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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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3/10

奇っ怪 奇天烈は自重しない

挿絵(By みてみん)

「ボス。お時間よろしいでしょうか」

 部下に呼び止められ、アルカンは扉の前で足を止めた。

「ジニィさんの交友関係で、少々 気になることが……」

「なんだ。さっさと言え」

「実は」


 ✦✦✦


「よう 兄弟。元気か?」

 戦闘狂で有名なカーターが声を掛けた人物に、一瞬 周囲の注目が集まる。足を止めたジニィは、半ば諦めながら歩みを再開した。隣に並ぶ痩せぎすノッポと、ちぃ薄ヒゲ童顔という、最近 見慣れ始めた組み合わせだ。

「サーベルの機嫌が悪そうだぜ」

「サーベルは喋んねー」

 宝の持ち腐れとは この事だとカーターは嘆く。

 よそ見していたせいで、すれ違い様に他の隊士と肩がぶつかった。

「悪い」

 ちょうど救護室に差し掛かっていた。真っ赤にかぶれた手がチラリと見えたが、隠すように去って行く。

 人気が途絶えてすぐ、カーターは声を潜めた。

「中区のその後は知ってるか?」

「急になんだ」

「クライヴとも相談してな。お前さんには話しておこうと」

 クライヴとカーターは代官の忠臣。その意図は、聞いてみないと分からない。

「あの街の利点は知ってるな?」

 隣国は技術力が高い。隣接しているがゆえ、最新技術に触れる機会を得やすい環境だ。ゆえにカドマス本家にとっては利用価値が高かった。

「ピンキリだが」

「半端な方が目立たない事もある」

 銃器製造の一端を担っていた工房は、麻薬カルテルに管理されていた。一斉捜査を感知した統括者は、支配下にある工房を放棄し、早々に逃亡したという。

「少なくとも十数丁分の部品が、組み立て後に持ち去られた」

 これは帳簿から割り出した数量である。完成した銃器は、国境警備隊によれば隣に漏れていない。

「それ信用できる?」

「問題ない」

 カーターの言いように、ジニィは眉をひそめた。

「国内で使われる兆候が?」

「わからん。だがコトが起きたら気をつけろ。それと」

 カーターが不自然に口ごもる。

「言えよ」

「特務、じゃない。弟だ」

 彼の口からアルカンの存在を仄めかされ、ジニィは息を呑んだ。

「あれは止めておけ」

「彼の本業を知ってるんだな」

 カーターの目が泳ぐ。

「いいか、俺は忠告したからな!」


 アルカンの話になると、バスカルもカーターも歯切れが悪くなる。奴らは何か知っているのだ。一丁 捕まえてガン詰めしてやろう、そう決めた矢先に、隊舎でトラブルが起こる。フレッドの取り巻き、ピーターが貴重品を紛失し、ジニィらを糾弾しに来たのだ。

「俺達が知るわけないだろ」

「ううううそだ! お前らじゃなきゃ、誰が盗むんだっ」

 虎の威を借るオドオド狐の怒り様は、ちょっと嘘に見えない。異常事態を察し、ギャラリーの数が増えていく。ジニィは声音も低く、ピーターをジッと睨めつける。

「詳しく話せ。盗まれた貴重品って何だ」

「とぼけるな!」

 胸倉を掴みに来たので、逆に細腕を捻り上げてやる。充分手加減しているのだが、ピーターは豚のような悲鳴を上げた。

「悪く思うなよ。お坊ちゃんを相手にするのは慣れてないんだ」

 一方的な暴力に見える状況だ。他の隊員らが止めに入ろうとする。

「おい、俺に触るな。話をするからフレッドを呼んでこい!」

 まるで悪役のような立ち回りで、ジニィは侘びしい気持ちを噛み締めた。

 五分もしない内に上長とフレッドが駆けつけた。

「離れろ、ブレシュ!」

 ジニィはピーターをフレッドに押し返し、上長に対しハッキリ宣言する。

「俺たちは泥棒じゃない! ピーターが言う貴重品なんざ見たこともない!」

「落ち着いて!」

 上長とジニィの間に、背の高い男が割って入った。

「デル!?」

「大丈夫です、ジニィさん。状況を説明してください」

 デルの登場に驚きはしたが、上長は何も言わない。訝しいが これはチャンスだ。ジニィは事の経緯を最初から語って聞かせた。上長は真偽半々でジニィに再確認する。

「本当に盗んでないんだな?」

「ああ」

「ソイツらの部屋を調べてくれ!」

 ジニィ隊に睨まれ、ピーターは真っ青になってフレッドの背に隠れた。

「あんなボロ宿舎、いくらでも見て行けよ」

 怒り半分、バスカルらは あっけらかんと了承する。

「取り壊しが決まってるから、入居してるの私たちだけですもの」

「その代わり好きに使っていいって言った!」

「見られるのは恥ずかしいけど、文句言わないで下さいね」

 騒動に参加した面々は、疑い半分 好奇心半分で宿舎に向かう。

「!」

 宿舎が見えた瞬間、隊士らは驚愕した。宿舎全体が、元の面影を完全に無くしている。独創という刷毛を走らせた壁面アート。風に揺れる色とりどりの花。手作り訓練器具(アスレチック)。感心するやら呆れ返るやら。

「敷地の建物になんてことを……」

 さすがに上長は何も言わなかった。

 家宅捜索のトップバッターはキディの部屋。鍵を開け、上長が扉を開いた。開いて固まった。固まって閉じた。

「ブレシュ、これは」

「ブヒャア! どうだァ素晴らしいだろォ、俺サマの城はア!」

 説明になってない説明に、ジニィは重要な補足情報を加える。

「キディは熱狂的な国教信者です」 

「うそをつくな!」

 フレッドはジニィを押し退け、自身の曇りなき目で真実を確かめた。

「……! ……っっ、……」

 コレが ぐうの音も出ないというヤツだ。

「へへ。キディ。自慢のアレを見せてやんなよ!」

「うるぁあああっ。聞いて驚け見て叫べ!」

 ジーンに促され、キディは唐突にトップスを全て脱ぎ捨てた。その時に初めて彼らは気づく。キディの袖口、胸元、足首。インナーに見える真っ黒な部分が、全てタトゥーなのだと。

「あ、あり得ない!」

 皆が驚くのも無理はない。本来 入れ墨とは犯罪者(アウトロー)のもの。しかし注意深く観察すれば理解できる。キディのタトゥーは、原典の古い文字で隙間なく刻まれた聖典の教えなのだから。キディが背中を向けると、畏怖に近い悲鳴が上がった。

「お、おおっ、主よ……!」

「キディは本物ですよ。一日四回、礼拝堂で祈りを捧げてますから」

 仲間でも庇えないレベルの狂信者である。

「あ、真夜中の徘徊する悪霊……!」

 野次馬の一人が青い顔でキディを指差した。多分、トイレに起きた時に目撃したのだろう。あれは心臓に悪い。

 ちなみに、キディの部屋から盗品は見つからなかった。“裏庭の殺人鬼”ことカルの部屋にもだ。目立ったのは手入れされた農機具。ヘアセット用品。自作の尖った衣装群。ベッドの下に定番のエッチな本。

「思ってたのと大分違うぞ」

 想像を大きく裏切られた面々は、一様に首を傾げ考え込む。

「ジーン。君は普通か?」 

 デルの台詞はダメ押しでしかない。

「見に来るといいよ!」

 部屋のほとんどを埋め尽くす画材とキャンバスボード(壁を含む)。大量に積み重なった図案。ロッカー室の落書きと同種の宗教画(仮)も何点か見られた。

「尊い場所に悪さが出来るヤツはいないよなあ?」

 ジニィ隊は仲良く含み笑いを漏らす。

 ショックが幾つも重なり、上長は ふらついて壁に手をついた。

「国教侮辱か判断に迷うっ……!」

 お次の探索はバスカルの部屋。こちらは逆に、物が少なく閑散としている。

「……イカくさくね?」

 なんとなく長居したくない部屋だった。

「ジニィさんの部屋は私が見ます」

 今回はデルが率先して調査に入った。火事のせいで私物が極端に少なく、五分とかからず終了。

 最後はジニィ隊の紅一点グレイズ。当人はイケメンスマイルで快諾した。

「この部屋 物騒じゃね?」

 鈍器、重器、鉄棒etc……

「そうかしら。砂袋は縫いぐるみにイン、ダンベルにはレースカバー、トレーニング・ウエアには可愛い刺繍! 素敵でしょ♪」

 彼女の弛まぬ努力は、全身装甲を一段と厚くしている。

「どうやら大きな誤解があったようだ」

 結論、ジニィ隊の疑いは晴れた。上長はフレッドらへも、仲間を無暗に疑わぬよう注意した。めでたしめでたし。

「ねえ」

 ふとジーンが呟く。

「キディに探し物させればよかったじゃん」

「バカ。逆に疑われるだろ!」

 なんて言いつつ、興味が湧いたジニィ隊は、デルに延長戦を申し出た。

「じゃあ、ウチからも鼻が利くのを出しましょう」

 そうして呼ばれたのは、品のいい大型犬を連れた若い女性。

「レビィと申します!」

 こちらも元気な、少女じみた成人女性である。

「ジニィさん、お会いできて嬉しいです! 

 あなたは尻派ですか? それとも脚派?」

 ポカンと口を開けるジニィ隊の横で、デルは目を塞ぎ空を仰いだ。

「やってしまった」

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