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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第34話 平成元年、真佐奈の家

 白い塀に囲まれた二階建ての家の前で、サングラスの少年は足を止めた。


 周囲の住宅より一回り大きい敷地。


 手入れの行き届いた庭木。


 門柱には、佐々木の表札が掲げられている。


 下館亜里は少年の腕の中で、小さく震えていた。


「……着いたぞ」


 返事はない。


 しゃくり上げる声だけが続いている。


 そっと地面へ降ろすと、亜里はふらつきながらも自分の足で立った。


「押せるか?」


 門柱のインターホンを見る。

 その上には、まだ珍しい小型カメラが据えられていた。


 亜里は小さく頷く。


 震える指がボタンを押す。


 ピンポーン。


 しばらくして、スピーカーから女性の声が聞こえた。


『はい、佐々木です』


「あ……」


 亜里が口を開く。


 だが声が出ない。


 喉が引きつったように震えるだけだった。


『……亜里ちゃん?』


「あ……あ……」


 涙が溢れ、言葉にならない。


 少年は一歩前に出た。


「白羽丘小学校五年三組の坂本慎太です」


 一瞬の沈黙。


『真佐奈のお友達かしら?』


「同級生です」


 慎太は淡々と続ける。


「真佐奈さんはご在宅でしょうか」


『ええ、いるけれど……』


「下館亜里さんを連れてきました。彼女を、少し休ませていただきたくて」


『亜里ちゃんを?』


 間が空いた。


 そして、


『真佐奈、今、お風呂に入っているの。呼んでくるから、待っていてね』


 インターホンが切れた。


 亜里が顔を上げる。赤く腫れた目を丸くしていた。


「し……慎太、くん……?」


「ん?」


 さっきまで気づかなかった。


 いや、気づく余裕がなかった。


 彼は、いつの間にかサングラスを外していた。


「慎太くん……だったの……?」


 亜里は混乱したまま固まる。


 本当に同じクラスの慎太なのか。


 小柄な大人かと思っていた。


「なんで……」


「なんだ、シャアの正体を知ったセイラのような反応だ」


「え……?なに、シャアって……」 


「キャスバル兄さんだ。ちなみにセイラの正体はアルテイシア。二人は生き別れの兄妹で……」


 突如、早口で説明を始める慎太。

 ぽかんとする亜里を意に介さず熱弁を振るう。


 五分ほど経った。


「俺のサングラスも、何を隠そうシャアのもう一つの姿、クワトロ・バジーナ大尉の……」


 その時。


 玄関の扉が開いた。


「慎太くん!亜里、どうしたの!?」


 飛び出してきたのは、真佐奈だった。


 風呂上がりを慌てて出てきたのだろう。艶やかな髪に、肌はほんのり桜色に色づいている。


 その後ろには、母親も姿を見せる。


 真佐奈が駆け寄った。


「亜里!」


 亜里の顔を見る。


 泣き腫らした目。


「何があったの!?」


「あ……」


 亜里の唇が震える。


 そして。


「ま、さなぁ……」


 堰を切った。


「うわぁぁああんっ!!」


 真佐奈へしがみつく。


 子どもらしい大泣きだった。


「えっ、ちょっ……亜里!?」


 真佐奈は慌てる。


 だが離さない。


 亜里の指は服を掴んだまま震えていた。


 真佐奈の母が静かに歩み寄る。


 慎太を見ると、彼は軽く一礼した。


(……こんな子がいるのね)


「真佐奈。亜里ちゃんをお部屋へ」


「う、うん」


 真佐奈は頷く。


「突然、悪かったな」


 慎太が言った。


「え?」


「裁縫、できるか?」


「うん。できるけど……?」


 慎太はウエストポーチから薄いピンク色のリボンを取り出した。


「これ、下館の服に付け直してやってくれ」


「……!」


 真佐奈の顔が強張る。


 それは、先月、亜里が誕生日会で見せていたリボンだった。


『この服ね!リボン、可愛いでしょ!今日だけ着て、あとは大事な日までとっておくんだ』


 無惨に引き抜かれたリボン。

 亜里の襟元は、ほつれていた。


「ギリギリ連れ出したが、親にも話したくないようだ。……俺はまだ片付けがあるから」


「あ……矢田沢先生の……?」


 母親に聞こえないような、呟き声。


 慎太は答えない。


 ただ一度だけ目で頷いた。


 真佐奈は息を呑む。


「頼んだ」


 慎太は踵を返した。


「あ、待っ――」


 呼び止めるより早く。


 黒いシャツの背中は門の向こうへ消えていった。


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