第25話 平成元年、ネタバレへの渇望
放課後の緑地公園。
赤いナショナルの自転車を漕ぐ少女。
佐々木真佐奈が公民館の駐輪場に停める。
階段のところで、一人の少女が漫画を読んでいた。
「琴子ちゃん!」
「あ、真佐奈、来てくれたんだ」
「うん、慎太くんが呼んでくれるなんて初めてだし……。琴子ちゃんも来てくれるっていうから」
琴子もへへっと笑う。
「あの失礼なぶっきらぼう男が放課後誘ってくるなんて、珍しいよね。オタク男子たちとゲームとアニメばかりかと思ってたけど」
「ほんと。でも、あの手作り漫画、すごく嬉しかった。ありがとう、琴子ちゃん」
「ううん、真佐奈が元気になってくれたなら、それでいいの。……それに、私はまだあいつの謝罪を聞いてないわ」
「ふふっ、慎太くん、言葉足らずなのよ。もうちょっと説明してくれてもいいのにね」
二人がそんな風に笑い合っていると、
「ゲームのことなら、懇切丁寧に説明してやるんだけどな。お前たち、ゲーム機すら持ってないから話にならない」
階段の下から、ひょっこりと慎太が姿を現した。その手には、ビニール袋。背中にリュックを背負っている。
「うわっ、出た!」
琴子がわざとらしく身構えた。
「ほれ、菓子とお茶」
俺は手早く、二人に手土産を配る。
「あっ、ぬーぼーだ!これ好き!」
「へえっ、慎太、気が利くじゃん!……飲み物は、お茶かあ……」
露骨にガッカリする琴子。
「お前な、人に奢ってもらって失礼なやつだな」
「あのね、コーラかファンタにしてよ。『おーい、お茶』なんて、つまらない」
「わかってないな。『おーい、お茶』は来世紀までロングセラーだぞ」
「そんなわけないじゃん。今年出たばっかりでしょ、これ」
そう思うのも仕方ないか。
俺も前世では同じだったからな。
パリパリと軽い音を立てながら『ぬーぼー』を食べ、缶入りのお茶を飲んで雑談を交わす。
といっても、こいつらはゲームの話が通じないから、あまり話すことなどないのだが。残念な人間たちだ。
延々と『りぼん』や『なかよし』の話をされていても、分かるのは『ちびまる子ちゃん』だけ。
「まる子のおじいちゃん、優しくていいよね」
「ああいうおじいちゃん、欲しかったぁ」
暇なので盛大にネタバレしてやる。
「お前らな、リアル友蔵はめっちゃ意地悪だったとしたら、どうする?」
一瞬の沈黙。それから、女子二人の爆笑。
「あはは!なにそれ、全然わかってないよ!慎太は大人しくコロコロとかボンボンでも読んでればいいわ」
「ふふっ、まる子の意地悪なおじいちゃん、見てみたいわ。慎太くんの冗談、面白い」
くそ、事実なのに。こいつらに原作者エッセイ『もものかんづめ』を突きつけたいが、まだ発売してない悔しさよ。
お茶をがぶっと一飲みした俺に、真佐奈が口を開く。
「……それで、お話って?」
「ああ。集まってもらったのは、学校じゃ人目が多すぎるんだ」
「……聞かれちゃいけないこと?」
少し不安そうにする真佐奈。
「いや。大山が『首を突っ込むな』とクギをさしてきたからだ。つまり、矢田沢の件について」
「……そう」
「矢田沢のやつ、おそらく監視なり隔離のペナルティが下されてる。問題は、すでにあいつが下館を手懐けていることだ」
真佐奈が無言で俯く。
琴子はうんざりした表情で相槌を打つ。
「でも、私たちにできることはないでしょ?矢田沢先生だって、授業にも帰りの会にも来られなくなったみたいだし、もう下館さんも大丈夫なんじゃない?」
俺は首を横に振った。
「矢田沢な、下館を自宅に呼ぶ約束をすでに済ませた可能性がある」
「え……嘘……本当に?」
「……変態じゃん」
真佐奈と琴子は、息を呑み、目を見合わせた。




