39 貴重な水路
「────ようこそお越しくださいました。お元気そうで何よりでございます」
シェイラルの街にある、小さめのお屋敷の前で降り立ったわたし達は、自ら出迎えてくれた管理人に応接室へ案内された。出されたお茶を一口いただいて、テーブルに戻したところで世間話が始まる。
「ええ、あなたも。この数ヶ月、何度も主が変わってしまって大変だったでしょう。迷惑を掛けたわね」
主がわたしなのか父なのか、ずっとあやふやな状態から始まり、お父様、お姉様、わたし、そして代理のイアンへ。変わる度に引き継ぎをしなければならないし、その時々の主に合ったやり方になるので気苦労が絶えなかったことでしょう。心なしか、顔に疲労が浮かんでいるように見える。
「いえいえ、最終的には最も良い形に収まりましたから一安心ですよ。リーシャ様は金銭面で苦労している時ですらあれほど手を掛けてくださっていましたし、今は前より余裕ができたご様子。再興していく様を見られそうでとても嬉しく思います。失礼ながら、ほんの一瞬だけリーシャ様のお父君がトップに立たれた時はどうなることかと思いましたが……」
「まあ……あの人は馬鹿でクズの典型的な無能貴族ですものね。わたしも再びこの領地で暮らせるようになって嬉しいわ」
シェイラルの、ひいてはユリウス公爵領を立て直すため、共に尽力致しましょう。そう言って同じ未来を見る者同士、手を尽くすことを誓いながら握手をした。
ユリウス最大の都市の管理人ということは当然、他の街の同じ立場の人よりも発言力がある。
街の管理人全員が全面的にわたしの味方をしてくれているわけでもないので、そんな時昔からずっと忠誠を誓ってくれている彼の存在は非常にありがたい。これからも良きパートナーでいられることを心から願う。
「さて。突然の話にもかかわらずお時間をくださったこと、心より感謝いたします」
スッと背筋を伸ばし、先ほどとは違って意図的に笑みを見せる。ここからはお仕事の話。味方と言えど、互いに侮られるわけにはいかない。
まずは壁沿いに控えていた使用人のひとり、イアンから必要な書類を受け取った。
「こちらは先日、あなたから届いた書簡になります。近いうちに直接会ってお話ししようと思っていましたので、今回はわたしが直接お返事を持ってきました。諸々考慮して、あなたが求めていた金額よりも大幅に増額し、計三本分の予算で申請を通したわ。……あの川に一本の橋で足りるはずがないのは分かっていたと思うのだけど、なぜこの一本分で申請したのかだけ、教えていただける?」
別に怒っているわけでも、何かを疑っているわけでもありませんよ。ただ疑問に思っただけで。
ウェルロードは国に囲まれていて、唯一北にだけ海があるんです。海の向こうから攻め入ることのできるたったひとつの場所ですから、国防を担うのはフェルリア公爵家。
ですからフェルリアにはいくつか海と直接繋がっている水路もありますが、他領ではほとんどないようなもの。その数少ないひとつがシェイラルにある、この大きな川になる。北西にあるこの領地で、シェイラルだけは海に面しているのですよ。そんな大切な水路を、『向こう側に渡るのが大変』というだけの理由で埋めてしまうわけにはいかない。
だから土木工事に力を入れ始めた以上、申請さえしてくれれば予算は多めに出せるのに、という話です。
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