩く?」

『およそ、二十分くらいだろう』


するりと、ミリアが二人の会話の間に入ってきた。

 

「ちょっと、私より先に答えないで」

『お前の答えられるわけないだろ。いつも箒で飛んでいくんだから』

「……むっかつく!とにかく、そのぐらいよ!準備できた?できたわね!じゃあ、行くわよ!」


ラウタの返事を待たずに、レティシアは外へ飛び出した。

ぽつんと残されたラウタは、ミリアをチラリと見た。


「……お前も行くのか?」

『行くかボケ。俺は寝ている。そしてさっさと行け、あの女は思い通りにいかないとうるさいぞ』

「そうか」


ラウタは大きな袋を抱え直すと、レティシアの後を追った。

外では、待ちきれないレティシアの催促する声が響いていた。

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