64 一級建築士
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時は流れ、九月もあと数日で終わろうとしていた。最近少しずつ涼しくなってきており、ユリウス公爵領では本格的に冬支度が始まっている。今日はそんなユリウス公爵領へ、旦那様と二人で視察に行く。
繰り返し言いますがユリウス公爵領では自然災害が多いので、かなりの頻度で建設物の点検と修理をしなければなりません。それはつまり職人の腕も鍛えられるというわけで、予定していた例の橋三本は一ヶ月もかからずにすべて完成したのだとか。なのでこの視察はついで。今日のメインは橋の開通記念式典を見守ることだった。
そして現在、新たに建設した三本のうち、真ん中に位置する橋の前で関係者の挨拶を聞いている最中です。
「今挨拶をしている方がユリウス最大の街、シェイラルの管理人になります。彼とは長年良きパートナーとして、良好な関係を築けております」
「君が自分の手で領地を管理し始めた頃からか?」
「はい。十二歳くらいでしょうか? 多くの大人はわたしを舐め腐っているのがよく分かりましたが、彼を筆頭に何名かは丁寧な付き合いをしてくださいましたよ。人柄って案外仕事にも出るものですよねぇ……」
まあ性格が悪かったとしても、公私混同せず先入観をなしにして行動できる人なら仕事でも成功するでしょうけど。シェイラルの管理人、カルロ・キュース卿を見ているといつもそんな風に思う。
「あっ、旦那様見えますか? いま前に出た男性! 彼がこの橋三本の設計とデザインをしてくださったのですよ……!!」
キュース卿が橋の設計を頼みたいと、わたしに相談してきた人物。建築においてわたしが知る中で最も優れており、デザインのセンスも超一流。大工ではなく建築士なので一般にはそれほど名が知れていないけれど、一部のマニアや依頼する側、同じ世界で生きる人で彼を知らない者はいないことでしょう。
平民でありながら、貴族の屋敷や皇族が管理する建物の設計なども行う一級建築士────その名を、ルークという。
「あれは……まさかとは思うが、花祭りで会ったリジーの弟とかいう……」
「そう、その通りです! 設計図の時点で本当に素晴らしかったのですが、大工さんの手も加わった完成系、ものすごく素敵だと思いません!?」
「すごい勢いだな……たしかに美しい設計だ。君が褒めちぎるのも納得いく」
旦那様は、言われてみれば有名な建築士にそんな名の男がいた気がする、とルークの方をジッと見ている。普段はあらゆる場所……それこそ国外からも依頼が来るくらい多忙で、依頼は数年待ちなどという驚異の数字を叩きだす彼だけど、この橋の依頼を優先することを快く了承してくれた。
良縁は大切にしなければ、と微笑む彼からは少し茶目っ気を感じましたね。色々と上手くいっているようで何よりです。
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