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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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10/10

パズルは脆くも崩れる

挿絵(By みてみん)


※フレッド氏の言動には、間違った思い込みが含まれております。状態異常<混乱>


 今日こそ髪飾りをサリーに。そしてプロポーズを。ジニィの決意は固く、目的に一直線。食事を終えた後に抜け出し、帰りがけの彼女を捕まえる為に走った。作業用のエプロンを腕にかけ、お気に入りの帽子を目深にかぶった彼女を見つける。

「さ」

 呼びかけようとした瞬間、サリーが一緒にいる男に気づいた。相手はなんとアルカン。彼は整った笑顔で彼女に話しかけている。サリーは恥ずかしそうに はにかんで、頬を朱色に染めた。何か見てはいけないモノを見てしまった――そんな気持ち悪さが胸に湧き上がる。

(いや違う。きっと誤解だ)

 ざわつく感情を意地で押し込める。そんなジニィの努力は、二人が仲睦まじげに施設内に入って行く様子に脆くも崩れ去った。

「隊長。何やってんだよ!」

 バスカルに肩を叩かれ、ジニィはハッと顔を上げた。

「お、お前こそ……さきに行ったんじゃ」

 バスカルはジニィの異変に気が付き、顔を盛大に顰めた。

「おい、大丈夫か?」

「……わからない」

 ジニィの情緒は、まるで崩れたパズルのよう。手にした髪飾りが酷く冷たく感じる。醜い想像が頭の中を支配していた。


「こんにちは、ジニィさん!」

 ジニィは旧寮館にいた。外の古いベンチに座っている。いつの間にか正面にレビィが立っていた。バスカルに声を掛けられてからの記憶が曖昧である。

「何で君がココに」

「散歩中に立ち寄りました」

 呆然と呟くと、足元に動く温もりを感じた。見覚えのある二匹の犬。レビィの愛犬達だ。

「彼らには癒やしの力があるんです」

 彼らは黒目がちな澄んだ目で、ジニィを見上げている。艷やかな毛並みを持ったノズルが、手の甲をスルリと撫でた。湿った鼻先が指を突く。

「愛しいでしょう」

 頷けるものがあった。まるで自分が、彼らの同胞にでもなったよう。

「ここに何か用事?」

 レビィは笑顔のまま首を横に振る。無邪気を擬人化したような人柄ゆえ、細かい事を突っ込むのは止めた。

「この子たち、人懐っこいな」

「ペレとクロイです。こっちはカイとアビー」

 彼女は己の足元に侍る二匹を見下ろす。

「はは。良い名前を付けて貰ったな」

「あっ、その笑い方“あの人”に似てる!」

 ジニィは意味がわからなくてポカンと口を開いた。

「アルカンじゃありませんよ!」

 謎に今 一番聞きたくない名前が。しかし彼女の脈絡ナシの発言は、不快感をも凌駕する。

「ぇえと」

「お気になさらず。私は人間全般 苦手です」

 ジニィの戸惑いを意に介さず、レビィは愛しげに犬達を撫でる。

「お祖父様がこの子達を与えてくれました。私は彼らから他人との接し方を学んだのです」

 ジニィはふと、バスカルらが何をしているのか気になった。

「彼らが襲われた夜、私は犯人を捕まえようと決意しました」

「え?」

 主の怒りを察知したのか、犬達が頭をもたげた。

「君の犬が、襲われた?」

「犯人の体には噛み傷がついているはずです」

 ジニィの記憶から、動物の連続虐待死の情報が引き出される。アルカンの調査内容を加味すると、辻褄が合わなくもない。

「怪我、か。……そういえばフレッド隊の休暇理由は、マイクの療養だったな。拳の骨折らしいけど」

 また誰ぞ殴るかして痛めたのだろうと推察する。

 それからも壁打ちのようなレビィのお喋りは続く。せいぜい一ターン半が限界の会話に、ジニィの乱れた心は不思議な落ち着きを取り戻していた。

 レビィは犬達が生活の中心らしく、そろそろ休ませる時間だと言って元気に帰って行った。

 その夜は眠れない事を覚悟していたが、部屋の前に部下らの置き土産を見つけてジニィは苦笑する。

「お供え物かよ」

 差し入れの飴玉を口に入れつつ、薄い本をパラリと開く。タイトルから旅をモチーフにした娯楽小説と察するが、続きモノの一巻だった。

「布教すんなよ……」 

 気づけば翌朝。薄暗い悲壮感に覆われるような心模様。

(仕事したくねぇ)

 気力が生まれず溜め息が溢れる。バラバラにかき混ぜられた情緒は、未だに散らばったままだ。

 珍しく部下らに気遣われた朝食時。バスカルのアホがノンデリを投下した。

「恋人を寝取られた気持ちなら、俺にも分かるぜ!」

 何かと半目し合う後輩らが、珍しく結託してバスカルに襲いかかった。

「別に、そうと決まったわけじゃ」

 小さな呟きにグレイズが目を瞬かせ、キディがギザ歯をカチカチ鳴らす。

「ぁあん? 間男は知り合いかあ?」

 隊で一番の奇人なのに、洞察力が人並み以上で嫌だ。

「隊長。それが本当なら、早めに決着をつけるべきでは」

「オオオイ! グレイズちゃんは男心が分かってねえなあ!」

 後輩を伸したバスカルがグレイズとメンチを切る。その間で空の皿をジッと見下ろすジニィ。ボコされた後輩らは、コソコソと相談を始めた。


 午前の勤務を何とか乗り越え、昼休憩。なぜか休暇中のフレッドに呼び止められた。

「相談がある」

「何で俺に」

 ジニィの脳裏に、アパート火災以降 怒涛の一週間がリフレインする。あんなデスマーチは何度も繰り返したくない。

「マイクだが」

 フレッドの真剣な眼差しの中に、怯えが見え隠れしている。

「もしかして、サリーの事か?」

「?」

 怪訝な反応から察するに、“例の一件”じゃないようだ。

「あぁ、配膳婦の地味な女か」

「地味って言うな」

「いや、女は化粧で化ける。めかし込んだら ほぼ別人だ」

 フレッドの何気ない台詞に、ジニィは唇を噛んだ。

「ブレシュ。マイクの父親が死んだ」

「それは気の毒に」

 ジニィの反応が上滑り気味でも、フレッドは気にせず続ける。

「父は急な病だと言ったが、アレは嘘だ」

「根拠は?」

「あの父が、俺にも分かるくらい動揺してた」

 フレッドの父親は公私をキッチリ分けるタイプで、家庭では一切 仕事関係の話を出さないそうだ。

「父が死因を隠す理由なんて、体面が悪いからに決まってる」

「そうかい」

 他人の、しかも対立している人間のお家事情に首を突っ込むほど、ジニィはお人好しじゃない。

「マイクは狂犬病なんじゃないか!?」

「は?」

 説明を省かれて置いてけぼりのジニィに、フレッドは必死で言い募る。

「マイクの腕は丸太みたいに腫れてた。あれは犬の噛み傷だ! きっとそのせいで狂暴に」

「時系列がおかしい」

 疲れてるのに、つい即レスで突っ込んでしまった。ちなみに マイクの血の気の多さは、今に始まった事じゃない。

「しかし、マイクの周りでは不可解な事が多くて」

「例えば?」

「アイツの機嫌が良い日は、後から動物の死骸が見つかる事が多い」

 ジニィの見る所、フレッドは半ば妄想に取り憑かれている。

「病気のせいでマイクが自分の父親を殺した?」

 ジニィの直球発言に、フレッドは大きく肩を震わせた。

「にわかには信じ難いな」

「そうでなきゃ説明がつかない!」

 気持ちは分からないでもないが、ジニィに怒鳴っても意味はない。

「マイクはどこだ?」

「入院してる」

 病のマイクは、病院で大人しく治療を受けているそうだ。呆れて話にならない。

「早く何とかしないと、お前も狙われるぞ」

「何で」

「邪魔だからだ!」

 ジニィもいよいよキャパオーバーである。

 

 ※『義兄弟』の時代背景は、迷信が当たり前のように日常にはびこる(ふる)さと、目新しい価値観や知識・物の“矛盾”が織りなす混沌とした世界観です。

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