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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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9/10

気疲れは後からやって来る

挿絵(By みてみん)

「ジニィ」

 自分を呼ぶ声がする。熱に浮かされ朦朧とする意識の中、上掛けを剥がされ 軽々と抱き上げられた。額に柔らかな感触。まるで子供のような扱いなのに、ロクな抵抗も出来ないし、する気も起こらない。“彼”は敵じゃないから。



 ✦✦✦



 応接室を出た代官デューガルドは、人気の無い廊下を 男を連れ立って歩く。

「この辺でいい。お前さんも忙しいだろ」

「この後はどうするんだ」

「そうさなあ」

 振り返った男は、何でもない顔でカラッと笑った。

「王都方面にでも行こうかね。俺は人気者だからな。命が欲しいって輩が多くて、ひと所に居ると周りに迷惑を掛けちまう」

「シャレにならんな。落ち着いたら連絡を」

「か〜っ。ケツの毛まで抜かれて鼻血もでねえよ!」

 中央棟から渡り廊下に出た男は、前方から人の気配を感じてチラと視線を上げる。

「!」

 相手も男に気づいた。“彼”はシーツの塊を横抱きにかかえており、一瞬 射殺すような目で男を威嚇した。

「なんだ。あなたでしたか」

「いやいやおいおい」

 突っ込みドコロは山程あるが、それよりも男の目を引いたのは、塊の先端に生えた焦げ茶の“ひげ”だった。

「ジニィ? 何だどうした。具合いが悪いのか!?」

「チッ。目敏いな」

 小股で駆け寄る男を、彼――アルカンは鬱陶しげに睨む。

「熱が出たようです」

「どれ俺が運んでやろう。さあ!」

 男はジニィに手を伸ばすが、アルカンの肩に阻まれ触れる事も叶わない。

「あなたの手は借りません。お戻りなのでしょう。サッサと帰ってどうぞ」

 ジニィを どこに運ぶ気かと男が尋ねれば、アルカンは苛々と声を荒げる。

「お帰りを!」

 ジニィが腕の中でうなされる。二人は目を見合わせ声を抑えた。

「寝顔は昔のまんまだ」

 ジニィを見守る男の顔は“父親”そのもの。ただし成人した息子に向ける類ではない。

「ついてこないでください」

「嫌だね」

 アルカンの縄張りに息子を運ぶらしいと知り、男はウキウキと後をついていく。

「そろそろ腕が疲れただろう?」

「ジニィを抱っこするのは これで二回目です」

 道中 何度も見えない火花を散らしながら、三人は とある部屋の前に辿り着いた。

「ディエル、開けろ」

「はい、ただいま!」

 即レスで扉を開いたディエルは、三者三様の有り様を見て瞠目する。まぁボスはいい。説明が無いのはいつもの事。しかし不審者は駄目だ。体を張って侵入を阻止する。

「あんた誰だ」

「ジニィのパパだ!」

「はあ!?」

 問答の間に、アルカンはサッサと奥の部屋へ。ジニィをベッドに下ろすと、内側から鍵を掛けた。

「騒がしくしてゴメンね」

 ジニィは浅い呼吸を繰り返し、額にうっすら汗を滲ませている。

「し、仕事は」

「大丈夫。まずは水分を取って」

 張り付いた前髪を指先で横に梳いてやると、熱い手が頼りなく手の甲に触れた。熱に潤んで茫洋とした目が、ジッと己を見上げる。

「おれ、こんなのばっかりだな……」

「ジニィってば」

 フッと和らぐ彼の表情に、熱いものが込み上げる。嬉しいような、悲しいような。咄嗟に笑って誤魔化した。だがジニィの追撃は止まない。

「あんまり優しくするな。甘えたくなる」

 生半可じゃない衝撃が脳天をぶち抜いた。目眩を覚えたアルカンは、“危険物”から逃げるように寝室を出る。扉の前で深々と息を吐いた。

「……」

 オッサンと部下が、猫のような目でコチラを見ている。

挿絵(By みてみん)

「デル。体温計。着替え。飲み物。五分以内」

「ハッ!」

 次の標的は、おトボケ顔のオッサンだ。

「お義父さん?」

 男は美人の迫力笑顔(あつりょく)に一切 怯まない。居座る気満々の様子に、アルカンの機嫌は急降下だ。

「俺に気を遣ってるのか?」

「いいえ」

「……待て待て。いや国教が許さん。ありえない。俺のことは――」

 アルカンの発する雰囲気一ツで、何やら勝手に動揺する男。

「『傭兵王』と?」

「ダグ小父さんと呼べ」

 静かに威嚇する男に、アルカンは不敵な笑みを返した。

「お前さん性格悪いぞ」

「母親似なもので」

 陽気なダグ小父さんから、親しみやすさが抜け落ちた。

「覚えています。性悪女と離婚するのに、ずいぶん手間取っていました」

「言うな」

 色んな意味で良くない発言だ。少なくともダグ小父さんにとっては。

「あなたも他人の事は言えない。幼いジニィを放置して、傭兵稼業を優先したとか」

「ぐっ」

 反撃の効果は抜群だ。だからといって元義息子の態度は緩和しない。

「ジニィから?」

「そんなわけない」

 アルカンの意識が寝室へ移る。厳しいばかりの眼差しが微かに和らいだ。

「ジニィは優しい」

 複雑な関係になっても、二人の大事なものは同じらしい。ジニィに秘密があり、おいそれと話せない事も。それゆえに反目する。

「あなたは酷い人だ」

「お前には言われたくない」

 それからすぐ、わざとらしい音を立てディエルが戻ってきた。彼は凍りつく空気を察知しても、カンストしたスルースキルで粛々と仕事を熟す。

「体温計と飲み物はチェストの上に。着替えはコチラに置いておきます」

「ああ」

 ディエルが戻る際、アルカンに見えない角度でダグラスと目が合った。

「賢い部下だな。

 おっと、俺も戻らなきゃ。もう一度 ジニィの顔を見ていきたい」

 アルカンは しかめっ面のまま扉の前から退いた。



 丸一日 上質なベッドを占領したお陰か、翌日 ジニィの熱は気持ちよく下がっていた。まだ気怠さは残るものの、体調は徐々に回復しつつある。皿に盛った 果物の砂糖漬けをかじりながら、ジニィはその甘さに頬を緩ませた。

「俺の為に缶詰めまで。なんか悪いな」

「貰い物ですから、お気になさらず」

 用意してくれたディエルに、ジニィは首を横に振る。

「どう返したらいいか」

「それならアルカン様に」

「そりゃ礼は言うけど」

 不在のアルカンの代わりに、色々面倒を見てくれたディエルを見上げる。

「何だかんだあったけど、君のことは友人だと思ってる」

「……」

 恐らく看病など仕事の一環でしかない。それでもいいと思った。

「俺に出来る事があれば頼ってくれ。どんな つまらない事でもいい」

「……その時は、ぜひ」

 ディエルは眉を垂れつつ、控えめに微笑んだ。前よりずっと自然な、良い笑顔だ。


 ✦✦✦


 病み上がり後 初めての合同訓練。ジニィはストレッチで体を解し、走り込みは軽く流した。隊を持たないクライヴとカーターも、指導員として真面目に勤めている。

「ジニィ、暇か?」

 彼らは「教えるだけなら問題ないだろう」と言って、指導員の仕事を回した。

「人が足りないのか?」

「ああ。フレッド隊が全員 帰省してる」

 なるほど、静かなわけだ。

 訓練の規模が大きいせいか、外部の見学者がチラホラ見られた。若い男らは次の募集に向けて予習を。女子らは黄色い声援を上げている。対象は硬派で生真面目なオリバー隊。ちなみに顔面偏差値は比較的高い()。

(地方三区とは層が違ぇ〜)

 ジニィは ファンの中にサリーが居ないのにホッとしつつ、顔を盛大に顰めた。顔が悪くなくて腕も良いとは けしからん。

(てか、あの価値観はどうやって養われるんだ?)

 新入りのジニィ隊を、彼らが あからさまに蔑んだ事はない。悪い噂に証拠が無いからだ。

「隊長、コッチも見てよお〜」

 指導から逃げてきたジーンが、ジニィの前で不貞腐れる。そこにクライヴが現れ、彼を無言で引きずって行った。運動苦手勢の特別メニューらしい。先程から断続的に聞こえている、変な悲鳴の出処だ。

 紅一点のグレイズは、対戦相手に困り 例のごとくバスカルに頼った。

「腕が鈍ってないか見てあげましょう」

「バーロ〜。そりゃあコッチの台詞だ」

 中区では体術のグレイズ。喧嘩のバスカルと言われた二人だ。二人の組手は白熱し、様子を窺っていた男達は戦々恐々とする。

(俺だったら、衆目の中カカシみたいに投げられたくない)

 最終的にバスカルは、丸太のように投げげられ 強かに地面へ打ち付けられた。

(受け身を覚えろとあれほど……)

 

 指導に熱が入り、頬に垂れた汗を肩口で拭う。横あいからタオルを差し出された。他分隊の若者が、「あそこの女の子から」と視線で促す。サリーだった。駆け寄って礼を言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「他の人に教えるなんて、ジニィって強かったのね。普段は優しい人なのに」

「軟弱は余計だよ」

「軟弱なんて言ってないわ」

 自然に笑い合える“今”を噛みしめる。

「……ジニィ、あのね」

 見学を切り上げてきた少女らが側を横切る。サリーは慌てて彼女らに背を向けた。

「どうしたの?」

「ん、ええと……あぁいうコ達、苦手なの。話が合わなくて」

 気分を害した彼女は、話を途中で切り上げて仕事に戻って行った。

 ふと、視界の端に居たバスカルと目が合う。真剣な表情はすぐに解け、いつもの戯けた様子で肩を竦めた。

ジニィinシーツ=巨大とうもろこし(皮付き)を抱えるアルカン→ダグ小父さん「ジニィ!!!!?」←アルカン「何で判ったんやキモ」

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