第21話 平成元年、昼休みの誤解
「あたしはプリプリが好きだなぁ」
「ダイアモンドいいよね!」
五年三組の教室へ戻る頃には、昼休みも終盤。
女子たちは歌番組の話で盛り上がり、男子たちはおぼっちゃまくん。
「ともだち◯こー!」
「ともだち◯こー!」
お馴染みのポーズを真似して大騒ぎする男子たちが、こちらを振り返った。
「どうした?慎太、ノリ悪いな?」
「あ、ああ。いや、ノート見直したいとこあるから、すまん。さいならっきょ」
(大人一回やった後に、ともだち◯こはきつい……!)
自席に戻ると、隣の亀井琴子が何かの絵をノートに描いている。
「お、上手っ……!」
「ちょっ!勝手に見ないでよ!このエッチ!」
「なんでだよ……」
琴子は慌てて絵を隠す。頬を少し赤く染めて、大きな瞳でこちらを睨みつけてきた。
「しかし、めちゃくちゃ上手いな。何の絵だ?」
「え?あんた知らないの?『ときめきトゥナイト』」
「あーー、名前は知ってる。伝説的名作だよな、たしか」
「そ、そうよ。慎太のくせに、よく知ってるじゃない」
「慎太のくせにって……」
「あんた、ぶっきらぼうでゲームの話ばかりしてるから、知ってて驚いただけよ」
悪かったな、ぶっきらぼうで。
しかし、琴子の絵は才能だ。稀にいるという、字はダメだけど絵は天才という類かもしれない。
佐々木真佐奈が教室に戻ってきた。
『先に行くから、お前は少し時間を空けてからこい』と伝えはしたが、だいぶ遅かった。おそらく、トイレで大でもしていたのだろう。
チラリと見ると、真佐奈は照れくさそうにふっと視線を逸らした。
大丈夫だ、トイレは恥ずかしいことじゃないぞ。
騒がしさの中、真佐奈は自分の席へ静かに腰を下ろす。
(……はぁ)
まだ心臓の鼓動が落ち着かない。
――教育実習生、矢田沢。
欲望が見えるような、ねっとりした目。
軽い調子の『可愛い』という言葉。
資料室前、距離を詰めてきた圧迫感。
思い出すだけで、背中がぞわりと粟立つ。
だが、それ以上に頭へ残って離れないのは――
『お前の安全が最優先だ』
北校舎で聞いた、慎太のぶっきらぼうな声だった。
それが何度も脳裏に再生され、そのたびに胸が温かくなる。
時間を潰してから、教室に入ってきたときにも、彼と目が合った。
つい、恥ずかしくて目を逸らしてしまったが、変に思われていないだろうか。
顔を伏せ、前髪で隠すようにしながら、小さく深呼吸した。
すると、
「ねえ、真佐奈」
不意に、横から声が降ってきた。
顔を上げると、そこにいたのは下館亜里だった。
「あ……亜里」
亜里はどこか期待に満ちた顔をしていた。
落ち着かない様子でデニムスカートの裾を指先でいじっている。
「ねえねえ、矢田沢先生となにか話した?」




