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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第27話 平成元年、R10推奨漫画

「あ、慎太もなかなか絵、上手いじゃん」


 公民館の和室。

 俺の差し出したネームに目を走らせながら、琴子が漏らす。


「ああ、俺、つくば科学万博のタイムカプセルに『将来の夢・漫画家』ってハガキ書いたくらいだから」


「それなら、あんたが漫画書けばいいのに。……え、いや、でもこれさ……」

 琴子が紙をめくる手を止めた。

 数秒の沈黙の後、彼女は引きつった笑みを浮かべて俺を振り返る。


「ちょ、慎太、これまずいでしょ!島耕作じゃないんだから!」


「……え?」

 真佐奈が素っ頓狂な声を上げた。

「しま、こうさく……? なにそれ、ジャンプの漫画?」


「違うよ真佐奈、お父さんの読む『モーニング』っていう大人の雑誌のやつ!これさあ、慎太、やってること完全にそれじゃん!ベッドのシーンとか生々しすぎるって!小学生が描いて学校で回すレベルを超えてるって!」


「これくらいは描かないと、矢田沢の異常性が下館に伝わらなくないか?R10指定くらいだろ、この程度なら」

「なによ、R10って。意味わかんない。……あれ、真佐奈?」


 真佐奈は、俺の描いたネームを両手で持ったまま、カチコチに固まっていた。

「あ、こ、こんなこと、恥ずかしくないの……? キス?え?舌?え、なにこれ?ここ、大きくなってるけど……?」

「お前、ジャングルの王者ターちゃんとか、シティハンターとかで見たことないの?それに比べれば普通の大きさだぞ」

「嘘?本当にこうなるの?」


 真佐奈の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

「あ、真佐奈、鼻血出てる……!」

「これで服に垂れるのを防ぐといい。あとは小鼻をしばらく押さえてろ」

「あ……ごめん。ありがとう」

 俺がポケットから差し出したティッシュを真佐奈は鼻に当て、小鼻を指でつまんだ。


「慎太さ、面白いけど刺激が強すぎるよ……。これをそのまま女子の交換ノートに挟んだら、下館さんがショック受ける前に、うちらが変態扱いされるよ」


 琴子の指摘に、俺は息を吐いた。


(この時代、無知な少女たちの性被害がとにかく多かったんだよな……。知識がないところに刺激が強すぎたか)


「仕方ない。もう一つ用意したR6版でいくか」

「そのアールとかって何なの……」

 鼻にティッシュを詰めた真佐奈が、ふがふがとした声でツッコミを入れる。


 俺はファイルから、別のネーム原稿を取り出した。

「さっきのは、即効性のあるR10版。こっちのR6版……つまり、低学年でも読めるマイルド版だ。ホラー読み切りのテイストでいく」

「どれどれ……」


 琴子が新しい原稿をひったくるようにして開き、真佐奈も鼻を気にしながら横から覗き込んだ。


 俺はペンを出して、コマ割りを説明し始めた。

「最初は、きらきらした少女漫画のタッチだ。主人公の女の子の前に、王子様みたいな二枚目の『優しい大人』が現れる。こいつは限りなくハンサムに描いてくれ。それで読者を惹きつけるから」


「うん、わかった。あんたの描く王子様よりは格好よく描けると思うよ」


 そのまま説明を続ける。


「頼む。……で、その王子様は主人公を特別扱いして、可愛いお菓子をくれたり、秘密の宝物をくれたりするんだ。女の子の背景には花を飛ばして、『私、特別に愛されてる!』って有頂天にさせる」


「うん、ここまでは普通の少女漫画ぽいね。……あ、でもこの次のコマ。王子様が女の子を裸にする妄想?」


「そうだ。この『ぐへへ』を書き忘れるな。この時代、一部の女子は『ハンサムな優しいお兄さんはエッチなことを考えない』と勘違いしているフシがある。それを絵で強烈に警告するんだ」


 琴子と真佐奈が息を呑む。

 俺は原稿用紙にペン先を指す。


「そして次。王子様が『二人だけの秘密のお城へおいで』と囁く。女の子はワクワクして、誰にも言わずに部屋のドアを開けるんだ。入った瞬間、黒背景にデカデカと『ガチャン!』という描き文字。鍵の閉まる音だ」


 ページをめくる。


「鍵が閉まった次のコマで、王子様の『優しい顔』の仮面が剥がれ落ちる。琴子、ここは冷徹な大人の顔に変貌させて描いてくれ。『服を脱ぐんだ』『言うことを聞かないと、お母さんたちに君が自分から来たってバラしちゃうよ』ってな。女の子は恐怖で声も出なくて、涙を流してガタガタ震えるだけだ」


「ホラーだね……」

「怖いよ……」

 女子たちが自分の肩を抱くようにして身震いした。


「そして最後、性の描写はしない。その代わり、女の子が大切にしていたお守りやリボンが、床にベリベリに引きちぎられて散らばっているコマを描く。その奥の、部屋の隅で、服が乱れたまま小さく丸まって泣いている少女の黒い影だけを描写するんだ。


メッセージにはこう書く。『一度、閉じ込められたら、大人の力には絶対に敵わない。あんなに優しかった人は、最初から君の体で遊ぶために、優しい人のフリを“全力”でしていただけなんだ』と」


 和室の中が、しんと静まり返った。琴子も真佐奈も、慎太のネームの演出意図を理解していた。


「あとがきはシンプルに。『大人が全力で演技したら、大抵の子どもは見破れない。あなたなら、どうする?』と、読者に問いかける」


 俺は真佐奈と琴子の目をまっすぐに見つめた。


「……慎太……」

 琴子がノートを強く握りしめた。その目には、恐怖ではなく、創作意欲が灯っていた。


「真佐奈も、これなら鼻血出ないよな?女子グループに回せそうか?」

「うん……!」

 真佐奈は鼻のティッシュを抜き、力強くうなずいた。


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