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【第1章完結】公爵様、三年限定ではなかったのですか!?~契約結婚したらなぜか溺愛されていました~  作者: 山咲莉亜
第2章 咲き誇る赤薔薇 ──差し色は高潔に──

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50 フェルリアの能力

「アルヴィン様、お待たせいたしました」

「ああ、助かる。シエルは外に出ていろ。レイだけ残れ」

「はい。あまりご無理はなさいませんよう」


 失礼します、と大人しく部屋から出て行ったものの、シエルは扉の前で待機しているつもりらしい。本当はレイも部屋から出したいところだが、レイは知っていてもいいだろう。メルヴィンに王女だと明かされた時、彼にも話したんだ。素性を知る者がひとり増えたところでそう変わらない。


「本人の許可なく女性の肌に触れるのは気が引けるが……一応は夫だ。緊急事態の時くらい許せ」


 右手をリーシャが怪我をしている場所に直接触れさせ、空いている手で手首を軽く握る。やはり脈が弱い。持ってあと十分といったところか。国立病院に運ぶのでは確実に間に合わなかっただろう。

 できる限りリーシャの肌を見ずに済むよう、様子を窺うのも兼ねて彼女の顔を見る。はじめて出会った時と変わらない、恐ろしいほどに整った顔立ちだ。しかし口元に血が付いている。吐血したのだろうな。


 苦しかっただろう、生死を彷徨うほどの傷は。この状態では動くこともできなかったはずだ。助けが来るのが先か、それとも死に至るのが先か。どちらにしても、彼女が味わい続けた苦痛は想像を絶することだろう。

 ……柄にもなく緊張している。小さく息を吐き、目を伏せれば、自分の体内にある能力の源となっているものを感じた。


 ────そして再び目を開けた時、彼女に贈ったルビーの指輪に映る私の目は、普段とは違う色に輝いていた。金と赤のオッドアイ。だが左目はルビーの色と同化しているため、金一色にも見える。


「レイ。君の主人がロードのひとりであることは知っているだろうが……私たち、フェルリアの血を引く者も同じ立場に身を置いている。フェルリアの能力は『治癒』。命ある限り、術者の血液を代償にしてどんな傷でも治すことができるものだ」


 術者から奪われる血液は相手が流した血の量と損傷の程度による。

 たとえば出血量は少なくても肉が抉れている場合、その失った肉を元に戻す分の血液も必要になる。なので不可能ではないが、千切れた四肢や臓器を治すのは非常に難しい。


 話しながら能力を使えば、直接触れている箇所が淡く輝きながら修復を始めた。


「…………はい?」

「人によってはこれを禁忌と呼ぶだろうが、当然のことながら万能ではない。病気や生まれ持った体の弱さは治せず、自分自身や大人数に能力を使うことも不可能。あくまでも最終手段にしかならない、使いどころの難しい力だ」


 大怪我を負った人間を治すなら尚更、力が回復するまで治癒できる人数は減る。時には取捨選択をしなければならない場面もあるだろう。生かすも殺すも自分次第、と言えばその責任の重さが分かるだろうか。


 ……もしこの能力で、生まれ持った体の弱さを治すことができたなら。リーシャ、私はこの身を滅ぼすことになっても君を治癒しただろうな。


「ちょ、ちょっと待って! 憂い気な顔してる場合じゃなくない!? 特大な爆弾を落とされた気がするんだけど!?」

「うるさいぞ、リーシャが起きる」

「……ッ」


 今更何を驚いているんだ、この男は。初対面の時、リーシャの恐ろしさを見たんじゃないのか? 普段は何だかんだ言って甘いが、本質的なところはそこらの王族より余程情け容赦のない性格だ。その片鱗を見てしまえば衝撃的な事実も恐ろしい状況も、大抵のことは軽く流せそうだが?


 何か言いたげなレイを無視し、リーシャの顔色を確認する。治癒を終えたことで少しだけ血色が良くなり、思わず安堵のため息が出た。問題なく完治している。

 無視されたレイは不服そうな顔をしているが、『リーシャ様の目、返り血で開かなくなってるらしいので治癒しておいてください』などといくつか追加で要求される。リーシャのためだから治すが、仮にも主人の夫に対して遠慮の欠片もない男だな?


「ところで旦那様、こんな状況でなんでチョコレート食べてるの?」


 チラリと血に塗れた寝台を見て、その後すぐに視線を逸らしながら指摘される。


「言っただろう、治癒能力は術者の血液を代償にするのだと。だから脳が甘味を欲しているんだ。……かなりの量の血液を持っていかれたので私はしばらく動けない。シエルに伝言を」


 いくつか連絡事項を伝えれば今度は大人しく頷いたレイを見送り、やがて姿が見えなくなったところで、思わず崩れ落ちるようにしてリーシャの眠る寝台へと顔を伏せた。あまりの疲労と恐怖に、シーツに触れた指先が小刻みに震えるのを自覚する。


 リーシャ。君は一体……一体、どれほどの苦痛に耐えていたんだ。想定以上に血液を奪われた。生きているのが不思議なほどの損傷だ。……また目覚めてから話を聞かなければならないな。

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