終章 最後に謎ひとつ《第二話完結》
十日後である。
水無月二十六日の官休日、藤七郎と柏木護が連れ立って明神下の借家を訪ねてきた。
手土産は桐箱入りのとらやの羊羹だ。
うえに「金一封」と墨書した熨斗袋が添えてある。
「ご上臈がた、このたびのご尽力、まことにかたじけない」
六畳の座敷にあがるなり、柏木は桐箱を前にして文字通り平身低頭した。
「いえいえお気になさらず、大したことはしておりませんわ」
見るからに厚みのある謝礼に上機嫌の真葛がにこにこと応える。
櫻花も茶を勧めながら促した。
「柏木どの、どうかお顔をあげられよ」
柏木がようやく顔をあげ、ひどく恐縮しながら茶碗を受け取る。
「お二方、これは邏卒隊からも内々の謝礼だ」と、今日は平服の藤七郎が何も書かれていない白い熨斗袋を懐から取り出して差し出す。
「いただいておこう」
こちらは櫻花が受け取る。「例の品川の黒更紗の件が?」
「うむ」と、藤七郎が嬉しそうに頷く。「無事解決しそうだ」
「な、なあ猪口――」
所在なさそうに茶を啜り終えた柏木が控えめに口を挟む。
「なんだ?」
「お、俺は正直まだもうひとつ、今度の事件が全体にどうなっていたのか腑に落ちきらんのだが――順々に確かめていいか?」
「おうよ。好きに確かめやがれや」
「ええと、まず、先月六日にあぐりが見た火は狐火ではなくて、本堂で盗んだ兎の闇取引をしていた連中が外の物音を聞きつけて逃げるときに点していた提灯の火で、悪党どもは不届きにも玉川上水に舟を浮かべて川上に逃れていたのだよな?」
「そうだ。舟に乗り込んだところで提灯に覆いをしたから、本堂の横手から垣間見ていた芸者の目からは火が急に消えたように見えたのだろう」
「それで、悪党のなかには扇屋の女将もいて、翌日にあぐりが荒れ寺で火を見たと話しにきたから、ありもしない旧幕時代の狐火話をでっちあげて、臆病なあぐりが荒れ寺にも水端にも近寄らないようにしたと」
「そういうことらしい」
「そ、そこまでは俺にも分かるんだ」
「それじゃ、何が分かりませんの?」
両手で茶碗を包みながら真葛が小首をかしげて訊ねる。
柏木は純朴にも首まで真っ赤になりながら答えた。
「そ、それがしが先月十三日にみた火の正体です。あ、あれは本堂ではなく稲荷の鳥居の向こうに見えました。そしてぱっと消えたのです。ぱっと! あれは提灯ではありますまい。一体何だったのでしょう?」
「?」
藤七郎が首を傾げる。
「だから、それは本物の狐火だろう?」
「あなたのお父上の祈願を聞いて王子の神狐さまが様子見にいらしていたのだ」
「親心ですわねえ」
三名が全く当たり前のことのように応える。
気の毒な柏木は文字通り狐につままれたような様子で目を白黒させていた。
完
第二話終了です。
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