56 生き物の「内部」に干渉する
「……旦那様、もう一戦いかがです?」
「駄目だ。君も疲れているだろう。早く話とやらを終わらせて寝るぞ」
あらまあ、手厳しいですこと。大人しく武器を下ろして懐にしまう。安心してください、わたしの言う『懐』というのは胸元ではなく太腿なので、旦那様には見えないように結界を張っていますよ! この人には見られたくないんです!!
「残念ですわ。引き分けになりますもんね」
どうせならしっかり勝敗を付けたかった。正直、わたしの方が強いので勝てるかなと思ったのですが……もう少しだけ制限時間が長ければ、押されているあの状況からでも勝てたでしょうけど、たらればの話をしても仕方がないので諦める。またリベンジさせてほしい。
「君は自分の強さに関しては自信が揺らがないな」
「嫌味ですか?」
「違う。素直に好ましいと思っただけだ」
──君のそれは努力に裏付けされていることが分かるからな。
そんな、普段の旦那様と特に変わったところのない発言。なのにやっぱり、違和感を感じる。何かがおかしい。先ほどから旦那様が口にしてる言葉は、わたしの考えを見透かすようなものばかり。わたしが声に出していないはずの話に何度も触れてきている。元々察しの良い方ではあるけれど、ここまでじゃない。表情や空気を読んでいるのではなく、まるでわたしの心を覗いているかのような────
『その通り。フェルリアの血筋が持つ能力は生き物の「内部」に干渉する』
…………本気で言ってます? 何かの冗談だと思いたいのですが。それなら……人の心を読めるなら、もしかしてわたしが隠していることもすべて……!?
というか、旦那様の口は動いていませんよね。どうなっているのですか? たしかに旦那様の声が聞こえたのですがまさか幻聴だったとか?
「安心しろ、幻聴ではない。そして君の心を読んだのは今日が初めてだ。基本的には誰の思考にも干渉しないようにしている」
「そ、そうですか……」
それなら良かった。本当に、心の底から安心した。今度から旦那様の瞳が本来の色に変わっている時は、わたしの情報を流さないよう注意しましょう。この血筋のこと、余命、そしてわたしの目的。この三つは特に知られるわけにはいかない。
ホッと胸を撫で下ろしているわたしを見て、旦那様は一瞬眉を顰めた。大きな隠しごとをしているのがバレたからでしょう。別に、隠しごとくらい誰にでもありますし、それ自体は知られても何ら問題ない。
今はもう能力を使うのをやめたようで、通常時の黒い瞳に戻っていた。
「それにしても、能力のことをわたしに教えてもよかったのですか? 先ほどのお遊びの時、旦那様はその力を使っていたのですよね。わたし、すごく翻弄されましたよ。絶対に秘密にしておいた方が強い能力だと思うんですけど」
「構わない。君になら話してもいいと思ったから教えただけだ。それに、先日のようなことはもう二度とごめんだ。君もそうだろう? これは思考を読むだけでなく、脳内で会話をすることもできる。また近いうちに君にもやり方を教えるので、何かあったら私に言え」
「会話も? 旦那様の血筋って、興味深くて便利そうな力ばかりですね。楽しそう……」
「楽しそうって、君な……」
思わず呟けば、呆れ顔で遊びには使わないように、と念押しされてしまった。残念ですね。まあ使わせていただけるだけありがたいと思いましょう。
「でもちょうど良かった。その話は、わたしが旦那様に話したかったことと関連していますよ」
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