69 恨みなどこれっぽっちも
──わたし、この人のこと苦手かもしれない。
序列第四位、エイダン・ロード・レリック様の質問に答えながら、そんなことを思う。
疑われていることは別にいいんです。この知的なお顔立ちと情熱的な髪色が合わさって、結構な勢いで理詰めされそうだという印象を受けてしまうだけで。あと、この根っからの真面目さが伝わってくるところも、分かり合えない感じがしますね。
妻に意地悪をするのが好きな旦那様とは違った意味で、距離を置きたくなる。単に人間としての好みの問題なのでしょうけど。
「そ、そうですか……では、ユリウス公爵は短剣を得意としているとのことですが、それはどの程度でしょうか?」
レリック公爵を見つめた後、なぜだか物言いたげな顔でわたしにも視線を向けた旦那様。それはどういう意味のお顔なのですか! と旦那様の腕を軽く抓っていれば、完全に存在を忘れてしまっていたレリック公爵から新たな質問が降ってくる。
これはいい質問かもしれないですね。先ほど『いつも舐められる』と言いましたが、実戦でなくともちゃんと実力が伴っていることが分かれば、多少は認められるのではなくて?
こちらとしても、いつか共に戦うことになるかもしれない相手に見下されているのは正直面倒なんです。わたしが戦場で最も力を発揮できるのは、誰かに指示されるのではなく自己判断で動いている時なんですよね。指示があった方が動きやすいという方もいるでしょうが、そのやり方はわたしには合わない。
だから……と、静かに試すような視線を向けて来る彼に対して、おもむろに手持ちの短剣二本を全力で投げた。
安心してください、結界で防御もしてあげてますよ。わたしの得意武器、それも全力で仕掛けた攻撃を防げる人なんて、ほんの一握りしかいませんもの。きっと旦那様でも無理です。
「……ッ、は……?」
「いかが?」
「……なに、を」
「何って、あなたが聞いてきたのではありませんか。どの程度の実力なのかと。わたしのことは見た目で判断されたようでしたので、実際に体験していただくのはどうかと思いまして」
シュッと風切り音を立て、刃が向かった先は心臓と頸動脈。つまり人体の急所。二重に張った結界のうち、一枚が派手な音を立てて壊れた。おかげで勢いを無くした二本の短剣はレリック公爵の足元に落ちたので、困惑している彼の問いに答えながら取りに行く。
レリック公爵のような真面目なタイプって、自分の目で見たものしか信じないじゃないですか。偏見ですが。なのでこうするのが一番手っ取り早いと思ったんですよ。
それから少し間を置き、目に見えない『何か』で防がれなければ致命傷だったことを理解したらしいレリック公爵は、時間差で一気に青褪めた。
「ね、陛下? わたしは彼に傷ひとつ付けていませんし、彼の問いに答えて差し上げただけなので、お叱りはないでしょう?」
「ああ。ただまあ、もう少し手加減してやっても良かったとは思うがな。リーシャとエイダンでは同じ戦闘を得意としている者でも、分野が大きく異なる」
「肝が小さいのですね」
「率直だな、君は」
陛下のお言葉にふふ、と笑って言えば間髪入れずに旦那様からのツッコミが入る。
だってそういうことなのではありませんか? レリックの役割は知りませんが、表向きの職業として皇族の護衛をしている彼らと、ロードとしての役割で戦っているわたし。分野が異なるというのは、そういう意味でしょう?
国や国民全員の命が懸かっている戦場に立ったことがないから、この程度の圧と殺意にも耐えられないような、かわいらしいお心をお持ちなんだなと思って。
「……ユリウス公爵は僕に恨みでもあるのですか?」
「いえ、全く? 然程接点もない方に恨みを抱くことなど、そうそうないでしょう。ロード当主の先輩として尊敬しておりますわ」
信じるかどうかはあなた次第ですが。
そういえばレリック公爵家って、現時点では五家の中で最も直系……つまり『ロード』とされる人が多い血筋ですよね。たしか先代当主と現当主のエイダン様、それから弟君がお二人に妹君が三人でしたか? これだけ数が多ければ任務も分担できるので、ひとりあたりの負担がかなり軽いでしょう。羨ましいですね。
ご覧いただきありがとうございます!
よろしければ感想、レビュー、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆で評価していただけると励みになります!
また、X(旧Twitter)にて新作や更新情報、たまに作品の小ネタ等も載せています。興味を持っていただけましたら、ぜひ下記URLからご覧ください!
(https://x.com/ria_yamasaki)




