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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第32話 平成元年、日曜日の約束

 放課後の図書室、開放時間。


「あのね、琴子ちゃんの書いた漫画、欲しくなってコピーしようとした子がいたの……」


 真佐奈の言葉に、琴子が顔をしかめた。


「え……なんか、やだな。勝手にされるの」


「うん、そうだよね。……でもね、その子、結局コピーできなかったって」


「良心がとがめたってこと?」


「ううん、そういう意味じゃなくて、したけど、真っ黒になって出てきたらしいの」


 真佐奈の答えに、琴子が息を呑む。


「……そんなことある?」


「その子、何回もコピーしようとして十円玉、何枚も無駄にしちゃったから、私に聞いてきてさ。どうなってるの?って」


「私は何もしてないわ。慎太、あんた、何かしたの?」


「ふん、自業自得だ。巻末に『禁無断転載・コピーお断り』と明記してあるだろうが」


「そう、私もその子には注意しておいたけど……。でも、そんな仕掛け、どうやったの?」


「そんな難しいもんじゃない。再帰反射を……いや、企業秘密だな、これは」


「えーー、気になる!教えてよ!」

「やっぱり、慎太くんが……」


「どっちにせよ、他のやつには再現できない。聞く意味はないだろう」


 琴子と真佐奈は目を見合わせた。

 目の前の男子は、ときどき、よくわからないことをやってのける。


 慎太は構わず、大きく字の手本を書いていく。


 気を取り直すように、真佐奈がつぶやいた。

「……亜里、矢田沢先生の家に行ったりしないよね……?」


 首を横に振る琴子。

「さすがに大丈夫でしょ。会わないうちに熱も冷めたろうし」


 女子二人は慎太の反応を待つ。


 慎太は新しい紙を琴子の前に置いた。


「次はこれを書いてみろ」


「え?慎太さ、少しは空気読みなよ。下館さんのこと、どう思うわけ?」


「どうもこうも、俺たちのできることは十分やったろ」


「そうだけどさぁ……大丈夫なのかなってこと」


「わからん」


「えー、冷たい」


「本人次第としか言いようがない。……お前は人のことより、あと一文字、覚えて帰るぞ」


「く……この鬼……」


 慎太と琴子のやり取りを横目に、真佐奈は窓の外に視線を移す。


(本人次第、か。……亜里、大丈夫だよね……)




 その頃。


 ランドセルを机に置いた下館亜里は、何度も部屋の扉へ目を向けた。


 誰も来ない。母親は一階だ。


 そっと手提げ袋から封筒を取り出す。


 心臓がうるさい。


 封を開き、中の紙を広げた。


『下館さんへ


 急に会えなくなってごめんね。


 先生は今、とても反省しています。


 でも、どうしても直接お礼が言いたかったんだ。


 五年三組のみんなにも渡してほしいお土産があるから、よかったら日曜日午前十時に会いに来てほしい。


 前にも話した、駅前のケーキ屋さんのある緑の建物。階段登って一番奥の部屋です。


 返事は大丈夫だからね。


 先生は待っています。』


 読み終えた瞬間。


 胸の奥が熱くなった。


(やっぱり……)


 先生は怒ってなんかいなかった。


 嫌われたわけでもなかった。


 ほっとしてしまう。


 それと同時に、罪悪感が込み上げてくる。


(私のせいで怒られたのに)


 紙を胸に抱く。


 会って謝りたい。


 ちゃんと謝りたい。


 ただ、それだけなのに。


 どうしてこんなに嬉しいんだろう。


 気づけば、机の引き出しから鏡を取り出していた。


 前髪を指で整えてみる。すぐに崩れる。


「うー……」


 もう一度。


 今度は少しだけ上手くいった気がした。


 その時だった。


「亜里ちゃーん、ご飯できるわよー」


 一階から母親の声が聞こえる。


「あっ、ママ!」


 亜里は慌てて部屋を飛び出した。


 階段を駆け下りる。


「なに、どうしたの?」


 母親が不思議そうに首を傾げた。


「ママー! お出かけ用のお洋服って、どこだっけ?」


「え?」


「ほら、この前のお誕生日に買ってもらったやつ!」


「ああ、あのリボンのついたワンピース?」


「うん!」


 母親は目をぱちくりさせた。


「急にどうしたの?」


「えっと……日曜日、お出かけするの」


「ふふっ」


 母親が口元を押さえる。


「なに?」


「別に?」


「もう!」


 亜里が頬を膨らませる。


 母親は楽しそうに笑った。


「もしかして、デート?」


「ち、違うもん!」


 顔が一気に熱くなる。


「ちょっと駅前に行ってくるだけだもん」


 母親の笑顔が少し曇った。


「……駅前? 一人で大丈夫?」


「と、友だちと一緒だから」


「今、駅前は再開発だとかで、ガラの悪い地上げ屋が多いから……」


「大丈夫。そういうのには近づかないから」


「そう。せっかくなら綺麗な格好して行きなさい」


「うん!」


 曇り一つない、満面の笑みで頷いた。


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