表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/37

第20話 平成元年、渡り廊下の二人

「ドア蹴破ってたからな」


 冗談でも何でもなく、本気で言った。

 北校舎の木の扉なら、鍵ごとぶち抜いて一発だ。


「蹴破るって……そんなことしたら、さすがに怒られるよ」

 真佐奈は呆れたように笑ったが、その声はまだ微かに震えていた。


「お前の安全が最優先だ」

 つい、言葉に力を入れてしまう。

 それは俺にとって、前世からの騎士として、あるいはそれ以前に当たり前の優先順位だったから。


「え……?」

 真佐奈が小さく息を呑む音が聞こえた。

 横を見ると、俯いていた。長めの前髪がさらりと流れて、整った横顔を隠す。耳が赤い。

 

 瞬間、彼女は耳に手のひらを当てて塞いだ。


 恐怖からの自律神経の乱れ、ありがちなことだ。


「……調子悪いのか? 教室で休もう」

「う……うん」


 渡り廊下に出ると、湿り気を帯びた風が吹き抜けた。


「界王拳4倍!」

「みんなオラに力を!元気玉!」

 校庭からは、昼休みを惜しんでドッジボールに興じる男子たち。投げるボールに必殺技名をつける掛け声が聞こえた。


 石灰の匂いが風に乗って運ばれてくる。遠くの喧騒が、かえってこの廊下の静けさを際立たせていた。


 並んで歩く真佐奈の歩幅は、いつもより少し狭い。

 矢田沢に詰め寄られたショックが、まだ足元に残っているのだろう。いつも凛としている彼女の肩が、今は頼りなく見えた。


「……そういえば、慎太くん、すごく強いんだもんね。本当にドア、蹴破れちゃうかも」

 少しの沈黙の後、真佐奈がぽつりと言った。


 んん?そっちの話を引きずるのか。

「問題ないぞ。なんなら壊さなくても、あの程度の扉ならピッキングも余裕……いや、なんでもない」

「え?ピッキング……って?」


 真佐奈が不思議そうに小首をかしげる。


「いや、大したことじゃない。とにかく、また矢田沢に何か頼まれたら、ハッキリ断れ。『学級委員は雑用係じゃない』って言ってやればいいんだよ」

「……うん。私ね、『学級委員なんだから、ちゃんとできるよね』って言われると、どうしても断りにくくて。みんなのためにやらなきゃって、思っちゃうから」

 伏せられた睫毛が、彼女の健気な生真面目さを物語っている。


「わかる。俺もそうだった」

 前世、真面目で成績が上位だからというだけの理由で、度々、学級委員に担ぎ上げられた。その割に、押し付けられるのは誰でもできるような雑用ばかりで、つくづく辟易したものだ。


「あれ? 慎太くん、学級委員やったことあるの? 三年からずっと同じクラスだけど、一度も見たことない気がする」

 真佐奈が足を止め、真ん丸にした目で俺を見上げてくる。


 あ、しまった。

 今世の俺は学級委員候補にならないよう、成績をわざと上の下ほどにコントロールしていたんだ。


「あー、言い間違えた。そういう話をよく聞くからさ。俺も同意見だったなって……。さて、もうすぐ五年の廊下だ。先に行くから、お前は少し時間を空けてからこい」


 足早に歩きながら、話題を強引に打ち切る。


 小学五年にもなると、男女が二人きりで歩いているだけで、冷やかしや色恋沙汰の噂が教室中に広まる。それは互いに面倒なことだろう。


「う、うん……」

 真佐奈の声が、一段と小さくトーンを落とした。

 ん?心細いのか。だが、がんばれ。


「じゃあな」

「……また、ね。……ありがと、慎太くん」

 背中でその小さな、でも確かな感謝の言葉を受け止めながら、俺は軽く後ろ手を振った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ