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転生者は身バレしても平穏を求める  作者: 天原 重音
坂月菊理編 異世界帰りの転生者は平穏を望む

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昼休みの異変②

「……成程、先程の青い炎は坂月さんの魔法だったんだね」

「そう言う事。それよりも、この状況を作った奴を探す方が優先だ。ゾンビの出所は見ていない?」

「ごめん、私もゾンビを退治しながら探したんだが、見つかっていない」

 宇賀神英奈(うがみえな)さんと互いに会うまでの状況を説明し合った。困った事に、宇賀神さんは現状を打破するに立つ情報は持っていなかった。

 風属性の魔法を使い、学校の敷地内を軽く探索する――が、手掛かりは得られなかった。

「二手に分かれて探すしかないか」

「ねぇ、この結界を先に壊した方が良いんじゃない?」

「ゾンビの生き残りか、ゾンビを放った奴が結界内に残っている可能性が有る。迂闊に結界を破壊したら、取り逃がす事になるし、被害が中等部にまで広がる」

「あの魔法で生き残っているゾンビがいたら逆に凄いけど、……中等部は無事なのか」

 宇賀神さんがドン引きしているが気にしない。

 いざ分かれて行動をしようとしたら、宇賀神さんに『待って』と引き留められた。思わず渋面を作って宇賀神さんを見ると、『竹刀の代用品を持っていないか?』と相談を受けた。

 竹刀でどうやってゾンビを退治したのか――宇賀神さんは前世聖騎士だった神聖魔法の使い手で、浄化系の魔法を竹刀に付与してゾンビを退治した――は聞いたけど、自分が魔法を放つ寸前に竹刀が魔法に耐え切れずに折れてしまったそうだ。

 悩んだ末に、自分はカットラスを出した。普通の剣はカットラス以外に余りない。

「それ、海賊がよく使う剣じゃないか?」

「嫌なら、徒手空拳でどうにかして」

「ありがたくお借りします」

 差し出したカットラスを見て、宇賀神さんは一瞬嫌そうな顔をした。けれど、言い返したら宇賀神さんは恭しく両手でカットラスを受け取った。

 前世で海賊と何があったか知らないが、この状況下で贅沢を言わないで欲しい。

 念話を付与した小さな水晶を宇賀神さんに渡し、使い方について簡単に説明してから、二手に分かれて行動を開始した。

 この時、スマホの番号は教えなかった。宇賀神さんは知りたそうな顔をしていたけど、『この結界でスマホが通じる可能性は低い』と言って拒んだ。



 屋上から跳び下りた宇賀神さんを見送った自分は、生徒の生命力が集まっている場所を探す事にした。

 集めたものを奪われないようにするのは当然の事だ。奪われないようにする為の迎撃対策も取られている事だろう。

 霊視を起動させて赤い空を見上げて、生徒から奪われた生命力が集まっている場所を探す。中央と四隅のどこかだと当たりを付けて、この五カ所を中心に探す。

『坂月さん! 聞こえる!? 藤井校長を見つけた!』

 二手に分かれて五分も経たない頃に、念話による大声が脳内に響いた。思わず顔を顰めて霊視を止めて、宇賀神さんからの念話に対応する。

『校長がいたって、他の教師と生徒と同じように気絶しているんでしょ? 転がしておけば良いじゃない』

『それが、ボロボロな上に、意識があるんだよ!』

 こんな状況下で意識を保っている。奇妙な引っ掛かりを感じた自分は探索を中止する事にした。

『現在地はどこ? あと、校長は何か言っているの?』

『え!? えと、正門の前で、校長は何も言っていない』

『分かった。すぐに行く』

 念話を停止させてから、校内の地図を思い浮かべる。正門の場所はコの字型をした校舎の、現在いる校舎のを挟んだ向こう側だ。

 重力魔法を使い、宙へ浮き上がりそのまま水平に移動する。空間転移魔法で移動した方が速いと思うが、ゾンビの生き残りを探す為に、空中を移動する。

 ……見た感じ、ゾンビはいない。ゾンビを放った奴はどこにいる? やっぱり、結界の外か?

 状況を打開する手立てが見つからない。ゾンビを放った奴の姿すら見つからない。

 色々と考える事はあるけど、今は校長を優先しよう。

 校舎を越えたら、正門の方向を見る。遠目に宇賀神さんがおり、自分に気づいたのかこちらに向かって手を振っている。児童のような行動だが、早く来て欲しいと言うことかもしれない。

 宇賀神さんの傍に降り立つなり、『校長が気絶した。どうしよう!?』としがみ付かれた。

「どうしようも何も、神聖魔法が使えるんでしょう? 簡単な治癒魔法ぐらい使えないの?」

「ごめん。私、そっち系苦手で、付与系と補助系の魔法しか使えない」

「本当に神殿騎士だったの?」

「面目ない……」

 宇賀神さんは悄然と肩を落とした。

 神殿騎士に成る為の基準は、神殿や世界ごとに違うけど、簡単な医療知識や止血程度の治癒魔法が使える人は使える人は多かった。

 宇賀神さん(前世)はどうやって神殿騎士になったんだ? 魔法の適性と剣の腕だけでなったのか?

 ……マジで呆れる。つか、面目ない、じゃないんだけど。

 胸にたまったモヤモヤを天を仰いで吐き出し、深呼吸を繰り返す。切羽詰まった状況なのだから落ち着けと、己に言い聞かせて無理矢理落ち着かせた。

 それでも、しょんぼりとしている宇賀神さんを見るとイライラしてしまう。

 状況が落ち着いたら、甘いものを食べに行こう。その為に、状況をさっさと終わらせよう。

 心の中で目標と予定を立てて意識を切り替え、一先ず見た目がボロボロな校長の手当てを行った。見た目の割に軽傷だった(気絶の原因は単なる疲労)ので、校長はすぐに回復した。

 校長が目を覚ましたら、ここで倒れていた理由や、この状況を引き起こした奴などの説明を要求した。

「私が倒れていたのは、中等部と小鳥遊学園へ応援を要請する為に、結界をこじ開ける為に力を使い果たした結果だ。この状況を引き起こした奴はすでに逃亡した。捜索は必ず行う」

「へ? 中等部と小鳥遊学園に応援を要請? そんなのスマホを使えばすぐに終るんじゃないですか?」

「この結界は電波を通さない。内部でスマホを使うのは無理だ」

「うっそぉ!?」

 明かされた真実を聞いた宇賀神さんは、劇画風な顔で驚愕した。

 自分は予想が当たっていた事を知り、内心でため息を零した。

「校長先生。強引な方法以外で、この結界を解く方法は知っていますか?」

「すまない。それは私にも分からん。ゾンビが全滅しているのならば、要石の破壊は可能だろう」

「そうですか」

 結界を展開している起点となる要石が存在するのか。だったら、早々に破壊してしまうのも手だな。

「宇賀神さんはここで校長先生と一緒にいて。要石を探して破壊して来る」

「待ちなさい。中等部に応援要請に向かった先生達がそろそろ戻って来る筈だ」

「校長、それはあと何分後ですか? 調べた時の情報ですが、制限時間は一時間ですよ」

 鑑定魔法を使って調べてから、それなりの時間が経過している。時間は計測していないが、三十分は残っている筈だ。

「そ、それでもだね。君一人で向かうのは危険じゃないか?」

「ゾンビは既にほぼ一掃しました。生き残りは少ないでしょう」

「だが、生徒一人で向かわせては校長の名折れ。仕方がない。三人で行こう」

「……そんな痛恨の極みと言わんばかりの顔と、芝居がかったしぐさで言われても」

 校長は何が何でも自分を一人で行かせたくないらしい。宇賀神さんはおろおろとしているだけだ。

 ……こっちは死人を出さない事を優先していたが、もう良いかな?

 何度目か分からないため息を吐いた時、校舎の方角から複数の足音が聞こえて来た。宇賀神さんも足音に気づいたのか、カットラスを鞘から抜き放った。

 ゾンビにしては、聞こえる足音が軽快だ。誰が来るのかと宇賀神さんと二人で警戒したが、校長から『落ち着きなさい』と叫び声が上がった。

 宇賀神さんと二人で怪訝な顔をして校長を見た時、『おーい』と呼び声が聞こえた。

 再度、宇賀神さんと二人で声が聞こえて来た方向を見ると、こちらに向かって走って来る複数の教師と在校生の姿が見えた。全員、剣弓槍銃などで、武装しているんだが、どうなっているんだ?

「ほら、待っていて正解だっただろう?」

 こちらに向かって来る面々を見て、校長が勝ち誇った顔をした。見ていて実にイラっとする顔だった。

「芝居がかったしぐさで人をイラつかせる行動の一体どこが正解なのか教えて欲しいんですけど? もう手伝わないのでそっちの人員でどうにかして下さい」

「え゛っ!?」

 勝ち誇っていた顔から一転して、校長の顔が凍り付いた。そして、顔を凍り付かせたのはカットラスを鞘に戻した宇賀神さんも同じだった。

 二人が動きを止めていた間に、教師と在校生一行がやって来た。想像以上に人数が多い。

「宇賀神? 何故ここにいる?」

「えっ!? ぶ、部長ぉっ!?」

 宇賀神さんの発言通り、一行の中には何故か剣道部(他の部活と違い男女混合)の部長が混ざっていた。一行をよく見ると、合唱部の部長(女子生徒)がいたけど、一行の殆どが運動部の生徒と顧問が中心だった。

 よく分からない編成だが、教師の人数が十を超えている。

 これだけの人数が揃っているのなら、今後の事を丸投げしても大丈夫だろう。

「宇賀神さん、カットラスと念話石を返して」

「へっ!? いや、待って!」

 出した時には嫌そうな顔をしていたのに、宇賀神さんはカットラスを抱えた。

「これだけ人数がいれば出番なんて無いでしょ」

「待って! 剣を持っていないと落ち着かない」

「竹刀はどうしたのよ?」

「もう使えないから捨てました」

「どうして捨てたのよ」

 マジで役に立たないな。何なんだよ、この頭が痛くなる展開は?

「落ち着け坂月。一先ず、こちらの言い分を聞いてくれ」

 頭痛を覚えて額に手を当てていると、難しい顔をした剣道部の顧問の男性教師――大熊先生(所持している武器は野太刀だった)が口を開いた。この先生の実家はマイナー剣術道場だと聞いたんだが、何故か毎月行われる異種格闘技戦顧問の部で、素手で普通に優勝している人物だ。

 お堅く怖い印象を持たれがちな先生だが、私情を挟まずに公平な判断を下し、柔軟な対応を取ってくれる先生でもある。とりあえず、校長から受けた仕打ちを話そう。

「手当てしてあげたのに、校長から芝居がかった言動で私をイラつかせて勝ち誇ったような顔をして喧嘩を売られました。これ以上何を待てと仰るのですか?」

「それに関しては全面的に校長が悪い」

「え゛っ!?」

 大熊先生が潔く『校長が悪い』と認めた。宇賀神さん以外の全員が頷いた。校長は顔を青褪めさせた。

「状況が終わったら謝罪させるから、こちらの話を聞いてくれ」

「焼き損ねたゾンビがどこかにいるんですか?」

「焼き損ね? ……いや、何でも無い。私は地下にいたが、ゾンビを一掃した青い炎は地下にまで届いていた。だから、仕留め損ねたゾンビはいない筈だし、他の敵性生物はいない」

「そうですか。それで?」

 怪訝そうな顔をした大熊先生だったが、話の腰を折らずに己の見解を口にした。見解を口にしたが、その先を言う気配が無かったので、自分は先を促した。

「地下を捜索したが、結界を展開している要石が見つかっていない。勿論、地上も既に捜索した」

「空を調べないと見つからないって事ですか?」

「そうだ。飛翔可能な人員は、全員大会に出場中でいない。だから、結界をこじ開ける手伝いをしてくれ」

「飛翔なら私も出来ますよ?」

 空は飛べると進言したが、大熊先生は首を横に振って却下した。

「いや、今は良い。中等部と小鳥遊学園に応援を呼びに向かった連中がそろそろ戻って来る可能性が高い。敵性生物がいないのなら、結界を無理矢理破る事で、停止させる事は可能だ。結界を破って合流を優先したい。結界の破壊作業を手伝ってくれ」

「……一時間で結界内の生徒の生命力を吸収するタイプなら、そっちが良いかもしれませんね」

 大熊先生からの提案を聞き、自分が持つ情報と照らし合わせて、行動の選択を天秤に掛けた。

 周辺から『一時間がリミットなのか!?』と、驚愕の声が上がった。自分はその声を無視して、霊視ではなく、鑑定魔法で結界を調べる。

 

 鑑定結果:溶解型吸収結界。

 術者の技量が上級である為、展開から一時間で一定以下の魔力を保有するものを溶かして吸収する。

 吸収した魔力は天井へ集まっている。吸収した魔力を霧散させない為に、地上に近い部分の結界強度は天井に比べると脆い。修復機能付き。

 五メートル四方の亀裂を入れる事で、結界を停止させる事は可能。


 鑑定結果を読み取った自分は大熊先生に鑑定結果を告げた。鑑定結果を知った大熊先生は武装した教師と生徒に指示を飛ばした。指示を受けた教師と生徒は結界の破壊を試みる。

 なお、宇賀神さんには、自分から借りたものを速やかに返却するように命じた。宇賀神さんはショックを受けたような顔で固まったが、所属する部活の顧問に睨まれて速やかに行動した。すぐに宝物庫に仕舞う。

 けれども、宇賀神さんはちゃっかり念話石を拝借しようとしたので、はっきりと念話石の返却を要求した。

「うう……、便利だったのに」

「こんな状況で火事場泥棒するな。その手癖の悪さで、本当に神殿騎士だったの?」

 残念過ぎる元騎士の行動に対して、大熊先生も呆れている。

 ここで、結界の破壊を試みていた面々から応援要請を受けた。彼らが言うには、手持ちの武器でどんなに攻撃を加えても、結界に亀裂すら入らないらしい。

 大熊先生が結果に近づいて、抜刀した野太刀で試しに斬り掛かった。流石と言うべきか、結界に斬撃痕が残ったが、瞬く間に修復された。

「強度と修復速度、共に上級レベルか。亀裂が入るまで全員で攻撃を繰り出せば、破壊は可能か」

「大熊先生。結界が展開されてから、もうすぐ三十分が経過するんですよ? どれだけの時間を要するか分からない方法を試すのは――」

「菊池。反論を口にするのならば、別案を出せ」

 大熊先生が剣道部主将の言葉を一刀両断すると、武装した面々と校長達で『結界をどうすべきか』の議論が始まった。

 議論に加わって無いのは自分と宇賀神さんだけだ。

「坂月さん。カットラスをもう一度貸して」

「借りパクされそうだから嫌」

「今度はしないよ!」

「今度『は』って何? 今度『は』って」

 しがみ付いて来た宇賀神さんを見ると、口からため息が漏れそうだ。

 仕方が無く、宝物庫に仕舞ったカットラスを取り出して宇賀神さんに渡す。

 カットラスを受け取った宇賀神さんは満面の笑みで自分に礼を言い、結界に近づいた。宇賀神さんは鞘から抜いたカットラスの刀身に付与魔法を掛けたのか、カットラスが白く光り輝いている。

「――せやあああああっ!!」

 一度深呼吸をしてから、宇賀神さんは渾身の叫び声と共に結界に切り掛かった。議論していた面々も何事かとこちらを見た。

「噓ぉっ!?」

 しかし、結果はこれまでと同じだった。

「噓、……魔力の殆どを、注ぎ込んだのにっ」

 その言葉通りに、魔力の殆どを使用したらしい宇賀神さんは、息を切らしてその場に座り込んだ。

 結果を見た面々の顔が強張った。

「うう、どうすれば……、あ、坂月さん、炎! ゾンビを焼いた、あの青い炎!」

「結界を焼いてどうするのよ? 意味が無いでしょう」

「で、でも、他に、方法が無いよ!?」

 攻撃が通じなかった事で狼狽えている宇賀神さんが要らん事まで言った。全員の視線が自分に集中する。同調圧力と言う言葉以上の鋭い視線が自分に突き刺さる。

 校長のウザい言動でやる気は無くなっていた。けれども、今回ばかりはやるしかないらしい。

 天に向かってため息を吐き、宇賀神さんからカットラスを回収し、自分は結界に近づいた。


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― 新着の感想 ―
ククリさんが、どんどん面倒くさくなっておられる。まあ、会話が成立する人もいるだけマシな状況かもしれませんね。全員騒ぐだけで何もできない会話も通じないことも結構ありましたものね
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