奇っ怪 奇天烈は自重しない
「ボス。お時間よろしいでしょうか」
部下に呼び止められ、アルカンは扉の前で足を止めた。
「ジニィさんの交友関係で、少々 気になることが……」
「なんだ。さっさと言え」
「実は」
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「よう 兄弟。元気か?」
戦闘狂で有名なカーターが声を掛けた人物に、一瞬 周囲の注目が集まる。足を止めたジニィは、半ば諦めながら歩みを再開した。隣に並ぶ痩せぎすノッポと、ちぃ薄ヒゲ童顔という、最近 見慣れ始めた組み合わせだ。
「サーベルの機嫌が悪そうだぜ」
「サーベルは喋んねー」
宝の持ち腐れとは この事だとカーターは嘆く。
よそ見していたせいで、すれ違い様に他の隊士と肩がぶつかった。
「悪い」
ちょうど救護室に差し掛かっていた。真っ赤にかぶれた手がチラリと見えたが、隠すように去って行く。
人気が途絶えてすぐ、カーターは声を潜めた。
「中区のその後は知ってるか?」
「急になんだ」
「クライヴとも相談してな。お前さんには話しておこうと」
クライヴとカーターは代官の忠臣。その意図は、聞いてみないと分からない。
「あの街の利点は知ってるな?」
隣国は技術力が高い。隣接しているがゆえ、最新技術に触れる機会を得やすい環境だ。ゆえにカドマス本家にとっては利用価値が高かった。
「ピンキリだが」
「半端な方が目立たない事もある」
銃器製造の一端を担っていた工房は、麻薬カルテルに管理されていた。一斉捜査を感知した統括者は、支配下にある工房を放棄し、早々に逃亡したという。
「少なくとも十数丁分の部品が、組み立て後に持ち去られた」
これは帳簿から割り出した数量である。完成した銃器は、国境警備隊によれば隣に漏れていない。
「それ信用できる?」
「問題ない」
カーターの言いように、ジニィは眉をひそめた。
「国内で使われる兆候が?」
「わからん。だがコトが起きたら気をつけろ。それと」
カーターが不自然に口ごもる。
「言えよ」
「特務、じゃない。弟だ」
彼の口からアルカンの存在を仄めかされ、ジニィは息を呑んだ。
「あれは止めておけ」
「彼の本業を知ってるんだな」
カーターの目が泳ぐ。
「いいか、俺は忠告したからな!」
アルカンの話になると、バスカルもカーターも歯切れが悪くなる。奴らは何か知っているのだ。一丁 捕まえてガン詰めしてやろう、そう決めた矢先に、隊舎でトラブルが起こる。フレッドの取り巻き、ピーターが貴重品を紛失し、ジニィらを糾弾しに来たのだ。
「俺達が知るわけないだろ」
「ううううそだ! お前らじゃなきゃ、誰が盗むんだっ」
虎の威を借るオドオド狐の怒り様は、ちょっと嘘に見えない。異常事態を察し、ギャラリーの数が増えていく。ジニィは声音も低く、ピーターをジッと睨めつける。
「詳しく話せ。盗まれた貴重品って何だ」
「とぼけるな!」
胸倉を掴みに来たので、逆に細腕を捻り上げてやる。充分手加減しているのだが、ピーターは豚のような悲鳴を上げた。
「悪く思うなよ。お坊ちゃんを相手にするのは慣れてないんだ」
一方的な暴力に見える状況だ。他の隊員らが止めに入ろうとする。
「おい、俺に触るな。話をするからフレッドを呼んでこい!」
まるで悪役のような立ち回りで、ジニィは侘びしい気持ちを噛み締めた。
五分もしない内に上長とフレッドが駆けつけた。
「離れろ、ブレシュ!」
ジニィはピーターをフレッドに押し返し、上長に対しハッキリ宣言する。
「俺たちは泥棒じゃない! ピーターが言う貴重品なんざ見たこともない!」
「落ち着いて!」
上長とジニィの間に、背の高い男が割って入った。
「デル!?」
「大丈夫です、ジニィさん。状況を説明してください」
デルの登場に驚きはしたが、上長は何も言わない。訝しいが これはチャンスだ。ジニィは事の経緯を最初から語って聞かせた。上長は真偽半々でジニィに再確認する。
「本当に盗んでないんだな?」
「ああ」
「ソイツらの部屋を調べてくれ!」
ジニィ隊に睨まれ、ピーターは真っ青になってフレッドの背に隠れた。
「あんなボロ宿舎、いくらでも見て行けよ」
怒り半分、バスカルらは あっけらかんと了承する。
「取り壊しが決まってるから、入居してるの私たちだけですもの」
「その代わり好きに使っていいって言った!」
「見られるのは恥ずかしいけど、文句言わないで下さいね」
騒動に参加した面々は、疑い半分 好奇心半分で宿舎に向かう。
「!」
宿舎が見えた瞬間、隊士らは驚愕した。宿舎全体が、元の面影を完全に無くしている。独創という刷毛を走らせた壁面アート。風に揺れる色とりどりの花。手作り訓練器具。感心するやら呆れ返るやら。
「敷地の建物になんてことを……」
さすがに上長は何も言わなかった。
家宅捜索のトップバッターはキディの部屋。鍵を開け、上長が扉を開いた。開いて固まった。固まって閉じた。
「ブレシュ、これは」
「ブヒャア! どうだァ素晴らしいだろォ、俺サマの城はア!」
説明になってない説明に、ジニィは重要な補足情報を加える。
「キディは熱狂的な国教信者です」
「うそをつくな!」
フレッドはジニィを押し退け、自身の曇りなき目で真実を確かめた。
「……! ……っっ、……」
コレが ぐうの音も出ないというヤツだ。
「へへ。キディ。自慢のアレを見せてやんなよ!」
「うるぁあああっ。聞いて驚け見て叫べ!」
ジーンに促され、キディは唐突にトップスを全て脱ぎ捨てた。その時に初めて彼らは気づく。キディの袖口、胸元、足首。インナーに見える真っ黒な部分が、全てタトゥーなのだと。
「あ、あり得ない!」
皆が驚くのも無理はない。本来 入れ墨とは犯罪者のもの。しかし注意深く観察すれば理解できる。キディのタトゥーは、原典の古い文字で隙間なく刻まれた聖典の教えなのだから。キディが背中を向けると、畏怖に近い悲鳴が上がった。
「お、おおっ、主よ……!」
「キディは本物ですよ。一日四回、礼拝堂で祈りを捧げてますから」
仲間でも庇えないレベルの狂信者である。
「あ、真夜中の徘徊する悪霊……!」
野次馬の一人が青い顔でキディを指差した。多分、トイレに起きた時に目撃したのだろう。あれは心臓に悪い。
ちなみに、キディの部屋から盗品は見つからなかった。“裏庭の殺人鬼”ことカルの部屋にもだ。目立ったのは手入れされた農機具。ヘアセット用品。自作の尖った衣装群。ベッドの下に定番のエッチな本。
「思ってたのと大分違うぞ」
想像を大きく裏切られた面々は、一様に首を傾げ考え込む。
「ジーン。君は普通か?」
デルの台詞はダメ押しでしかない。
「見に来るといいよ!」
部屋のほとんどを埋め尽くす画材とキャンバスボード(壁を含む)。大量に積み重なった図案。ロッカー室の落書きと同種の宗教画(仮)も何点か見られた。
「尊い場所に悪さが出来るヤツはいないよなあ?」
ジニィ隊は仲良く含み笑いを漏らす。
ショックが幾つも重なり、上長は ふらついて壁に手をついた。
「国教侮辱か判断に迷うっ……!」
お次の探索はバスカルの部屋。こちらは逆に、物が少なく閑散としている。
「……イカくさくね?」
なんとなく長居したくない部屋だった。
「ジニィさんの部屋は私が見ます」
今回はデルが率先して調査に入った。火事のせいで私物が極端に少なく、五分とかからず終了。
最後はジニィ隊の紅一点グレイズ。当人はイケメンスマイルで快諾した。
「この部屋 物騒じゃね?」
鈍器、重器、鉄棒etc……
「そうかしら。砂袋は縫いぐるみにイン、ダンベルにはレースカバー、トレーニング・ウエアには可愛い刺繍! 素敵でしょ♪」
彼女の弛まぬ努力は、全身装甲を一段と厚くしている。
「どうやら大きな誤解があったようだ」
結論、ジニィ隊の疑いは晴れた。上長はフレッドらへも、仲間を無暗に疑わぬよう注意した。めでたしめでたし。
「ねえ」
ふとジーンが呟く。
「キディに探し物させればよかったじゃん」
「バカ。逆に疑われるだろ!」
なんて言いつつ、興味が湧いたジニィ隊は、デルに延長戦を申し出た。
「じゃあ、ウチからも鼻が利くのを出しましょう」
そうして呼ばれたのは、品のいい大型犬を連れた若い女性。
「レビィと申します!」
こちらも元気な、少女じみた成人女性である。
「ジニィさん、お会いできて嬉しいです!
あなたは尻派ですか? それとも脚派?」
ポカンと口を開けるジニィ隊の横で、デルは目を塞ぎ空を仰いだ。
「やってしまった」




