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墨染櫻花の怪異事件簿 ――開化東京妖怪譚  作者: 真魚
第二話 新宿狐火騒動
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五 再び内藤新宿へ ②

 重宝院の山門を後にした櫻花たちは、また二手に分かれて聞き込みにつとめ、陽が傾ぐころに大木戸の石垣の前で再び落ち合った。

 そのまま土手沿いを帰りながら各々の成果について報せ合う。


「門番の為助さんのお話では、旧幕時代に重宝院で狐火を見て死んだ芸者がいたなんて話は完全に初耳だそうですわ」

「そうか。柏木どのの話では、あぐりどのの目撃のあとで王子稲荷を詣でたのは柏木どののお父上らしい」

「あら」と、真葛が眉をひそめる。「その話はどうして黙っていらしたのかしら?」

「開化の世に旧弊なことをすると、柏木どのご自身が恥じていたからだそうだ」

「なるほど。――そうなりますと、まず、先月六日にあぐりさんがお寺の裏手で妙な燈を見て、翌日に扇屋に駆けこんで、あのいけ好かない女将にその話をしたら、ありもしない旧幕時代の狐火の法螺話をされて、そこから噂が広がったと」

「その噂のために柏木どのの測量の仕事に差しさわりが出たゆえ、お父上が親心から密かに王子稲荷に詣でた」

「そして王子の神狐さまが様子見に顕れたところを、不運な柏木どのが目にしてしまった――と。こういう流れですわね?」

「そういう流れのようだ」

 話しながら歩くうちに、左手に輝く外堀の水面が神田川と交わる地点へと出ていた。


 真葛が足を止め、小首を傾げて訊ねてくる。

「となると、私たちに残された最後の謎は、先月六日にあぐりさんの見た燈が神狐さまの顕現でないなら、一体何だったのか――という、この一点に尽きるのですよね?」

「そうだな」

「で、あなたの今のご見解は? もう何か思いついてはいるのでしょう?」

「まあ多少は」

 推理を途中で語るのを好まない櫻花は言葉を濁し、改めて、最後の確認のために訊ねた。

「ところで真葛どの」

「なんでしょう?」

「扇屋の女将は、あなたが内密の話があると告げると、『売るのかい? 買うのかい?』と訊ねたのだな?」

 確かめるなり真葛が眉をしかめる。

「ええ尋ねましたとも! 不愉快な女です」

 と、そこで言葉を切り、好奇心に目を輝かせて見上げてくる。


「それがどうしましたの? 何かの手がかりに?」

「ああ」

 櫻花は曖昧に頷いた。



 売るのかい?

 買うのかい?



 内密の話があると告げに来た初対面の芸妓――真葛はおそらく芸妓に見えたはずだ――に、扇屋の女将はそう訊ねたという。


 その同じ女将が、ありもしない狐火の話で臆病なあぐりを脅した。


 そして最後の手がかりはあの時の疾風だ。



 重宝院の境内で突然顕れたとき疾風の云っていた言葉――



 すべてをゆっくりと思い起こしたところで、櫻花は確信した。

 筋立ては整った。


 あとは確かめるだけだ。


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