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来たるべき破滅のために  作者: Barkley
第三章 変動
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新設

 二〇二九年三月八日、陸上自衛軍の中枢で新しく作られた部署には、いかにも急造の名前が付いていた。


 特殊作戦団・特殊作戦支援部分班。


 名前だけ見れば後方支援部門だった。正面で戦闘する部門には見えない名前だ。だが実態は逆だった。四谷賢一は、第二革命以後、都市の中で最も厄介なのは武装勢力そのものではなく、武装へ至る前の雑多な回路だと理解していた。生活相談。労働相談。匿名配送。居場所の共有。翻訳。小口送金。病院同行。そうした一見すると政治に見えない機能が、やがて反体制の回路を作る。ならば、撃たれる前に撃つ。


 特殊作戦支援部分班は、そのために作られた。


 表向きの任務は、国内擾乱勢力に関する情報収集。文言は穏当だった。だが四谷が本当に欲していたのは、もっと露骨なものだ。人の顔を覚え、口調を真似し、信頼され、内部へ入り込み、最後には誰をいつ消せば組織が死ぬかまで把握する人間。つまり、ヒューミントの職人集団だ。


 その班の責任者に据えられたのは、二等陸佐・葛城誠司という男だった。表情が薄い。人に威圧感を与える顔ではない。だから向いていた。ヒューミントの世界では、目立つ人間は二流だ。本当に怖いのは、会って十分で顔を忘れるような人間である。葛城はその種だった。


 初日の説明で、四谷は短く言った。


「国内で生起し、世界に根を広げつつある極左組織がある。最終インターナショナルという。彼らを潰す」


 会議室は静かだった。


「だが、街頭で潰すな。見せしめで潰すな。彼らが自分を英雄だと思える形で潰すな」


 四谷の声には熱がなかった。


「中へ入れ。中へ入り、誰が本物で、誰がただの愚痴要員で、誰が資金を回し、誰が寝床を出し、誰が逃走路を知り、誰が海外と繋いでいるかを掴め。その上で、組織の側には何が起きたか分からせないように刈れ」


 葛城はその指示を聞きながら、この男は軍人というより病理医だと思った。死体を派手に壊すのではなく、どこを切れば全身が静かに止まるかだけを見ている。


 四谷は続けた。


「必要なのは殲滅ではない。地下化だ」


 そこにいた若い将校の一人が眉を上げた。地下化させてどうする。野放しより厄介ではないか。そういう顔だった。四谷はそれを見て答えた。


「地上にいる運動は、生活と繋がる。地下に潜った運動は、生活を失う。その時、主導権は最も過激で、最も実務的で、最も倫理の薄い連中へ寄る」


 つまり、志門の手から最終インターを剥がし、ジュリアス・イーデンのような過激な連中へ寄せる、ということだった。


 葛城は、そこでようやく四谷の狙いを理解した。逮捕は目的ではない。変質こそ目的だ。向こうが自分で地下へ潜らざるをえなくなり、その結果として過激化していく。そうなれば、最終インター全体は前より過激に、前より国際的に、前より国家の管理しやすい「敵」になる。


 いやな発想だった。だが、あまりに筋が通っていた。


「手段は任せる」


 四谷は最後に言った。


「ただし、失敗は許されない。内偵対象へこちらの形を見せるな。見せる時は拘束の瞬間だけでいい」


 会議が終わった後、葛城は班員候補の顔を見た。「会話において自分を消せる人間」だけが集められている。軍人らしさの薄い顔ぶれだった。制服より私服が似合う連中だ。だが、こういう連中の方が情報活動に向く。


 その日のうちに、班には最初の任務が下った。


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