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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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2/10

ジニィ隊は奮闘する

挿絵(By みてみん)

 時刻は正午を回った。ソーン市中央衛兵隊の食堂にて、空いている席を探すジニィらの耳に、嫌らしい囁き声が届いた。

「来たぜ」

「よく顔が出せたモンだな」

 あからさまにジニィらを そしるのは、三人組グループの一ツだけ。だが その他の面々も、ジニィ隊を同胞と認めているわけではない。一度芽吹いた不審感は、そう簡単に拭えないという事だ。

「犯罪者どもが」

 最後の一言にバスカルがキレる。このタイミングが絶妙で、ジニィらはトレーに手を掛けたばかり。幸いにも迅速な初動が叶い、大乱闘は未然に防がれた。

「放っておけ。俺たちが入ったせいでアイツ、彼女に振られたんだろ」

 無関心を装っていた連中が、盛大にスープを噴き出した。

「おぉい、色男ども。こっち空いてるぜ!」

 コールの主はクライヴだった。同じテーブルにはカーターの姿も。見知った顔に誘われ、五人で長テーブルの空席に着いた。バスカルはクライヴの真正面をゲット。

「おい、なに笑ってんだよ」

「掴みは上々だな」

 ジニィが軽く注意すると、カーターが例の独特な笑みで煽る。

「注目を浴びるのも困りモンだ」

「アイツらか。なんだか様子がおかしいな。知り合いか?」

「ただの同期だ」

 クライヴが指す連中は、ジニィ隊への最多嫌味大賞 最有力候補者で、先の三人組である。彼らに絡まれるのは、今に始まったことじゃない。チャチないじめに、皆が辟易していた。

「ふーん。で、お前らのロッカーに生ゴミぶっ込んだ犯人も放置するのか?」

 軽妙な口調だが、クライヴの目は笑ってない。

「お前達ならどうする?」

 カーターが愉しげにスープ皿の中身をかき回す。

「もう実行犯の目星はついてる。ロッカーへのイタズラも すぐに止むだろう」

 クライヴは目を瞬き、カーターは興奮気味に口笛を吹いた。

「ハッハッハ。迅速な対応だ!」

 彼らはまだ知らない。いい意味でも悪い意味でも、ジニィ隊は近寄りがたい存在。その神髄を大いに知らしめるのだ。

「昨日も呼び出されたんだって?」

 ジニィはパンを喉に詰まらせて咳き込んだ。きちゃない。

「あ、エヘヘ。それボクのせいです」

 トサカ後輩が控えめに手を挙げた。その言動とは裏腹に、トサカの立ち上がりは今日もキレッキレ。

「お、おう。お前さん、ちまたで殺人鬼って呼ばれてるぜ?」

「違います〜!」

「裏庭に死体を埋めてるとか」

 隊の面々は肩の震えが止められない。

「カルは たい肥を作ってるんだ。それにイタズラの残留物も使ってる」

「たいひ??」

 ヒント。カルは農家の三男坊。屯所の周りは映えスポットとして それなりに有名だった。

「おい、隊長。目が死んでんぞ」

「ほっとけ」

 地域の住人にも色々頼み込み、お返しに修繕や清掃を引き受けたのは主に この二人である。

「そんなんで大丈夫か?

 お前が始めた作戦だろうが」

 バスカルの懸念はもっともだ。

 翌日、ジニィは 再び上長に呼び出された。

「あのねぇ。君らが来てからさ、壁の落書きが すごいんだよ。君らが使ってるロッカーも……あれね、何て言っていいかさあ!」

「どうでしたか」

「は?」

「新しい落書きの出来は、どうでしたか」

「凄かったよ!!」

 上長はキレ気味に叫んだ。

 ジニィ隊は連帯責任で、壁の汚れ落としと 訓練場の整備を命じられた。 


「あ〜あ。今日は廃棄芋からデンプン取ろうと思ってたのに〜」

「そんなの自業自得っしょ」

「お前が言うな!」

 爪の間に土汚れの詰まった手が、少年兵ジーンの頭で乾いた音を響かせた。

「あーっ、今のパワハラだよね、隊長!」

「ジーン。おまえの絵、凄かったってよ」

 隊長の台詞に、じゃれ合っていた後輩らが動きを止めた。その手には水入りバケツとデッキブラシ。ここは『泥酔者の便所』と呼ばれる壁の前。

「「イェーイ!」」

 さっきまで喧嘩してたくせに、もう仲良くハイタッチしている。未成年というのは、微笑ましいやら呆れ返るやら。

「手を動かせー、手を」

 ペナルティなだけあって、固まった吐瀉物のミルフィーユを落とすのには相当手こずりそうだ。後輩の尻を叩きながらブラシを濯いでいると、背後から笑い声が響く。振り向くと、おさげ髪の娘が愉しげにジニィらを眺めていた。

「やあ、サリー」

「こんにちは、隊長さん」

 サリーと呼ばれた年ごろの娘は、隊舎食堂に勤めている調理スタッフの一人だ。体調を崩した寡婦に代わり、姪の彼女がその役を引き受けたという。今はエプロンと三角巾を外し、普段着のワンピースに薄手のショールを羽織っている。

「仕事終わり? 帰り、一緒に食事でも」

「いいわ。その前に買い物してきてもいいかしら?」

「ああ。急がないでいいからね」

 ジニィとサリーは、最近よく話す仲だ。彼女の背中を見送りつつ、ジニィは独りごちる。

「良い娘だよなあ」

「普通じゃん」

 我らが隊長は、結婚を前提とした恋人を随時募集中である。

「わかってないな。俺たちに親切なのは彼女だけだぞ」

「それはクライヴとカーターが かわいそッス」

 いつから二人で食事に行く仲に、と部下らが尋ねると、機嫌の良い隊長は聞いてもない成り行きを語るが、割愛する。

「あ〜。あの娘も東部(いなか)出身かあ」

「隊長、オレ思うんスけど。ちょっと離れてるだけなのに、中央の人らってココ以外を やたら田舎扱いするじゃないですかあ。大して変わんないっしょ!」

 トサカ後輩の主張は正しい。ソーン市はそれなりにデカいが、中央は行政を担う小さな中心市街地のみ。国境に近い中区は商人が交流する賑やかな町。上区は畜農でソーン市の食を支えてる縁の下の力持ち。下区はソーンの町工場として領内の細々した不便を解消してる。中央以外を誹謗するのは、全体が見えていない証拠だ。

「勘弁してやれよ。町のグレードでしか物事を差別化できない可哀想な人たちもいるんだ」

 かくいう新人時代のジニィも、先輩に似たような文句を垂れた後輩の一人だ。その後、王都を見聞して悟りを得、今に至る。

「ほい、ラストスパート!」

「ういーす」

 ジニィは これからデートだ。つまらん仕事なぞサッサと切り上げ、身なりを整えねばならない。

 バケツとブラシを片付けて寮に戻る道すがら、例の嫌味グループとかち合った。

「げ。めんどくせぇ」

「隊長ぉ」

「本音ダダ漏れ」

 案の定、先頭の男がジニィを見つけ、嫌らしい笑みを浮かべた。

「よう。フレッド」

 先手はジニィ。迅速果敢なスタートを切る。一秒早く出鼻を挫かれた真ん中のフレッドは、鼻周りをクシャリと歪めた。

「偉そうに俺の名前を呼ぶな、田舎者」

「フレッド・フレデリック。いつまで昔の事を根に持つんだ。ストレスは毛根に良くないぞ」

「なっ!?」

 フレッドは赤面し、カッとなった勢いでジニィに殴りかかった。腰の入ってないパンチを軽く避け、ジニィは彼を淡々と煽る。

「この体たらくで勝ち負けに拘るのは みっともないぜ」

 容赦のない正論パンチがフレッドを襲う。

「黙れえ!」

 彼のグラスハートは亀裂待ったなし。リーダーを守らんと動く仲間の前に、トサカ後輩カルが立ち塞がった。世紀末雑魚による無言のプレッシャーは、中身を知らない三人を容易にビビらせる。

「ハハッ。狂人を飼うなんざ、マトモな神経とは思えないぜ!」

「責任逃れしか頭にないお前より、ずっとマトモさ」

「中区の犯罪者どもが!」

「相変わらずレスバ下手くそだな」

 唾と捨て台詞を吐いていく三人組を、変顔ジーンが丁寧に中指を立てて見送ってやる。

 と思ったら、ジーンが視線を留めたまま不自然に固まった。ジニィが彼の肩を叩いて正気を確認する。

「おい、下痢か?」

「止めてよ恥ずかしいなあ!」

 ジーンはフレッドらを指差した。彼らも魔女に呪いの言葉を浴びせられたような顔で硬直している。一体 何を見てそうなったのか。四人の視線の先にある原因を見つけて、ジニィも目を見張った。

「やあ、ジニィ」

 果たして そこに居たのは、魔女すら誑かす魅惑の微笑みを浮かべた青年、アルカンだった。長身に均整のとれた完璧なスタイル。騎士の平服と思われる洗練された装い。強さを内包する美。そこだけスポットライトを当てられているような、別世界の輝きがあった。

「その格好」

「ああ、コレ」

 アルカンは薄く微笑んで、シャツの襟を少しつまんだ。

「仮の姿ってところ」

「でも」

 追及しようとするジニィの唇を、手袋越しの指先がチョンと塞いだ。

「その話は また今度。二人っきりの時に」

「!?」

 あらぬ誤解を呼ぶ妖艶な仕草に、ジニィのシナプスは接触不良を起こす。巻き添えを食らった面々も、アルカンに畏れすら感じて後退る。

「じゃ、また」

 風のように去っていく貴公子の背を見送り、ジニィは悔し紛れにボヤいた。

「なんてやつだ!」

 ただならぬ関係性を匂わせる二人の遣り取りは、フレッドに別個の衝撃をもたらしていた。

(ジニィ・ブレシュ、特務部隊と どういう関係だ!?)

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