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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第4話 平成元年の小学校。自習時間の密告システム

「カイオー拳!」

「スタンド!オラオラオラ!」


「うわあ!かわいい!」

「あー坊だ!」


 平成元年の教室は、カオスそのものだった。

 男子は少年漫画の技名を叫び、女子は新作文房具に色めき立つ。


 担任の大山が急病で病院へ向かった昨日、そして遅刻が確定している今日の一時間目。


 自習という名の「無法地帯」で、俺は一人、教科書をなぞりながら人生の再設計に耽っていた。


 前世、俺は二十八で死んだ。

 きっかけは高二の頃。ストレスと不摂生、食に対する無頓着からの慢性腸炎。


 弱り始めた体を引きずり、ブラック企業で心身を擦り切れさせた末の、入院生活。


 一時退院中に訪れた、あっけない心筋梗塞。

 親を残して逝く不孝を二度と繰り返すつもりはない。


「なあ、八木……俺の名前、消してくれよ!」

「私のも!もう静かにするからさ!」


 学級委員・八木の周りに、悪ガキどもが群がっている。

 大山の言い付け――『騒いでいる奴の名前を記録しろ』という、陰湿な密告制度。


 そのリストに載ることは、即ち、大山の「教育」を受けることを意味する。


「やめろよ、八木……! 大山に『もみじ』されちまう!」

「……だめだよ、先生に言われてるから」

「くそ!この、わからずやめ!」


 その切実な悲鳴が響いた瞬間、教室の空気が氷点下まで下がった。


 担任・大山滝子が入ってきたのだ。




「――ほら、背中を出しなさい」


 昨日、あれほど無様に床を這いずった大山が、引きつった笑みを浮かべて立っていた。


 病院帰りかなんだか知らないが、その瞳には異常なまでの執着が宿っている。


「自習時間に騒いだ奴は『もみじ』だって、言ったよな?」

 逃げ場のない教室。誰もが息を呑み、視線を逸らす。


(……学習能力のない女だ)


 俺は子どものやんちゃは極力、見逃すが、大人には、そうはいかない。


 机の下で、指を構えた。




「また倒れた……」

「昨日から変だぞ、大山」


 悪ガキたちの間から、嘲笑とも恐怖ともつかない囁きが漏れる。


 大山は歯を食いしばり、床に手をついた。

 怒りではなく、もはや強迫観念。


「子供を力で屈服させなければならない」という歪んだ教育者のエゴ。


 俺は静かに、その女へ冷徹な視線を送った。


(こんな狭い箱庭で、いつまで同じ茶番を繰り返すつもりだ?)


 平成という時代は、いずれ変わる。


 暴力が「指導」と呼ばれた狂った時間は終わり、やがて教師という職種そのものが、かつての教え子たちの目に怯える日が来る。


 そんなとき、こいつは過去の『もみじ』をどう思うだろうな。

 なかったことにして、隠すだろうか。

 密告に加担した、いや、させられた学級委員たちも、何かを思うだろうか。


(……少なくとも、俺の前では呪いを潰させてもらう)


 もう一度、指弾を撃ち、大山の頭を揺らした。


「うっ……あ、が……」


 今度は立ち上がるどころか、視線すら定まらず、大山は無様に床をのたうち回る。

これで今日の「もみじ」は閉廷だ。


(こいつはどうでもいい。……それより、二十八――)


 心臓が止まる直前の、あの冷たい重圧。

 あんな惨めな終わり方は、もう、真っ平ごめんだ。


 身体を鍛え直す。生活を正す。


 俺の人生を二度と「壊させない」。

 担任の呻き声が響く教室内で、俺はただ、人生への呼吸を整えていた。


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