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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第35話 平成元年、友達

「はい、できた。着てみて」


 薄いピンク色のリボンは、元の場所へ綺麗に縫い付けられている。


「ありがとう……」


 下館亜里はそれを受け取った。


 数分後。


 着替えを終えた亜里はベッドの端に腰掛け、襟元に手を触れる。


「すごい……」


 リボンは元通り、どこがほつれていたのかも分からない。


「ちょうど色の合う糸があったから」

 真佐奈は照れくさそうに言った。


「……もうダメだと思ってたの」

 亜里は指先でリボンを撫でた。

 それだけで安心する。


「……ごめん」

 ぽつりと呟く亜里。


「なんで?」


「急に来ちゃって……。お風呂も、邪魔しちゃったよね……」


「いいのよ。もう出るところだったもの」


 真佐奈は即答した。


「この時間、いつも入ってるの?」


「お休みの日はね。合気道の朝稽古してくるから」


「え?……合気道してたんだ?」


「うん」


「いつから?」


 少し、視線を逸らす真佐奈。


「今月からよ。慎太くんみたいに……ううん、自分の身は守れたらなって」


 亜里は目を見開く。


「真佐奈も、見たことあるんだ……!慎太くんの、ああいうところ」


 その時だった。


 コンコン。


 ドアがノックされる。


「入るわね」


 真佐奈の母だった。


 トレイには湯気の立つ紅茶と、白いケーキ。


「食べられそう?」


 優しい声。


 亜里は小さく頷いた。


「よかった」


 母親は微笑む。


 何も聞かず、テーブルへ置いていく。


「ゆっくりしていってね」


 そう言って部屋を出ようとした。


 ふと思い出したように振り返った。


「あら、そういえば慎太くんだったかしら」


「え?」


 目を瞬かせる真佐奈。


「あの子の影響なのかな?『友達みたいに強くなりたい』って合気道、始めたり」


「そ、そうだったね」


「ガンダム見たり」


「あ、それは!」


「お洒落し始めたり」


「お母さん!!」


 真佐奈の顔が真っ赤になる。


 母親は楽しそうに笑った。


「ちなみにガンダムは面白かったの?」


「……よく分からなかった」


「あら」


「『二度もぶった!』のところで挫折しちゃった……」


 母親はさらに笑った。


「ふふ、健気ねえ」


 そう言って部屋を出ていった。


 ドアが閉まる。


 しばらく沈黙。


「……」


「……」


 紅茶の湯気が揺れる。


 やがて。


「……慎太くん、かっこよかったよ」


 ぽつりと亜里が言った。


 真佐奈の肩がぴくりと動く。


「そ、そうなんだ……」


「うん」


 亜里は頷く。


 壊れたドア。


 飛び込んできた黒い影。


 迷いのない拳。


 自分を抱き上げてくれた腕。


 そういえば。


 駅前からここまで。


 ずっと抱きかかえられたままだった。


「真佐奈はすごいね」


「え?」


「……男の子を見る目もあって」


「な、何それ」


 真佐奈は困った顔をする。


 だが亜里は真面目だった。


「私、全然ダメだ」


 視線が落ちる。


「先生だからって……信じちゃった」


 声が震える。


「真佐奈の言う通りだったよ。私、全然、わかってなかったんだ……」


 うつむいたまま小さな手をぎゅっと握りしめている亜里。


 真佐奈は何も言えなかった。


 悪いのは亜里じゃない。


 慎太たちと一緒に作った漫画の言葉を思い出す。


『大人が全力で演技したら、大抵の子どもは見破れない』


 でも今は、正論でも慰めの言葉でもない。別のものが必要な気がした。


「ねえ、ケーキ食べよ」


 真佐奈の声に、亜里は顔を上げた。


 上品なレースのペーパーナプキンに載った、白く美しいケーキ。


「……うん。……あ、これ、前も……鎌倉山のチーズケーキ!」


 さっきまで涙をためていた亜里の瞳が、一瞬でパッと輝く。


「お母さん、とっておき出してくれたのね」


「うれしい!……真佐奈のママ、ありがとー……」


 フォークを手に取る亜里の横顔を見て、真佐奈はそっと胸をなでおろした。


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