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来たるべき破滅のために  作者: Barkley
第三章 変動
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顔と手

 政変が成功したかどうかは、建物を押さえた時にはまだ決まらない。


 新しい言葉が、古い生活の中へ入り始めた時に初めて決まる。


 六月二十五日の夜、ソウルではまだ銃声の記憶の方が強かった。封鎖線、車列、途切れる通信、遅れて流れる公式発表、無数の断片動画。都市は、まだ「何か大変なことが起きた日」の顔をしている。だが、政権というものは、そういう顔のままでは長持ちしない。翌朝までに、恐怖を制度へ変えなければならない。恐怖だけでは人は逃げる。制度の顔を与えると、人は少しずつ従う。


 ハン中将は、その夜ほとんど眠れなかった。


 疲労ではない。疲労ならむしろ眠れた。眠れないのは、自分が何を始めてしまったのかを、頭のどこかでまだ道徳の言葉に翻訳しようとしているからだった。国家存立。若者の未来。腐敗した政争の停止。そうした語を昼間の声明では口にした。だが夜になると、その言葉の後ろにもっと裸の現実が見えてくる。警察の後退。拘束された官僚。動揺する閣僚。街頭で自分たちを撮っていた若者の顔。支持と嫌悪が同じ眼球の中で同居している、あの気味の悪い視線。


 自分は国家を救ったのか。

 それとも、国家の顔をした別の怪物へ、入口を開けただけなのか。


 その問いは、古国良平が六月六日に抱いたものとよく似ていた。ハン自身はまだそれを知らない。知らないが、政変の最初の顔になる人間は、たいてい同じところで躓く。自分を例外だと思いたい。だが権力の内部には、自分を例外としては扱わない別の速度の人間が必ずいる。


 ナム大領は、その夜、一度もその種の問いを発しなかった。


 彼は別室で名簿を見ていた。警察。情報機関。通信。若手将校の志願者。勝手にこちらへ寄ってきた大学生グループ。SNSで露骨に維新軍政府を礼賛している半端な愛国者。

 全部を同じ目で見ていた。


 要るものと、要らないもの。


 若者の支持は必要だ。だが若者そのものは信用しない。熱狂は必要だ。だが熱狂している本人たちは邪魔だ。政変直後の軍政府にとって、群衆はだいたいそういうものだった。街頭で喝采する若者ほど扱いにくい。すぐに「自分たちが革命を作った」と思い込むからだ。そう思い込んだ瞬間、彼らは軍の外側から軍へ要求を始める。南はそれを一番嫌っていた。


「宣伝班へ」


 彼は短く言った。


「支持集会はまだ許可するな。オンラインだけで十分だ」


「ですが、若年層の熱は使えます」


 若い少領が言う。


「だからこそ使い捨てる」


 南は答えた。


「街頭に出したら、自分の力だと勘違いする」


 冷たい判断だった。だが正しかった。若年層に必要なのは、参加の実感ではなく、支持しているつもりの快感だけだ。快感だけ与えて、実権には近づけない。その方が長持ちする。


 翌朝、維新軍政府の第二日目は、信じがたいほど普通の顔で始まった。


 地下鉄は間引きながらも動く。コンビニは開く。会社は「状況を見ながら通常営業」と告げる。大学は休講判断を各学部へ丸投げし、学生は構内でスマートフォンを見ながら議論の真似事をする。つまり、韓国社会は一度大きく揺れた後で、もう一度「普通のふり」を始めたのだ。ここで新政権がやるべきことは一つしかない。その普通のふりの中へ、自分たちの語彙を混ぜることだった。


 午前十時、ハン中将は二度目の声明を読み上げた。


 前日よりずっと短い。

 国家再建。若年世代の再配置。兵役制度の抜本再編。住宅秩序の改正。腐敗した既成政党の政治活動停止。

 どれも、まともに読めばすぐには実現できないものばかりだ。だが実現可能性はこの段階では重要ではない。重要なのは、若年層の怒りの語彙を先に国家が奪うことだった。


 ヘル朝鮮。兵役搾取。老人共和国。男女憎悪の政治利用。


 それらを軍政府の側が先に公式文書へ書き込んだ瞬間、若者は一瞬だけ混乱する。自分たちの悪口や恨みが、国家の声明にまで上がってくるからだ。そこに錯誤が生まれる。ああ、この政権は自分たちの敵意や不満を理解してくれているのかもしれない、と。その誤解こそが新政権には必要だった。


 ミンジョンは、その声明を、会社の採用サイトを見る代わりに読んでいた。


 信用していない。そんなことは自分でも分かっている。軍が若者を救うなど、本気で信じるほど愚かではない。だが、信用していないままでも、その語のいくつかは胸に入ってしまう。


 兵役制度の再編。老人政治の停止。若年世代の再配置。


 どれも、ずっと誰かに言ってほしかった言葉だった。言ってほしかっただけで、それを軍政府が実現するとは思わない。思わないのに、それでも一瞬だけ身体のどこかが軽くなる。その軽さに、ミンジョンは自分で怯えた。独裁とは、多分こうやって始まるのだ。誰も本気で信じていないのに、今よりましかもしれないと思ってしまう、その瞬間から。


 ソンミン中尉は、部隊の中で別の変化を見ていた。


 昨日までただ怒っていた若い兵たちが、今日は妙に静かだ。静かで、従順で、目だけが妙に熱い。危ない熱だった。達成感ではない。何か大きな時代の側へ立ったのではないかという錯覚の熱だ。クーデターのあとに最も怖いのは敗残兵ではない。こういう中途半端に選ばれた気分になった若い兵である。ナム大領が街頭集会を避けたのは正しいと、ソンミンはそこではっきり理解した。


「中尉」


 新任の若い少尉が話しかけてきた。


「これで、ようやく変わりますかね」


 ソンミンは、その問いにすぐ答えなかった。

 ようやく変わる。

 その言い方は、自分も昨日、心のどこかでしていた。

 だが一晩経つと分かる。変わるのは確かだ。だが、それが自分たちのために変わるとは限らない。


「何がだ」


 わざと聞き返した。


「この国ですよ。もう、前には戻らないでしょう」


「戻らないだろうな」


「じゃあ」


「前よりいいかどうかは別だ」


 少尉は少しだけ口を閉ざした。若い。まだ、自分たちの行為に物語を付けたがっている。ソンミンはそれが嫌ではなかった。嫌ではないが、危険だと思った。六月二十五日は、彼らにとって解放のように感じられたかもしれない。だが国家は、解放のために軍を使わない。軍を使う時は、もっと別の秩序を作るためだ。


 ハン中将は、その日の午後にはすでに消耗し始めていた。


 テレビに出る。外国記者へ応じる。財界人と会う。高級官僚に「国家再建への協力」を求める。

 つまり、国家の顔として使われる。

 使われるというのはこういうことだ。威厳を保ったまま、疲れを隠し、恐怖と曖昧さを全部飲み下して、表へ出続ける。ハンはまだ自分が指導者だと思っていた。実際にはもう違う。国家の顔と実際の権力は、政変の二日目から分離し始めていた。


 ナムはその背後で、粛々と処理を進めていた。


 警察幹部の再配置。通信系統の一本化。若年支持層向けの宣伝文句の調整。過激すぎる志願者の切断。

 そして何より、軍内部の「ハン中将への忠誠」と「維新軍政府への忠誠」を静かにずらしていくこと。


 ここが最も重要だった。


 ハン個人へ忠誠が残ると、体制は古い軍閥政治になる。維新軍政府という名称へ忠誠を移せば、顔はあとで取り替えられる。

 ナムは最初からそこを見ていた。


「宣伝文の修正版です」


 補佐官が持ってくる。


 南は目を通した。


 『ハン・ドンギュ中将の英断のもと、若い世代の国家参加を拡大する』


「駄目だ」


「どこが」


「ハン中将が主語だからだ」


 南は紙を机へ戻した。


「主語は軍政府だ。中将を個人崇拝の顔にするな。今はまだ要るが、長くは持たせない」


 補佐官は頷き、すぐに引き下がった。そこでためらわない人間だけが、ナムの周りに残る。


 ソウルの街では、若年層の反応がさらに二つへ割れ始めていた。


 一つは、あからさまな歓迎だ。老人たちの共和国がついに割れた。兵役と就職と住宅の地獄を終わらせろ。既成政党を全部潰せ。そういう、破壊を破壊のまま支持する層。


 もう一つは、もっと厄介だった。怖い。軍政など信用できない。だが、既存社会ももう信用できない。なら、どちらがましか分からないまま、しばらく見てしまう。この「しばらく見てしまう」という態度が、実際には最も体制へ奉仕する。熱狂よりずっと使いやすいからだ。


 ミンジョンは、自分が明らかに後者へ落ちていると知っていた。


 軍政を嫌悪している。だが共和国に戻りたいとも思わない。結局、自分たちはずっと、どちらかを選ばされるだけなのか。そのことが腹立たしくて、夜、匿名アカウントで短く書いた。


 『老人に食われる共和国より、若い軍の方がまだましに見える社会の時点で終わってる』


 投稿はすぐ拡散した。支持も罵倒も同時に来た。

 そこにいまの韓国の病理が全部あった。誰も未来を信じていない。

 ただ、どちらの終わり方がまだましかを比べているだけだ。


 六月二十六日の夜、ハン中将は一人で窓の外を見ていた。


 都市はまだ光っている。焼けてはいない。内戦にも見えない。

 そのことが逆に彼を不安にした。

 あまりに静かだ。


 そこへナムが入ってくる。


「どう見える」


 ハンが訊いた。


 ナムは少し考えてから答えた。


「成功です」


「早すぎる」


「遅いよりはましです」


 韓東圭は、その返しに少しだけ疲れた顔をした。

 この男は、本当に政治を速度でしか見ていない。

 だが、そういう男がいなければ自分の政変は一日も持たなかったことも知っている。


「若い世代はどうだ」


「支持はあります」

「熱狂しているか」

「一部はしていません」


 南は言った。


「でも、それで十分です。今必要なのは愛ではなく、旧共和国が死んでいいという黙認です」


 その言葉に、ハンはようやく理解した。

 自分は若い世代の指導者になるわけではない。

 せいぜい、彼らが旧国家の死を受け入れるための中継役だ。

 つまり、顔として消費されている。


 彼はそこで、ほんの少しだけ遅れて、自分の立場の軽さに気づいた。大韓民国維新軍政府の首謀者。

 だが、本当の意味でこの政変を動かしているのは、四十代の大領と、その下のさらに若い怒りだ。

 自分はその怒りへ、老いた国家の顔を与えるために立たされているにすぎない。


 その認識は遅かった。だが遅くても十分に人を傷つける。


 東京の四谷は、その頃、韓国から上がってくる報告を見ていた。


 ハン中将は想定通り、顔として機能している。

 ナム大領は想定以上に優秀だ。

 若年層の支持は熱狂ではなく、旧社会への報復感情として安定している。

 つまり、最も扱いやすい状態だった。


「韓国はこれでいい」


 四谷は言った。


 神代はその言い方に、相変わらず寒気を覚えた。

 これでいい。

 何が。

 国家が割れ、若者が破壊を期待し、軍政が新しい制度を作り始めている、この全体が「これでいい」と言える頭の構造そのものが、一番悪い。


 だが悪いからといって、止まらない。悪いからこそ、良い。良いは悪い、悪いは良い。

 悪いものが止まらない時代へ、もう入っている。


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