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再会した元兄弟、因縁のワルツを踊る  作者: 垣花 やお


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12/17

古参は若手に苦労する

 大体ジェネレーション・ギャップ。

挿絵(By みてみん)

 あとがきに今話のダイジェスト版あり。

 その報は雷が如く衛兵隊に激震をもたらし、長閑だった街を混乱に陥れた。


 事は昼前に遡る。

「国境封鎖? 何の為にそんな事を!」

 新領主が国境検問所の封鎖を直接 国境警備隊に命じた。まるで戦時の扱いである。その報は 封鎖後 二時間弱で、ソーン代官の執務室まで伝わる。国境に接する街を治める代官にとっては正に寝耳に水。

「やってくれたな。実務者(わたし)の頭越しに命令を下すとはっ……!」

 デューガルドは憤った。新領主を煽った者には幾人か心当たりがある。“彼ら”も先代領主と同じ相手を敵に回し、手痛い しっぺ返しを食らった被害者。彼ら曰くの『温い手で迂遠な工作に 時間を無駄に浪費するデューガルド』を無視し、経験の浅い新領主を唆して強引な手段を取らせたのだろう。

「国境封鎖……つまり閉じ込めたい者が、我々の縄張りに居る」

「例の組織の幹部でしょうか」

 腹立ちよりも何よりも、今は この事態が何を引き起こすか、それが問題だった。デューガルドとその腹心達が状況分析を始めて間もなく、新領主からの命令書が届いた。情報伝達の時間差を狙っての小技だろうが、彼は まだデューガルドの本気を知らない。

「幹部どころか、首領(ドン)が来ているようだ」

「なんと!」

 さて、新領主は その情報を どこから手に入れたのか……。

「敵の首魁がソーンに閉じ込められているのなら、我々にとっても好機です」

 部下の一人が果敢に打って出るべきだと主張する。

「相手は無法者だ。居直って何をするか分からない!」

 別の者が慎重論を説く。どちらにも一理ある。デューガルドは物事を慎重に進めるタイプだが、速さがモノを言う現場で即断即決できる男でもある。

「緊急事態により、衛兵隊に戦闘任務を命じる! 出撃態勢を整えるよう伝令せよ!」

 こうしてジニィの所属する衛兵隊に命令が下った。


「くそっ。デートの予定がパーだ!」

 バスカルが悪態をつき、仲間らは支度を整える手を止めた。ジーンが派手な模様替えを施したロッカールームでは、聖人までもがバスカルを憐れみの目で見下ろしている。

「なぁにがデェトだゴルァ〜ッ。てめえクライヴは諦めねえって こないだ言ってただろうがよォ」

「「ふ〜たまた! ふ〜たまた!」」

 後輩二人が声を揃えて囃し立てる。

「実は私にも約束が。実家に帰って両親にカレを紹介したかったんです」

 クソガキ二人をアイアンクローで黙らせるバスカルの横で、グレイズが憂鬱な呟きを溢した。

「そうだったのか! おめでとう、グレイズ。俺たちにも ぜひ婚約者を紹介してくれ!」

「隊長……!」

「君が我が隊に来てから一年半。この扱い辛いバカ共を、時に母のように、時に姉のように叱り あやしてくれた……俺は君の尽力に感謝している」

 緊急事態下にも関わらず、未来の新婦へのお祝いスピーチが始まりそうだ。

「私こそ感謝しています。貴方が私を隊に受け入れてくれたから、今の私があるのですもの」

 グレイズのバックグラウンド――物心ついてから衛兵隊に入隊するまでの思い出が、色鮮やかに蘇る。武に適した恵体を持って生まれ、男装しては女子にモテまくり、己より強い男を求め叩いた衛兵隊の門。入隊してからジニィ隊に迎え入れられるまで、男の職場にグレイズの居場所は無かった。

「姐さん、おめでとうごさいます!」

「おめでと、アネゴ」

「おめっとさん」

「祝福せよォ!」

 自然と拍手が起きる。個人主義を極めて集団からあぶれた面々にとって、彼女の慶事は身内の慶事でもあった。

 鐘が鳴った。もう時間だ。

「カル。例の緑芋の粉は出来てるか?

 ジーン。頼んだ掛け絵の仕上がりは?

 キディ。抽出液の数は揃ったか?」

「「「完璧!」」」

 ジニィが部下らに用意させた“ブツ”を、材料提供に一役買ったグレイズはマジマジと観察する。

「こんなもの、どうやって使うんですか?」

 売り物にならず廃棄予定の材料を安く買い取ったジニィは、それらを三人の得意分野に合わせて加工させていた。いずれ起こるかも知れない“非常時”の為に。

「こういう事が起こるって分かってたんだろ、隊長」

 バスカルは警棒をベルトに挟み、ナックルダスターを両の拳に装着する。

「ああ。アルカンがソーンに留まる理由は、きっと重大な事案を抱えているからだ。中区の時みたいにな」

 アルカンが ただならぬ役職に就いている事は、既にジニィ隊も把握している。特にバスカルは、アルカンの部下とカドマス元隊長の持ち家で取り引きに応じた。特務は見た目通りの綺麗な人間ではないのだ。

「行くぞ!」

 集合場所に駆け足で移動する際、フレッド隊を見かける。そこにマイクの姿はない。ジニィは安堵してしまう己を戒めた。

「おお」

「すげぇな」

 中隊規模の武装兵団が形成される圧巻の光景に、実戦初参入のジニィ隊は息を呑んだ。実戦の気配は、否が応でも兵士の緊張感を高めていく。

「なぁ、まだなのか?」

 それゆえに待機時間が延びると、浮き足立つ者がチラホラ現れる。いよいよ誰かしらが上長に物申そうとした時、事態が急変した。慌てて飛び込んで来た下士官が、思い切り息を吸って叫ぶ。

「大変だっ。刑務所が破られたぞ!」

「――ッ!!?」

 それはソーン最大の服役施設が、外部の集団に攻撃されたという報せだった。

「おい、嘘だろ?」

「破られたってこたあアレか? 服役囚が外に」

 みなまで言わずとも、衛兵達は“これから起きる事”を予想して動揺する。

「バスカル。これから どうなると思う?」

 ジニィの質問に、先々起きる事態を 恐らく最も正確に予測しているバスカルが、真剣な面持ちで答える。

「過激な復讐だ」


「門、封鎖、急げ――!」

「待ってください!」

 小隊長の命令に、二人の分隊長が待ったを掛ける。ジニィともう一人、ジニィが生真面目で硬派と評したイケメン分隊長 オリバーだ。

「まずは街の住人を守らなくては!」

「我らが守りに徹しては衛兵隊の名折れ! 攻撃は最大の防御です!!」

 ジニィとオリバーの主張には、賛同と反対の声が同時に上がった。

「馬鹿者が! 連中の狙いは俺たちだ。奴らが復讐しに来るぞ!」

「そうだ、放っておいてもココに来る! だったら迎え討った方が効率がいいに決まってらあ」

「いいわけあるかっ! 連中はココに来るまでに街で略奪の限りを尽くすぞ!」

「市民を守る衛兵隊が 我が身可愛さで守りに入ったら、何の意味もないだろうが!」

 混乱する兵士らに業を煮やした“鬼軍曹(※あだ名)”が、不安を煽っているボンボン三尉に拳を一発お見舞いした。一瞬の沈黙の後、派手な歓声が上がる。

「ヒュー♪ 暴力男も偶には良い仕事すんじゃん」

「あわわ。あんな事しちゃっていいのか!?」

 沸き立つ隊員らを制し、鬼軍曹が中隊長に場所を譲った。

「代官様からの命令書を読み上げる!

 『諸君らは誇りあるソーン中央衛兵隊の衛兵である。その使命を全うするため、荒ぶる暴徒を迎え討て!!』以上ッ。

 私からも一ツ!

 己の命が惜しい者は、今日をもって衛兵隊を去れ!!」

 ――以上。

 アツい檄と共に出撃命令が下された。ソーン中央衛兵隊の、長い一日が始まる。


<ダイジェスト>

・新領主(代替わりしたばかりの若い領主)が、麻薬カルテルの総帥(ドン)を隣国に逃さないよう、国境を塞ぐ命令を下した。

・代官 激おこ。

 →ソーン中央衛兵隊へ戦闘準備命令。

・総帥の部下らしき小集団が刑務所を襲撃。服役囚が脱獄。因果の巡りで衛兵隊が狙われる。

・なんやかんや揉めつつも、脱獄囚から街を守る為に衛兵隊が出撃を開始する。

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