57 情報開示
「まずは旦那様、先ほどわたしと剣を交えた時の感想を一言お願いします」
「感想? ……一切無駄のない動きで洗練されているなと思った。今の私では手も足も出ないほどに強いのが分かる」
「なるほど。ありがとうございます」
この評価なら問題ないでしょう。
立ったまま話をするのも何だからと近くの木に登り、丈夫そうな枝に腰をかける。旦那様に視線を向けて自分の隣をポンポンと叩いてみれば、同じように隣に来てくださった。
「──旦那様って、わたしのこと結構好きですよね」
「…………」
「あっ、もちろん恋愛感情の話ではありませんよ。ひとりの人間として、あるいはビジネスパートナーとしての話です」
「……ああ、君の言う通りだが」
それがどうした? と、まるで当然のことだとでも言うように首を傾げる旦那様。
わたしは悪い女なので、そのどこから来ているのか分からない愛につけ込ませていただくんですよ。
「では、ここからが本題なのですが。旦那様、わたしと『とある秘密』を共有しませんか? 三年の契約結婚が終わっても、一生他人に明かしてはならない秘密です」
「よく分からないが……君がそれを望むならいいだろう」
「ありがとうございます。ちなみに二人だけの秘密なので、シエル様にも話さないでくださいね。わたしもそうするので」
「分かった」
お互いの側近までなら話しても構わないかなとも思ったんですけどね。わたし、旦那様のことを調べていないのと同じようにシエル様のこともあまり知らないんですよ。知っていることと言えば、『からかい甲斐があって戦える旦那様の腹心』ってことくらい。旦那様もわたしの側近のことは同じくらいしか知らないはず。
真面目な顔で頷いてくださる旦那様に、失礼ながら少し笑ってしまった。
普段あれだけわたしに意地悪するくせに、こういうところだけ真面目なの、不思議ですよね。大事なところではちゃんとしてらっしゃる。
「旦那様。ユリウスのロードについて、情報を開示します。一度しか話さないので聞き逃さないようにご注意くださいませ」
まるで世間話でも始めるかのような、明るい声色で。けれど口にする情報は、数え切れないほどの人間が我が一族に始末される覚悟で探し求めてきた重大機密。
これらの情報を知るのは選ばれし者のみで、特に当主自ら話すということはイコール信用されている、と考えていい。わたしの場合は全面的な信用ではなく、限られた部分のみになりますが。
歌うようにスラスラと紡がれる、ロード序列一位の血筋が持つ秘密。薄く浮かべた笑みには感情を乗せておらず、もしも近くに誰かがいても、重すぎる情報を開示している最中だとは到底思えないはずだ。
──わたしの血筋が持つ役割や能力について話し終える。そうして再び隣を見れば、終始無言だった旦那様は大きく目を見開いたまま、震える手で口元を覆っていた。
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