52 大爆発を起こすもの
「────改めまして。あなたの妻リーシャとしても、ユリウス公爵としても、心より感謝申し上げます。あなたがいなければ、今ここにわたしの命はなかったことでしょう」
体調不良ではあるものの、任務の内容が緊急のものだったので陛下には急ぎ報告をしなければならない。
まだまだやることが残っているからと止めるリジーに『無理はしない』と約束をして普段着に着替え、わたしの私室で待っていてくださった旦那様に改めて頭を下げた。
それからゆっくりと顔を上げながら思う。やっぱり、わたしが死んでしまうと一番困るのは跡取りがいないことなんですよね。母方の親戚は全員亡くなっているから本当にわたしひとりしか残っていないんです。早急に何とかしなければならないのですが、それができれば苦労しませんし。
「助けていただいた以上は状況を説明するべきだと思うので、軽くお話させてください。昨日は陛下のご命令で任務に出ておりました。敵を制圧し終わる直前、銃火器で何発か撃たれてしまいまして。それが例の負傷の原因です。その後すぐに倒したので他に被害はありません。それから助けが来るまで……体感五、六時間でしょうか」
リジーたちに後処理を頼んだ後、わたしは力尽きて意識を失った。だから敵関係はこれが最後の記憶になる。
後処理についてはついさっき、着替えている最中にリジーに確認しました。無事に終わったとのこと。首謀者もルナの情報通りだったようで、軽く拷問にかけて再び牢に戻しておいてくれたそうです。
そしてひとつ、拷問にかけておいてくれて本当に助かったと思う情報がありました。
彼らは戦いが終わる頃、テロを企んでいるのだと自らで話してくださいましたが、その決行が今日だったみたいなんですよね。
後祭りは花祭りと同じくらいに多くの人が集まる。けれど当日ほどではないので、その分警備も甘くなるんですよ。リジーが言うにはあえてそこを狙ったのではないかとのこと。
「昨日も思ったが、あの出血量でよく何時間も生きていられたな。奇跡的な確率だろう」
「いえ、意外とそうでもなくて。わたしのお母様は目に見えて分かるほど傷の治りが早い体質だったのですが、わたしにもそれが遺伝しているみたいなんです」
「聞いたことのない体質だな。理由は分かっているのか?」
「さあ? お母様もよく分からないとおっしゃっていましたし、リジーも知らないそうですよ。何か代償があるわけではなさそうです」
私もお母様も、ずっと仕組みが分からないままその回復力に助けられてきた。治りが早いだけで治癒はされませんから、改めて旦那様の能力はすごすぎると思います。
「それはそうと、後祭りに行けなくて残念です……」
「来年、またチャンスがあるだろう。駄目ならその次の年に行けばいい。それにさっき、レイとメルヴィンを後祭りに行かせていなかったか? 何か買って来いと言っていた気がするが」
「まあせっかくですし? 元々気になっているみたいだったので、そのついでです」
それから、何か起こったら自分たちで対処するように命じた。難しければわたしかリジーを呼びに戻って、とも伝えてある。
──昨日、陛下が見たとおっしゃっていた未来は正しかった。
リジーの拷問で出てきた情報なのですが、後祭りで飾られている風船には水素が入っていたそうです。水素と酸素は一定の濃度以上で触れ合うと大爆発を起こします。水素はどこかで用意したのでしょう。酸素は空気中のもので充分。人の多い時間帯に銃でも使って一気に割るつもりだったのではないでしょうか。
爆破目的で用意された風船は、その数数百にも及ぶものでした。皇都中に飾られたそれは、まさに多くの人の命を奪うためのテロ。発覚してすぐ、リジーとレイとメルヴィンの三人ですべて回収し、ひとまずユリウスに持って行ってくれたらしい。爆発物ならユリウス公爵領の地下にある訓練場で使うのもいいかもしれないね。
ちなみにあの場所にいた子供たちはルヴィが無事に家に帰してくれたとのこと。彼らがあの子たちを人質に取った理由は不明なので、それはまた後日確認する予定です。
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