エクソシスト ①
この作品はフィクションですが、念の為書きます。
実在する団体・組織とは一切関係ありません。
この作品の舞台の地球は、架空の地球です。
大熊先生を追い、宇賀神さんと一緒に地下へ続く階段を下りながら、これまでに得た情報を整理する。
エクソシスト。
世界各地に出現する『超常の存在を祓い、討伐し、時に封印する』事を、世界の裏で行い続けていた存在。
第二次世界大戦後、国連の裏会議でこの呼称で統一された。それまで日本では『陰陽師』と呼ばれていた。
呼称に合わせて、世界本部はバチカン市国の地下に存在する。
私立レオーネ学校と獅子倉グループ。
獅子倉グループは代々エクソシストを生業とする家系――明治以前は陰陽師として活動していた家系で、明治時代に行われた陰陽寮の廃止に伴い、以降は財閥を築いて家系を維持した――が一つになる事で出来上がった。
私立レオーネ学校はエクソシストの家系の生徒が庇護すべき対象の事を理解する為に設立された。
レオーネなる人物に感銘を受けたのは『共に学び舎に通う事で、互いに理解し合える』の部分だったらしい。
私立レオーネ学校の姉妹校どころか、獅子倉グループが運営している学校は全て、エクソシストの生徒が通う事を前提にしている。
エクソシストの生徒が通う事を前提としているので、当然のように地下に専用の設備が存在する。
学校の情報秘匿関係の都合で、教職員の約四割がエクソシストで構成されている。
現時点で覚えておけばよい情報はこの辺だな。その内『落ちる男』とか、『ポンコツ美少女大魔王』とかが出て来そうだね。何度も世界を救った前者はともかく、後者は出て来なくても良いな。
階段を下りて大熊先生に続いて金属製の通路内を歩く。ここだけSFチックだな。
暫く歩いて、大熊先生はとある部屋に入った。
宇賀神さんと一緒に入ると、壁の一面がモニターで埋まっていた監視室のような場所だった。管理人らしい人もいて、現れた大熊先生に驚いている。
大熊先生が用件を話すと、別室に案内された。
案内された部屋はあちこちにデスクトップパソコンが置いてあった。その内の一つの前の椅子に座った大熊先生がデスクトップパソコンを操作して、ディスプレイに映像を表示させた。
暫くの間、三人でディスプレイを眺める。
魔法陣を撮影した映像を『時間を遡った』事で判明したが、自分の推測は当たっていた。
「ゾンビが自爆する事で描かれた魔方陣だったのか」
「これだけだと、最初の一体目のゾンビが、どこから侵入したのかが不明ですね」
「そうなるが、魔法陣はここ以外にも複数個所に存在した。誰がどうやってゾンビを地下に放ったのかが分からないと、対策は出来ないな」
「魔法陣の場所に意味はありますか?」
「場所の意味か。……地上への道をゾンビで塞ぐようになっていただけだな。霊道ですら無い」
「足止めが目的ですかね?」
「それ以外は何も分からないが、地上への足止めをして何の意味がある?」
大熊先生と話し合っていたが、一人だけ貝になっていた宇賀神さんを思い出し、先生と同時に彼女を見た。これまでずっと貝になっていた宇賀神さんは、視線を集めて肩を跳ね上げて狼狽えた。
「宇賀神さんが狙いと言う線はあり得ますか?」
「可能性としてはなくはない。それを言うと、坂月を狙った可能性もある」
「その可能性は否定しませんが、宇賀神さんが保有する霊力は貴重です。それが狙いと見るべきではないでしょうか」
「霊力持ちは珍しいからそうなるのか?」
大熊先生は真剣な表情で悩んでいるが、肝心の答えは出ない。その答えは自分も知らない。幸いにも、自分が霊力持ちだと発覚していないので、自分が狙いだと言う可能性は低い。
「どうでしょうね。昨日の一件の調査はどこまで進んでいるのですか?」
「困った事に、我々の表向きの職業は『学校の教職員』だ。故に保護者への対応を優先しなくてはならない」
「調査はほぼ進んでいないって事ですか。ゾンビは全部焼いてしまったから、ゾンビで出来た魔法陣も残っていない。実物か痕跡が残っているのならば、直接見たかったんですけど、無理っぽいですね」
「調査は殆ど進んでいないが、魔法陣が存在した場所だけは把握している。痕跡は残っていないな」
そう言うなり大熊先生はデスクトップパソコンをシャットダウンし、椅子から立ち上がった。映像を見て議論をするのはここまでらしい。
これ以上映像を見ても何も分からないから、自分としては異論は無い。宇賀神さんを見ると、『やっと終わり?』と顔に書いてあった。気づいた大熊先生は眉間を揉んでいる。
一先ず、学校襲撃事件については、レオーネ学校と同じ施設を抱えている別の複数の学校と共同で調査するそうだ。大熊先生がそう言ったのだから、何かが起きて手伝いを頼まれても、無視する気でいる。
ゾンビに関する話はここまでとなった。
次は今日の目的の一つでもある地下施設の案内である。
――学校の地下施設は、ファンタジーな世界御用達(?)のダンジョンだった。
現代人がこんな事を言われても、信じる人間はいないだろう。
きっと、創作小説の一節を口にしたと言われる。
でも、自分の目の前に広がる光景はこの一文で合っている。
SFチックな通路を抜けた先は、自分のこれまでの人生の情報が正しければ、地面の下に存在する『地下型ダンジョン』と酷似した光景が広がっていた。
「ダンジョンだ~、懐かしい」
宇賀神さんの前世に当たる世界にはダンジョンが存在したらしい。そしてダンジョンアタックした経験があるのか、宇賀神さんは懐かしそうに目を細めている。宇賀神さんが両手を交互にグーとパーにしているのは、昨日言っていた通り、剣を持っていないからか?
ダンジョンの入り口で大熊先生から説明を受ける。
「ここは訓練用のダンジョンだ。地下二十階まで存在する。出て来る敵性生物は、多種多様なゴーレムだ」
「大熊先生、ぱっと思い付くのはストーンゴーレム、ロックゴーレム、アイスゴーレム、アイアンゴーレム、スチールゴーレム、マッドゴーレムの六種類ですが、この他にどんなゴーレムが存在するのですか?」
内心で『ミスリルゴーレムとかがいるんだったら狩るけど』と思いつつ、自分は大熊先生にゴーレムの種類について質問をした。大熊先生は『そうだな……』と呟いてから数秒程黙った。
「坂月が言った種類のゴーレムで大体八割が構成されている。残りの二割はフレイムゴーレム、クレイゴーレム、ラーヴァゴーレム、スライムゴーレム、クォーツゴーレム、リジョンゴーレム、シャウトゴーレム、キメラゴーレムだな」
大熊先生が追加で言った内の『クレイゴーレム』は英語の粘土で、『ラーヴァゴーレム』は英語の溶岩だ。
「幾つかの種類が重複している気がするんですけど、リジョンとシャウトとキメラって何ですか?」
似なような種類のゴーレムが存在する事も気になったけど、自分は製作者のネーミングセンスを疑う『シャウトゴーレムとキメラゴーレム』について大熊先生に尋ねた。
「リジョンゴーレムは十体から二十体の、一体で行動いている個体と比べて小さい『ロックゴーレムかアイアンゴーレムの群れ』の事だ。シャウトゴーレムは音波攻撃をメインとするゴーレムだ。キメラゴーレムは複数のゴーレムの特性を持ったゴーレムだ。遊びで作られたものではない。シャウトゴーレムの攻撃が直撃すると、精神異常状態に陥るぞ」
「……ちゃんと考えられてはいたんですね。……ん?」
製作者の精神状態を疑ったが、意味はあった模様。
安堵すべきか悩むが、今考える事ではない。
何故なら、正面から一体のゴーレムが登場したのだ。一歩踏み出すごとに、ズンッ、と音を立ててこちらへゆっくりと歩いて来る。
外見と色味的に登場したゴーレムは、ストーンゴーレムか、ロックゴーレムのどちらかだろう。
自分は初めて見るので、見ただけでの判別は不可能だ。
大熊先生を見ると、顎に手を当てて何やら考え込んでいた。
「ストーンゴーレムか。坂月、宇賀神、戦ってみるか?」
「え!? 良いんですか――あ、剣が無い」
大熊先生の提案を受けて、宇賀神さんは喜色満面の笑みを浮かべるも、剣を所有していない事を思い出して肩を落とした。剣道部員なのに、予備の竹刀を持っていないのか?
「坂月はどうする?」
大熊先生は竹刀を忘れた事を思い出してしょぼくれる宇賀神さんを綺麗に無視した。
「何階層下にまで行くかによります」
「三階層に用があるから、そこまで行くな」
「では、さっさと進みましょう。……夕食の準備が待っているので」
時間的に、そろそろ夕食について考え始めなくてはならない。
大熊先生は五階層も下りると言った。どれだけ時間が掛かるか不明だが、時間を掛けずに終わらせたい。でも、このゴーレムがどの程度のものかも調べておきたい。
少し考えた自分は、宝物庫からバスターソード――万刃五剣の一組を取り出した。
とある世界で愛用の黒コートを無くして、様々なゴタゴタが発生した以降、暇を見ては道具入れの武器などの装備関係品を宝物庫に移した。整理ついでだが、不測の事態に備える必要が出たからだ。
「バスターソード! 坂月さん、カットラス以外にも持っていたの!?」
「カットラスと違って、こいつには幾つかの機能が付いているから貸し出せない」
瞳を輝かせた宇賀神さんが言い出しそうな事を先読みして却下した。
「ええーっ!!」
案の定と言うべきか、宇賀神さんからブーイングが飛んで来た。大熊先生が片手で顔を覆ってため息を吐いている。それらを無視した自分は、動きが緩慢なストーンゴーレムに接近した。
ストーンゴーレムの全高は、小柄な自分からすると見上げる程の高さを持つ。
ゴーレムの間合いに入り、両手で持った万刃五剣を大上段に構えて唐竹割の要領で振り下ろした。切っ先がストーンゴーレムの頭部を簡単に切り裂いた。手応えは無い。そのまま、万刃五剣の切っ先が地面に接触するギリギリのところまで振り下ろした。
ストーンゴーレムは縦真っ二つに割れて、そのまま光る粒子になって消滅した。残骸は残らないらしい。
……全高約三メートル。横、肩幅は一メートル半程度。厚みも五十センチ以下。切った感触からすると、そこまで硬くない。こいつは初級向けのゴーレムだな。
今の自分に対しての脅威度は低い。万刃五剣で読み取った、ストーンゴーレムに関わる情報で気に掛ける点は『密度スカスカ』ぐらいだ。
戦闘終了を感じ取ったの大熊先生が、何故か宇賀神さんの頭を左手でアイアンクローのように掴んでいる状態で近づいて来た。
頭を掴まれている涙目の宇賀神さんの表情が気になるけど、生きているみたいだから無視しよう。
「坂月は剣を嗜んでいたのか?」
「いいえ。扱い方を学んだだけのほぼ独学です。実戦で色々と試しただけです」
「そうか。どれだけ実戦を重ねればこの域に到達するのか、それだけは気になるな」
大熊先生の目が細められた。そして何故か、腕試しと称して辻斬りをして回っている『野武士』みたいな空気を放っている。
大熊先生が昨日見た野太刀を取り出す前に、自分はダンジョンの奥に行く事を提案した。
そして、出て来たゴーレム(ストーンゴーレムとロックゴーレムしか出て来なかった)を自分が一太刀で切り捨てて進み、大熊先生が言っていた三階層の奥の方にまでやって来た。
「それにしても、見事な切れ味だな」
「……剣の素材には拘りましたので」
大熊先生が物欲しそうな目で万刃五剣を見る。自分としては『他に使っていない剣が無いか?』と聞かれたくない一心で、万刃五剣を宝物庫に仕舞った。
「大熊先生。三階層の奥にまで来ましたが、まだ先に行くんですか?」
「いや、三階層の出口には、一方通行だが『地上と繋がる道』が存在するんだ。そこの使い方について教えて、今日は終わりだな」
「そうですか」
「……先生。私は何時解放されるんですか?」
自分と大熊先生との会話の終わりに、蚊が鳴くような、か細い声が上がった。
声の主は宇賀神さんである。そして発言通りに、宇賀神さんは未だに頭を掴まれたままだった。
大熊先生は宇賀神さんを無視して引き摺り、奥へ進む。自分もあとに続いた。
無言で奥へ歩き、遠くから地響きが聞こえるけど、大熊先生は気にしない。ここはエクソシスト用の訓練施設だ。誰かが訓練としてダンジョンアタックしている可能性は十分にある。
授業中ならば論外だが、今は休校中だ。利用して咎められる事は無いし、咎める必要が無いから大熊先生も気に掛けないのだ。宇賀神さんだけは『地震だ』と気にしている。戦闘音だとは気づいていないっぽい。
暫し歩いて、大熊先生はとある壁の前で止まり、壁の一点を指差した。
「この壁のこの辺に、ゾンビを召喚する魔法陣が描かれていた」
「……ここなんですか?」
何の変哲もない壁だが、周辺を見回すと隠された位置に監視カメラが設置されていた。
大熊先生が指さした場所に触れると、僅かにだけど、魔力の残滓を感じた。目を閉じて集中する振りをして、過去視を発動させる。
だが、ここにふらりとやって来たゾンビが自爆して、壁に飛び散ったゾンビの血肉が蠢いて、魔法陣が描かれる光景しか見れなかった。ゾンビがやって来た方向はこの階層の奥だ。
「坂月、何か判ったか?」
「奥から来たようですが、監視カメラの映像以上の事は判りません」
「う~ん、そうか。振出しに戻ったか」
大熊先生は顎に右手を添えて考え込み始めた。宇賀神さんが藻掻き始めると、思考の邪魔なのか、大熊先生は左手に力を込めた。宇賀神さんは涙目のまま、動きを止めた。
そんな二人の様子を見て、自分は大熊先生にとある可能性について尋ねていない事を思い出した。
遠くから地響きと複数人の叫び声が聞こえるけど、他人の訓練に関わる気は無いので無視した。
「大熊先生、内部犯の可能性はありますか?」
「既に調査したが、その可能性は低い」
大熊先生から『調査済み』の回答を得たが、その範囲がどこまで何か分からない。質問を重ねて他の可能性を考える。
「獅子倉グループ全体と、小鳥遊学園の方もですか?」
「小鳥遊学園の生徒がここを利用する事はほぼ無いが、あちらは調べていないな」
「向こうはノーマークなんですか?」
「ほぼノーマークだな。『理由が無い』と言うのが一番大きいな」
「明確な動機が無い。厄介ですね」
「厄介だな。念の為に、校長と理事会に提言しておこう」
「私が手伝う可能性は低いですが、お願いします」
遠くから、ズシンッズシンッ、『ちょっと前衛、何してんのよ!?』とか、『お、俺は悪くねぇ!』とか、『後衛!! 弾幕薄いぞ! 何してんの!?』とか、怒号と怒声と明らかな戦闘音がこちらに近づいている。
それらを無視して、自分は大熊先生に頭を下げた。自分と同じように無視した大熊先生は嘆息する。
「……そこは『何か起きたら手伝う』と言って欲しかったな」
「徹底しないと忘れられそうなので、これだけは勘弁して下さい」
「それは確かにそうだな」
大熊先生と顔を見合わせた自分はどちらかともなく、乾いた笑い声を上げ――同時にため息を吐く。
「……行きますか」
「……行くか」
ほぼ同じタイミングで異口同音に、自分と大熊先生は似たような事を口にして、顔を見合わせた。
そして、大熊先生の案内で奥へと走って進んだ。
なお、宇賀神さんは自分と大熊先生が顔を見合わせた時に開放された。解放された宇賀神さんは半泣き状態でその場に座り込んだが、急く状況なので大熊先生に腕を掴まれて、強制的に立たされた。そのまま大熊先生の肩に担がれて移動する。
「私の扱い、扱いよ……」
宇賀神さんの目が死んでいたけど、今は急がなくてはならないので大熊先生と一緒に無視した。




