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最強騎士、昭和に帰還。理不尽をやり返す話  作者: 水戸直樹


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第14話 平成元年、絶対黙秘

 市民グラウンドに、六年たちの咽び泣く声が響いていた。

 立ちつくす川野の前に、土下座する悪ガキたち。


「川野くん、ごめんなさい!」

「もう、しない!だから、許してください!」


 口ではどうとでも言える。だが、これも必要な儀式だ。


「ここまでにしてやる。二度と、川野のことも、俺のことも口に出すな。前に現れるな」


 殺意を乗せた、一方的な通告。

 阿部たちは返事をする余裕すらない。異界の殺人鬼すら震え上がらせてきた言霊。


「次は殺されかねない」という確信が、彼らの心を服従させていた。


 俺は、足元に転がっていた自分の鞄を拾い上げる。

 視線の端に、赤い自転車に跨がったまま、石像のように固まっている佐々木真佐奈が映る。


 来たことを後悔しているはずだ。


(あ、待って!慎太くん……)


 ん……?

 口走るのが、見えた。


 俺は軽く指で合図する。


(先に行く。来るなら後から来い)


 俺は一度も後ろを振り返ることなく、歩みを進めた。



 しばらくすると、赤い自転車が追いついてきた。


「もう、待っててくれればよかったのに……!」


 来るなり、膨れっ面の真佐奈。


「……あの場所で俺のそばに来てみろ。やり返しの対象がお前になる可能性が出てくるんだぞ」


「え……?」


「反撃の意志を摘み取ったとはいえ、万が一がないとは言いきれない。クラスメイトを危険に晒したくない」


「……じゃあ、私のためだったってこと?」


「ん……? 俺がそうしたいだけだ。つまり、俺の都合」


 一瞬、きょとんとした真佐奈は、照れ笑いを浮かべた。


「ふふっ、そうなんだぁ……」


 ニマニマする彼女に釘を刺しておく。


「一応、今日のことは言いふらさないでくれよ。同学年に噂されるのは面倒だからな」


「……うん、わかった。秘密にしてあげるよ」


「秘密って……。まあいい」


 六月の日差しの下、自転車を引く真佐奈と並んで歩く。


「慎太くん、あの……」


「なんだ」


「……ううん、なんでもない。ただ、ビックリしちゃった。なんだか、ドラマみたいだなって」


 真佐奈は自分の言葉に驚いたように口を噤み、慌てて自転車のハンドルを握り直す。視線を逸らすとベルを意味もなく指で弾いた。


「そんないいもんじゃなかったろ。……怖くなかったなら、それでいい」


「うん。……また明日、学校でね、慎太くん!」


 ペダルを漕ぎ出した彼女の背中を見送り、俺は信号の歩行者ボタンを押したのだった。




 自宅に帰り、浴室で土汚れを洗い流した。


 鏡に映る小学生の体。成長期前の頼りない筋力でも、最低限の騎士の技は宿っている。

 

(教育、対話、指導……。そんな手続きに時間をかけている間、いじめは止まらない)



 夕食を終え、テレビから流れるカトちゃんケンちゃんを眺めていると、居間の黒電話がけたたましく鳴った。


 出たのは母親。


「……あら、会長さん? はい、こんばんは。……ええ!? あ、はい。……いえ、こちらこそ」


 母さんの背中が、目に見えて強張っていく。


「……あ、いえ、そんな……慎太からは何も聞いていなくて。……はい。ええ、ありがとうございます。失礼します」


 受話器を置いた母親が、信じられないものを見るような顔で振り返った。


「慎太……あんた、男子ソフトのグラウンドで何したの?」


「……何って、少し話をつけただけだよ。何か言われた?」


「さっき、いじめられてた川野くんのお家に、コーチと六年生全員が謝りに来たんだって。みんな、土下座して泣いて謝ったって。それで……全員、コーチ含めて男子ソフト辞めるって言ってるそうよ」

 

 母さんの困惑はもっともだった。どう動いても解決できなかった、男子ソフトのいじめが一日で消えてしまったのだから。


「慎太、どう説得したのよ? 会長さんもね、『加害者たちが怯えきっていて、誰一人として理由を口にしない』って。……一体、何を言ったの?」


 テレビから「だいじょぶダァー」おじさんのコントが流れている。


 懐かしいな。


 俺は湯呑みを食卓に置いた。


「いじめはやめろってのを、身振り手振りで伝えただけだよ」


「……そう。それだけで人って変わるものなのね……」


 母さんはまだ納得いかない様子だったが、最後に小さく息を吐いて言った。


「そうだな。案外、物分かりがいい人たちでよかったよ」


 身振り手振りしたのは本当だし、嘘じゃないよな。


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