プロローグは悲鳴をあげる
こちらは
【両親の離婚で別れた兄弟、波乱の再会を果たす】https://ncode.syosetu.com/n3721lp/
の続編となっております。上のリンクで先のタイトルを読むことを推奨します。
(前シリーズまでのあらすじ)ウン年ぶりに再会した元兄弟。雑貨店を開いた弟アルカンは、地元で衛兵になった兄ジニィと関わりながらも、徐々にその暗い目的を明らかにしていく。遂に弟の正体に触れたジニィの中で、アルカンとの関係性に迷いが生じ始める。
二人の新生活の舞台はソーン市中央市街。二人の微妙な関係が進む【義兄弟シリーズ】第二幕の開始です。
「教えてほしい」
庶民には縁のない高級馬車の室内。黒い騎士アルカンは、正面に座る青年ジニィに尋ねた。
「なに」
ジニィは少し ためらいながら応答する。
「代官に渡したモノについて」
勢いよく顔を上げたジニィは、アルカンの視線が少し前から己に向けられていた事に気づいて面食らった。
「な、何が聞きたい」
「ジニィ。犯罪の証拠だよ。どうやって手に入れた?」
彼の直接的な質問は、目をそらしていた現実をジニィに突きつけた。
「それは命令?」
「ジニィ」
困ったように眉を下げるアルカンに、ジニィは大いに動揺した。
「そんな格好してるくせに、ズルいぞ!」
実は外見が変わっても、中身は何一つ変わってないのでは。そんな儚い望みは、もう夢ですら叶わないだろう。
「……まぁ、今更か。
前に言った、前任の隊長だよ。彼に託された」
「それって いつ頃の事?」
「彼が辞める前。それと、おまえと再会する、少し前だ」
ジニィから淡々と語られる内容に、アルカンの表情がゆらりと変化していく。
「最初に受け取ったのは、前任が独力で調べ上げた『外部の情報』だよ。おまえが知りたいのは、『内部の情報』の方じゃないのか?」
ジニィは対面に座する騎士の鋭い視線から逃げた。馬車の窓が鏡なら、情けない顔の男が映ったはずだ。失望よりも、己の弱さが心を傷つける。
「前任は『関係者』から託されたと。今の自分じゃ役立てられないからって譲られた」
「それは多分、前代官の甥だ」
「え?」
アルカンは確信を込めて語り始める。行先がなかったピースが綺麗にハマり、新しい絵図が見えていた。
「二年前までソーン市の役人をやってた男さ」
「彼は今、どこに?」
「王都の墓地。水死体で発見されてから しばらく経つ」
「……」
アルカンは胸の内ポケットから小さな封筒を取り出した。中から滑り出たのは、黒ずんだ一枚の硬貨。
「役人は死ぬ前に、これを服の中に隠した。盗られないようにね」
「まさか……金貨!?」
騎士に死者のコインを差し出され、ジニィは おっかなびっくりソレを手に取った。生まれて初めて触る大金が、死者の持ち物だとは。それにしても、と首をひねる。
「馴染みのない絵柄だな」
施された意匠は、何らかのシンボルマークらしい。シンプルだが目を引く。
騎士は我が意を得たりと口角を上げた。
「鋭いね。コレは我が国に反目する隣国以南で広く流通している。地方役人には手に余る代物だよ」
隣国と聞き、ジニィは違和感の正体に気づいた。
「なるほど。異教徒のコインだったか」
「兄さん!」
突然の大声に体が跳ねる。抱きしめんばかりの勢いで両肩を掴まれ、麗しい顔が目の前に迫った。
「隣国以南の民ーー異教徒は、我が国の教えを貶める為に、足の裏に教紋を刻む事がある」
「は、はあ」
圧がすごくて、話の内容が入って来ない。
「教えを踏みつけるんだよ。
凄まじい痛みを伴うがゆえ、“罰”や“烙印”としても機能する……!」
「ひっ」
肩から腕を なまめかしく撫でられ、肌が粟立つ。ゾッとしたのは触り方のせいか、別人のような表情のせいか。
アルカンは満足気に微笑み、無理やりジニィの隣に腰を下ろした。
「ねえ、ジニィ。貴方に会わせたい人がいる。迎えに来たのはそのためさ」
「はあ?」
馬車は中心街を外れ、目立たない通りの前で止まった。車を降りて目的地までは徒歩。騎士様に腕を差し出され、ジニィは渋々と肘に手を掛けた。
「エスコート、好きだな」
「ジニィにしかやらない」
「えぇー」
辿り着いた場所は、こぢんまりした素朴な民家だ。ノックをしても返事がない。アルカンが中に向けて何事か告げると、覗くように扉が開いた。素朴とはかけ離れた、警戒心の塊がそっと顔を出す。
「私の名を主人に告げよ」
騎士の“開けゴマ”は強力で、二人はスンナリと中に通された。わけも分からぬまま招かれた家の中は、完全にアウェイの空気。
(どう見ても堅気じゃない奴ら!)
いかつい男ばかり見える範囲だけで五、六人。多分 他にも何人か隠れている。ジニィは戦々恐々しながらアルカンの背を追った。窓を閉め切った薄暗い部屋の奥。ランプが置かれたサイドテーブルの前には大きな一人掛けがあって、大柄な男が座っているのが見えた。アルカンが男と何やら挨拶を交わす。
「!」
カウチが揺れるほどの勢いで男が立ち上がった。その重い気配は、野生の熊が獲物を前に立ち上がる様にも似てる。
ジニィは何事かと身構え、アルカンは微動だにせず、迫りくる長身の男を注視した。男の顔を認識した瞬間、ジニィは目ン玉をひん剥いて叫んだ。
「うげっ! なんで親父がっ」
「ジニィ!?」
正体をあらわにしたのは、スカーフェイスに驚愕と歓喜を浮かべた精悍な男。彼は逃げを打つジニィを子犬のように抱き上げ、熱い抱擁をブチかました。
「ひぃ、ある、アルカ」
「ごめん」
ぬるりと逃げたアルカンからは、兄弟の絆を裏切る事への ためらいが一切感じられない。
「グエ〜ッ」
この放蕩親父、仕事の都合で遠くへ行ったっきり音信不通。顔も忘れた頃に帰還し、実の息子はスッカリ人見知りしている。
「どうしてここに。いや、息子よ。大きくなっ、……たか?」
「俺は とっくに大人だ!」
いかつい男たちもまた、警戒態勢から親子の再会を祝うモードに切り替わる。まるで誕生日パーティーのようだ。
「見ろよ お前ら。見た目は父親寄りなのに、童顔と性格は母親ソックリだ!」
どっと笑いが起きた。こんなもの身内ノリで笑っているだけでクソ面白くないし、実の家族よりアットホームで ただ苛つく。
「くっ。笑ってんじゃねえよオッサン!
ゴードン小父さんの方が よっぽど父親らしかったわ!!」
父は息子を圧迫する筋肉をフッと緩めた。
「そうか」
この何の気なしの反応に、ジニィが今年一番のブチギレをマークした。
「アルカン! 俺はもう帰る!」
ジニィは筋肉達磨の拘束から逃れると、鼻息も荒く踵を返した。ジニィを見送るのは父親の仲間たち。彼らとは顔見知りですらない。なのにジニィを見る目は、兄弟従兄弟甥への親しみに近い。謎が謎を生んで地味に恐怖する。
「ジニィ!」
息子の背に手を伸ばした父親の前に、黒い騎士が立ちはだかった。
「時間切れです。土産がお気に召したのなら、いつでもご相談ください」
一分の隙もない秀麗な笑みを唇に刷き、騎士はコートを翻して去っていった。
嵐のように去った息子らを見送り、父親は独りごちる。
「ハハッ。あいつまで母親ソックリに育ちやがった」
『お久しぶりです、義父さん』
最初に そう挨拶された瞬間の怖気は、しばらく忘れられそうにない。
✦✦✦
ソーン市中央衛兵隊。それがジニィと その部下が新たに所属する団体の名称である。分署にいたジニィらにとっては栄転だ。
が、この解釈は正確ではない。
今や犯罪者一族に名を落としたカドマス本家。その影響下にあった衛兵達への一時的な措置。監視と再監督が本来の目的だ。ゆえにジニィ隊は、かなり微妙な立ち位置にある。
「諸君、よく聞け。俺達を犯罪者の仲間と見なす連中の上手を取るぞ。先手必勝だ!」
「「「お〜〜」」」
「ちゃんと説明聞けよな!?」
ジニィには部下を守る義務がある。自分らに向けられる濃い色眼鏡を、せめて淡い色に。それが新隊長 最初の任務だ。
「隊長ってホントお人好し〜」
「ケケケッ。隊長にゃ もがき苦しむサマが似合ってんぜえ!」
「ハァ〜。早くクライヴに逢いに行きてえ」
「誰も隊長の悲壮な覚悟 見てないの、面白すぎる」
ジニィ隊は誰一人として反発しない。むしろ愉しんですらいた。
「で、どうすんですか?」
トサカ後輩がコテリと首を傾げる。カチカチのトサカが箒のように揺れた。
「俺たち変わり者じゃないッスか」
彼らは皆、己が周りから浮いている自覚がある。無いのはジニィくらいだ。
「屯所でやってる事をな、ココでもやれ」
「えっ。いつものコトって……」
「おいおい。そんなの逆効果じゃん」
四人が難色を示す中、奇人キディが喜びもあらわに机の上に登り、天井を指さして腰に手を当て絶好調ポーズをキメた。
「ヒョーッ、おれらに任せときなあ!」
「机に登っちゃダメ!」
「隊長。おれ野暮用あっから 非番の日パスしていいか?」
バスカルの行き先は、教会敷地内にある孤児院だろう。リユースと称して色々差し入れしてるらしい。だがコイツ、英才教育などと謳い、変なモノを持ち込む事がある。本格的なクレームが来る前に要対処だ。
「かまわない。みんな、俺が責任を取れる範囲内で頼むぞ!」
「「「隊長公認だってよ、イエーーーーッ!」」」
ジニィは謝罪行脚を覚悟して頷いた。どうせ いつか通った道、いつも通る道。旅は道連れ世は情け。
「寮生活じゃなきゃ詰んでたぜ……」
ジニィ・ブレシュ分隊長。しばらくは余裕のない生活が続きそうである。
ジニィ隊は概ねキャラが狂ってます(褒めてる)。




