48 死を望んだことなど
◇
「────リーシャ様!」
窓から差し込む光が小さくなり、僅かに見える空がオレンジ色に染まり始めた頃。ふわふわとした意識の中にいたわたしは、久しぶりにハッキリとした音を聞いた気がした。呻きながら顔を上げれば、教会の入り口にリジーとルヴィ、そしてレイが立っているのが見える。……わたしの置き手紙を見たのでしょうか。
「……は、……っ」
「ッはい、リーシャ様。いかがなさいましたか」
動揺を隠しきれていないリジーが駆け寄ってくるけれど、思うように声が出ない。というより、呼吸ができない。壁にもたれていたわたしは、腹部を手のひらで覆ったまま、ほぼ呼吸音のような小さな声でリジーにいくつか命令を下す。
聞こえているか不安だったけれど、唇の動きを読み取ったらしく、リジーは即座に動き出してくれた。
「リーシャ様からのご命令です。ルヴィ様は人質の保護を、レイさんはリーシャ様をフェルリアの屋敷まで連れ帰ってください。できる限り安静に、かつ一般人の目を避けて。私はここに残って後始末をします」
目を閉じていても、最後の力を振り絞って千里眼を使えば彼らの動きが視えた。
頷いたルヴィが子供達を守っていた場所へ向かってくれたので結界を解けば、泣き疲れて眠ってしまったらしい子供たちを順番に運び始めた。馬車を連れていたようだ。
一方、わたしを屋敷まで連れ帰ってほしいと伝えたレイは、わたしがリジーに止血をしてもらっている間、その辺に転がっている人達の生死を確認してくれていた。問題ない、ちゃんと全員息を引き取ったことを確認したから。ただ……
「リ、ジー……」
「リーシャ様、安静に。喋らないでください」
「……彼らは、テロを企んでいた……みたいで。制圧はしたけれど、ライフルの弾を受けて、しまって…………」
だからこの通り、瀕死状態。わたしだって強いけど最強というわけではありませんし、こうして怪我をすることもあるんですよ。こんなに生死を彷徨っているのは、初めてかもしれないけどね……
「それと、その……能力を使いすぎました……」
「……無事に回復したらお説教ですよ。お昼頃には置き手紙を確認したのですが、あまりにも遅いので何かあったのではないかと様子を見に来たのです。正しい判断でした」
朦朧とした意識の中、リジーの今にも泣き出しそうな声を聞いて申し訳なく思う。戦闘が終わってからもずっと意識は飛びそうだったのですが、あの子供たちを守らなければならないという思いが途絶えなかったおかげで、結界を張り続けるためにも何とか起きていられた。
それから……ふと、旦那様からいただいた指輪が視界に入りまして。ああ、ちゃんと旦那様の元へ生きて帰らなければ……って思ったんですよ。意外にも旦那様の存在がわたしを守ってくださって。契約のこともありますしね。
ちなみに最低限しか止血できなかったから、わたしが一般人と同じ傷の治り方だったならきっともう死んでいた。この体の治癒能力が高くて助かりましたよ。
会話をしているうちに少しだけ意識が浮上してきたけれど、撃たれた場所が焼けるように熱く、それだけで気絶しそうなくらい激痛。体にも力が入らない。銃弾が抜けているだけマシでしょうか。
フェルリア公爵家に到着したら、馬車に乗せてもらって病院へ向かわなければ。手術になるでしょうが、わたしの立場的に皇帝陛下が優先してくださると思う。果たして明日のわたしは生きているのか、いないのか。
「リーシャ様、ひとまず応急処置にはなりますが止血、が……っ、その目は!?」
「目……? あ、これは帰り血が飛び散ってしまっただけ……たぶん失明はしていない、よ」
ロードは片目を失えば能力が一気に弱まり、両目で能力を失う。リジーはそれを懸念したのでしょう。今のところその心配はいらない。感染症の可能性はあるのでこちらも診てもらいますが。
「……わたし、もうむり。少しねむらせて……」
最後にひとつ。ついさっき、ルナから首謀者を発見したとの情報を受け取っている。ここの後始末が終わったら捕らえてユリウス公爵家の地下牢へ監禁しておいて。そう伝えてリジーが頷いたことを確認し、ようやく目を閉じる。
────遠のいていく意識の中で『死なないで』という声が聞こえた気がした。わたしも、死にたくないですよ。いつ命を落としてもおかしくない環境で生きているだけで、死を望んだことなど一度もない。それにこんなところで死ぬわけにはいかない。わたしにはまだ、成し遂げなければならないことがあるから……
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