44 舞い降りし少女
ボロボロの服に、乱れた髪。暴力を振るわれていたことが一目で分かる怪我がたくさんあり、埃で汚れている人質たち。
あの人数をどこかへ移動させるのは大変だと思う。一日で集めたわけでもないでしょうし、恐らくああして話し合っている時以外は彼らをここに監禁している。
それなら万が一逃げ出された時のことを考え、見張ることができる場所に、少なくともひとりはいると考えるのが自然。……それが首謀者かは分からないけれど。
人質がいて、これから戦うことになるであろう存在が武装している限りは、わたしも慎重に動かなければならない。万が一にも人質を死なせるようなことがあってはいけないから。
彼らは文字が読める、あるいは読めなければならない環境で育った人達。わざわざ仲間の証があるということは、元々の知り合いでなかった人も含まれているか、あるいはそうすることで仲間意識を強めている。
共通点は、全員どこかしらにハンデを抱えていそうなことでしょうか。立って話しているだけでは分からない人もいますが……
「分析はこれくらいにして、そろそろ動かなければ」
どうせならルナの言っていた通り、相手の動揺を誘う形で突入したい。油断してくれればその間に制圧できる。
懐の短剣を抜き、刃こぼれがないことを確認して立ち上がる。
ガラスを割るなら高いところから飛び降りた方が良さそうですよね……あ、ちょうどいい場所がありました。あの屋根の上から飛べば割れそう。
目を付けたのはステンドグラスの斜め上あたりにある屋根。教会の構造に助けられた。この教会、屋根の高さが二段階に分かれているみたいです。
「ふぅ……」
一度、冷静でいるためにも大きく深呼吸をする。わたしは彼らの素性が分かったかもしれない。ほぼ確信しています。だからこそ、腸が煮えくり返るような怒りを感じた。
「────はじめまして、悪者さん達!」
そしてさようなら。わたしにできる最も美しい笑みを浮かべて、けれど挑戦的な表情にも見えるよう調整する。
太陽の光でキラキラと輝く、砕け散ったステンドグラス。
受け身は取らなくていい。
同じ光を浴びながら飛び降りたわたしは、足が地面に着く前にそのままの勢いで斬りかかった。近付くとより、嫌な気配を纏っているのを感じる。
「って、めぇ……! なぜそんなとこから……!!」
「あら……防ぐのですね、わたしの攻撃を。やはり一般人ではなさそうです」
試しに刃を向けて見たものの、一筋縄ではいかないことが分かったので大人しく引く。捕らえられた子供達を背後に舞い降りれば、纏っていたローブが少し遅れてふわりとなびいた。
チラリと捕らえられた子供達を見ると、突然現れた知らない大人を前に怯えているのが分かる。
明らかにこの人達の敵だというのにこの怯えよう。大人というだけで恐怖を覚えているのでしょうね。一体どれだけ苦しめたらこうなるのか。誘拐されただけでも怖いでしょうに。
でも安心して。わたしはもう、あなた達に傷ひとつ付けさせないと誓う。そうですね……ここは教会ですし、信心深くはありませんが、女神様にでも誓いましょうか?
「何しにきた!? 大人しくしないと殺すぞ!」
「見ての通り、あなた達を制圧してこの子達を救出するためですよ? でも、ごめんあそばせ。わたしは強いの」
だからそう簡単には殺されたりしない。
笑みを絶やさず、相手が怒りで単純な動きをしてくれればと思い煽ってみる。けれどこのような大掛かりな事件は、大抵賢い人間もいるもの。
パチパチと大袈裟に拍手をしながら近付いてきた細身の女性。目元に大きな切り傷があり、片目を失っているらしい彼女は、わたしと同じような笑みを浮かべてみせた。
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