54 何でもひとつ
「見失ったか……」
敷地内の小さな森の中で、旦那様は『「命懸けの隠れ鬼」を始めましょう!』と不穏な言葉だけ残して消えたわたしを探し回っていた。
あの方は身体能力も優れておられるようで、わたしが消えて僅か十秒ほどでここへ辿り着いてしまった。結構な距離があったはずですのに。
「旦那様、わたしはここです」
「ああ……そんなところで何をしている?」
「少しわたしのお遊びに付き合っていただけません? もちろん、先ほどお伝えした『用事と話』にも関わっていますよ!」
「構わないが」
「ありがとうございます! では今からこの場所へ月明かりが差し込むまでの間、わたしが旦那様に捕まらなければわたしの勝ち。旦那様はこの森の中で逃げ隠れするわたしを捕まえてください。体のどこかに触れるだけで大丈夫です。互いに能力は使用しても良い。勝った方のお願いを何でもひとつ叶える。いかがですか?」
今日は風の強さから考えるに、もうあと数分以内には雲が流れていくはずだ。そうすればこの真っ暗な森の中には、たちまち美しい光が差し込むことでしょう。
何を言い出すのかと、ジッとわたしを見ていた旦那様は、最後の『勝った方の願いを何でも叶える』という言葉にピクリと反応した。……旦那様、もしかしてわたしに要求したいものがあったりしますか?
「何でも? その言葉に嘘偽りはないな?」
「え、ええ……お互いにできることなら……」
「分かった」
「それでは旦那様、今から三秒数えたら追ってきてくださって構いませんよ」
それから立ち去る直前、まるでたった今思い出したことのように小さく声を上げて立ち止まり、人差し指を立てて言う。互いに武器の使用は可能ですよ、と。
ゲームなんですから、チャンスがあるなら戦った方が面白いでしょう?
そうして今度こそその場を後にしたわたしは、まずこの森で一番高い木を目指すことにした。旦那様の目にはわたしが瞬間移動でもしたかのように見えたでしょうね。実際には、一瞬で姿を眩ませたように見える移動の仕方というものがあるだけなのですが。
「そういえば、旦那様って本気で戦ったらどれくらいお強いのでしょうね。このお遊びでは本気にはなってくれないでしょうけど、いつかはお相手してみたいわ。きっと楽しいものね!」
森全体を見渡すことができる大きな木の枝に腰を下ろしたわたしは、早速旦那様の姿を探すことにした。
さすがにもう移動を始めていますね。果たしてわたしを見つけることはできるのでしょうか。どうせなら見つけるだけでなく、しっかり捕らえてみてほしいですね。楽しみにしていましょう。
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