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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
理幻鏡想
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理幻鏡想 13

森の奥で火の魔術が使われたのか、赤い閃光が飛び交いながら、大量の破壊音の木が倒れる音が鳴り響き、しばらく騒々しかったのだが、直ぐに音は止んで、次々とゾンビと化した人達が倒れて行き、その後を熊颶利が堂々と歩き進む。

すると歩く先から何か聞こえ耳を澄ます。

「—————ぃ」

森の暗闇の奥から震えた声が確かに聞こえた。

それは何度も、何度も同じ事を呟いているのが分かる。

面倒くさそうなため息を漏らしながらも、そのまま歩き続けて、先にいるその人影を見つけて立ち止まる。

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…」

そこには恐怖に震えるように自身を抱きしめて、座り尽くす血にまみれた唯一の姿がそこにあった。

だが、目に見えるのは擦り傷程度で血にまみれるほどのものでは無いことからその血が唯一のものでは無いのが分かる。

そのまま視線を動かしていくと、周囲には同じ様に切り傷でボロボロになったスーツを身に纏う五人の男達が大量の血を流し倒れていた。

弱いが呼吸を確かにしている事から確かに生きていることを確認し、その場の状況を理解した。

「相変わらず、くそったれな趣味をしているな…崩感ほうかん

更に視線を流し正面にある木の上を見ると太い枝にくつろぐ修道服の姿があり睨みつける。

「おおぉ~怖い怖い。そう、荒い言葉を使うなよなぁ熊颶利ぃ。ただのモブじゃないんだからよぉ」

「うるせぇよ。わざわざ誘っておいて、オレ様に勝てると思ってるのか。三下」

「勝てるさ。三下なのはお前なんだからなぁ。お嬢ちゃん」

「ぶっ飛ばす」

両腕勢い良く広げて伸ばすと、腕に仕舞っていたかぎ爪が飛び出て握りしめ、唯一の横を駆け抜け、隙だらけの崩感へと飛びかかる。

「おいおいぃ。それは無謀ってもんだろぉ。すでにここは俺の領域内っだつぅのにぃ」

そう余裕に満ちて高みの見物をするかの様にくつろいだままで、一見何も持ってない、左手で盃をすする様に指を鼻で吸う。


「んっ」

そんな、先ほどの荒々しい言葉をしていた彼女からは到底思えない、少し色気のある声を漏らしながら、飛び込む勢いが無くなり男のくつろぐ横枝の下を通り過ぎて、膝をついてお腹を抑える。


んだ今の情けない気持ち悪い声…。オレ様の声だってのか…?。んだよコレは…。なんか頭がボーっとして…体が、顔があったけぇ…。それに腹の下が何か変だ…。


「はあぁぁ」

気持ちよさそうにニヤけた面をしながら、傍に置いてあったひょうたんに入っている酒を煽り飲むと、反らせて行き横枝から落ちるも、両足を引っ掛けてぶら下がり「きくぅぅぅ」と、腕を伸ばしながら、まるではじめの一杯をキメた、おっさんのような声を上げる。

「うおっ」

すると、その油断の隙を突くように熊颶利が真下からその横枝を破壊しながら襲い掛かり、宙に浮くその滞空の場を狙い木々を飛び移りながら切り掛るも、まるでヌルりとすり抜けるように気持ち悪く避けられながら、背中を押される。

「んっ」と言う弱々しい声を上げて、そのまま落ち行き着地するも、ふらっと地面に倒れて、うずうずとのたうつ。


「驚いたぁ。まさかその状態でもそんな動きができるなんてなぁ。やはりお前ぇのその感覚は厄介だなぁ。だが、もう動けねぇだろぉ。今のお前は頬を撫でる風さえも苦しぃんだからなぁ」

崩感の言う通り、熊颶利の呼吸はまだ整わず荒く、おかしな体をただ、手で押えることしかできずに横たわって、起き上がる様子は見えない。


不共狂感(ふきょうきょうかん)。お前ぇの知っての通り、俺の魔術は俺の得意とする酔拳を軸にした、敵味方関係なしの理不尽な共有感覚領域ぃ。

この領域内は俺が取り込むブツの反応をそれぞれに起こす。だから、俺が酒を取り込めば、その分のアルコール摂取したと体が反応し酔いを起こす。

と言っても実際にそれを取り込んでいる訳では無いからな、術が解けるか領域外に出れば収まるし、体に直接残るような害は無い。

それに魔術耐性があれば抵抗も可能だからなぁ。酒は敵によっては意味が無ぇ。特に酒豪やお前のような喧嘩ついでに模擬戦を繰り返した相手じゃぁなぁ」

「な…」

「なら、なんでお前がそうなってるかって?そんなの簡単な事だぁ。お前ぇが一切耐性を持たない、魔術耐性も軽くすり抜けちまう、薬物にかえたんだぁからなぁ!」

倒れ、未だに身動き出来ないでいるその横っ腹を蹴り上げる。

「おえ…けはっ…あは…かっ…」

「初めての感覚だろぉ。苦痛がイカれそうな程の快楽になって襲い来るのはぁ」

「何で…うっ」

「驚いたぁ。まだ意識を保ってるのかぁ」

ひょうたんを持ちながら歩み寄り、上からドボドボと熊颶利の頭に酒をぶっかける。

「やめ…あっ…あっ…」

「その状態で酒はぁよく効くだろぉ。まぁ今のうちにコレに少しは慣れといた方がいいぞぉ」

「ひぃ…かはぁ…うぅ…う…な、なん…かはぁ…」

痙攣するように震えて、さらに呼吸が悪くなって行く。

「…質問が多いいなぁ…。なんで、動けないのに攻撃を仕掛けない。何が目的かってぇ?そりゃ、面倒で簡単な答えだぁ。

うちのボスの傘下にいる奴が、どういう訳か、お前が欲しいって言ったらしくてなぁ。だから、手土産に連れて帰るためだぁ。良かったなぁ、熊颶利ぃ。新しいパパに可愛がってもらえよぉ」

「くそ…いぃ…」

ビクッと一瞬大きな声を漏らすと、気が収まり、ぴくぴくと動かなくなった。

「ようやく逝ったか…。俺でもそれなりに数吸って慣らしてても、かなりキツイやつを使ったというのに…。あたぁ、猿角が帰って来るまでのんびりと一杯させてもらうかぁ」

そう、腰に忍ばせていた新しいひょうたんを取り出し、栓を開けると視界に座り尽くす唯一に視線が向く。


そういえばあれはどう…。なんだぁ…あいつこの領域内で…と言うかこちらを見て…いやぁ、あいつは俺を見てねぇなぁ。一体…何を見て…。下ぁ…?


そう、視線を下へ向けた瞬間、熊颶利が勢い良く起き上がり鉤爪を振り上げる。

ひょうたん三つに切り分け、崩感は後ろに飛び回避するが、少し遅く三つの浅い切り傷つく。

どういうことだぁ?いくらお前でもこの薬の耐性をそんな簡単に…すぐ作れ無いはずねぇだろ…。


熊颶利の様子を見ると、酷い呼吸をしながらまだ顔は火照っており、ふらふらとして立ってるのもやっとの様だった。


やっぱり、完全に耐性が出来たわけじゃねぇな。だが、どうやって…。何をした?いや、何かしたのは…。


崩感は体をゆらゆらとさせて、動き出す。

「え…」

「おめぇだなぁ。何かしたのはぁ」

唯一が反応できない速度で急接近して袖から刀のような刃の暗器を伸ばし、振り下ろす。

だが、それを予測していた熊颶利がそれを防ぎ、乱打による攻防が行われる。両方がそれなりの実力者であるようだが、不安定な状態の熊颶利の方が分が悪く、武器を弾かれ開いたその腹に、横蹴りを食らわせた。

だが、熊颶利はそれを噛み締めて耐え、前へ踏み背中を叩き付ける。それをまともにくらい吹っ飛ばされ様に距離を取る。


チッ…肉を絶って骨を断つってかぁ…。まさかその状態で鉄山靠をきめてくるたぁなぁ…。骨に響きやがる…全開で食らってたらやばかったなぁ…。

しっかりと敵の技だったものを利用しやがるたぁ。割り切りのいい所は頭の受け売りか。にしても、この条件下でも地力はアイツの方が上ときやがる。めんどくせぇけど、あいつの動きが良くなる前に…。


「おいてめぇ」

「は、はい…なんですか」

「何をしたかは知らねぇがとりあえず感謝しとく。ありがとな」

「え?えっと…その…どういたしまして?」

「何で首傾げてんだてめぇ」

「ご、ごめんなさい。い、一体何に対して、お、お礼を言ってくれたのか、分からなくて…」

演技でも、嘘ついてる目じゃねぇ…こいつ、ほんとに何をしたかわかってねぇのか…。崩感の領域はしっかりと機能していやがるし、とりあえず今は…。


そんな思考をしてる隙に、再び崩感が唯一に向けて暗器を振りかざすのを熊颶利を防ぐ。


不確定要素のあるこいつをさっさと仕留めるかしねぇ。

いつも通り勘を信じて、こいつを守りながら倒すしかねぇ。


—————————————————————————


隙を与えない棒術による連撃を、まるで全て見切ってるかのようにゆらゆらと避け、手刀で弾き、開いた懐へと魔術を施した掌底を入れ込むのだが、それも見切られているように軽々と避けながら体を回転させて棒を振り回されたそれを軽々と避けながら、他所の様子を見る。

2人は押され気味っスね…。まぁ、当然スか。そんで、彼はと…。

そう、鳶鷹の方を見ると、猿角の匠な棒術に押され気味にも、何とか棒切れで防いでいた。


光栄スって言った手前、まさか本人が彼と戦うことになるとは…。まぁ、俺の魔術嫌っての事スけど…。それ以上に彼の魔力…不確定要素は先に倒すって感じっスね。あっ…それダメっス。


防戦一方隙の中、唯一見つけた隙を見て攻撃をするも、その隙というのは誘いであり、容易く受け流しながら強烈な突きを食らわせて、棒で頭上から叩き落とし、横から薙ぎ払い飛ばす。


「くっそぉ。加減なしにボコすか頭狙って叩きやがって。これ以上バカになったらどないしてくれるんや」

「…それくらい喋れる余裕があるなら、大丈夫そうッスね」

随分と余裕ありげにあしらって鮭馗羅が傍にきて声をかける。

「大丈夫やないわ、あのおっちゃん強すぎやろ」

「まぁ、武器を使っての技量で言えば、うちの組で二位を争ってた人っスからね」

「なんや、一位は決まってるみたいな言い方やな」

「そりゃ、うちの頭に武術で敵う人はそうそう居ないっスからね。それでどうするっスか?」

「どうするってなんや」

「相手を変わってあげれるっスけど」

「冗談言うなや。自分の相手くらい責任もって最後までやるわ」

「大丈夫なんスか?」

「おう、なんか今日は頗る、調子ええ感じな気がするんや」

「そうっスか…」

「鮭馗羅は大丈夫なんか。余裕そうにしてる割に手間取ってるやろ?」

「まぁ、そうっスね。こいつら猿角と似たような動きするから、動きはなんとなくわかっても、隙を付けない、攻めにくいんスよね…。おまけに伸縮する棍なんて魔道武具なんていったいどこで手に入れたのやら」

「伸縮…そんなのしてたんか?」

「はいっス。さっき突かれたときも直撃に合わせて伸ばしてたっスよ」

「マジか。確かにあの一発は異様に重かったけど…それは気が付かへんかったわ。それにしても伸びる棒に、全く似た技を使って雰囲気も似てるって、まるで孫悟空みたいやんな」

「孫悟空…?なんスかそれ」

「なんや、知らんのんか?孫悟空っていうのは西遊記っていう三蔵法師が天竺へ向かう物語に登場する仲間の一人で、如意棒っていう伸びる棒を武器にしてるのが有名やんな」

「西遊記…なるほどっス。如意棒以外にも何か使えるんスか?」

「髪の毛で分身したり筋斗雲っていう雲に乗ったりとか…変化の術くらいか?他にもあるかもしれんがそのくらいしかワイは知らんな」

「そうっスか…。取り敢えず猿角の任せるっスけど、一つだけ言っとくっス」

「なんや?」

「今対峙している相手は猿角…人では無く。ほぼ、その孫悟空だということを」

「それってどういう」

「そのままの意味っスよ。ほら来るっスよ」

そう言い捨てながら、再び鮭馗羅は対峙していた相手へと駆け迫るのと同時に、猿角がとびかかるように襲い掛かり、到底届くはずがないその空中から構える。

もうバレたのであれば隠す必要はない。「伸びろ」

猿角のその言葉に答えるように、棍は目に止まらぬ速度で襲い掛かる。

「うおっ」

ぎりぎり避けてその先は後方の地面を貫通して、強く突き刺さる。

「縮め」

伸びた棒が猿角を引き寄せるように伸縮し、一拍にも満たないその時間で距離を詰めながら、その速度を利用して強烈な蹴りを棒切れを盾に両腕で防ぐ。

ミシミシと骨にまで大きく響き、棒切れは耐えきれずに腕と足の間で潰れて破裂し、両腕で防ぐその隙間を無理矢理こじ開けようと連打が撃ち込まれて、防御を打ち崩し、そこへ強く意識が向いたのを見計らい、横から腹部へと右フック打ち込む。


————————っ。


崩れゆくその姿勢に、さらに容赦なく追い打ちのコンボに攻められ、決めに来る回し蹴りに合わせ、右拳で迎撃するも、力負けし後方へと引きずられるように後ずさりしてしまう。

すぐに立て直し、追撃に備えるのだが、追撃には来ずにその場で考え事をする様に立ち止まっていた。


なんや…そんな考え込むことなんかあったか?


そう思いながら、腕への強化を高めながら身構えていると、それを見て猿角も棍で二度地面を叩いて回し構え、特に何の合図も無かったが、息が合うように飛び出し攻撃が衝突する。


—————————————————————————


目にも止まらぬ速度で襲い来る、異形のその猪突猛進の攻撃を、まるで姫を守る近衛騎士の様に、一歩後ろに梓麻を置き、顎門が進行方向を上手く逸らすと同時に腕や脚を何度も切り飛ばして防いでいた。

そして、その傷を即座に再生させながらこちらを睨みつけるように警戒してのそのそと歩く。

その様子を何度も見ているために、梓麻は考え込んでいた。


「不可解か?」


唐突に顎門が口を開き声を掛ける。


「ええ。なんで貴方はあの異形を倒しに掛からないのかしら」

「…その話をするには先に、理鏡の力についでに話さなきゃならない。理鏡と対面した事は?」

「初日に利用させてもらったわ」

「なら、何となくだが、あいつの力がなんなのか分かるだろう」

「憶測で答えるなら、彼女には二つの力がある。一つは相手が思い浮かべる思考を読む、又は見る力。そして二つ目はそれを幻術として見せる力かしら。この二つの力があれば、思い浮かべる、当人の解釈通りの人物…会いたい人を見せることが出来るってところかしら」

「ほう、何故そう思うんだ」

「鳶鷹…私の友人が海外の人と合わせてもらったらしいの。そしてそれは彼の知るとおりの声で言葉で話した。あいつが理解できるということは日本語であり、知るとおりの声ということは吹き替えによる声だったようだから、この答えに至ったというところよ」

「流石だが…七割ってところだな。理鏡の魔術はその目に持つ二つの魔眼によるものだ。一つはお前の言った通り、自身と他者の思い浮かべるそれを見る力。そしてもう一つはそれを…。想像を現実として映し見せる幻術…では無い。幻想を現実に実現させる力だ」

…!?

「俺はその二つの力が合わさりできた力、魔眼を『幻実の魔眼』と呼んでいる」

「…名前だけ聞くと万能…神のような力だけれど、そう言う訳では無いのでしょう」

「ああ、その通りだ。知っての通り現実に無いものを起こしたり、無かったものをその場に物体として作り出すには世界の抑止、修正力が働き。他者へと干渉させるにはそのものにある抵抗力が働く。それらに干渉する魔術を使うのには大量の魔力が必要となる。

だが、あいつにはそう多くは無い。だから、思い浮かべるそれを自分の肉体を張りぼて、理想を移す鏡として見せるようにしていた。まぁ今では何らかの儀式によって能力が増しているようだが…」

「そう…。それで何となくは理鏡の力は理解出来たけれど、それがその異形を倒さない事と、どう関係しているのかしら」

「それは単純な答えだ。これまで見た通り、あれは魔素によって出来た肉体だ。だから、幾ら切り飛ばそうと再生する。だが、不死身という訳では無い。肉体の中にある核を壊してしまえば活動は停止する。

だが、あれの中にある核はただの魔素の塊の核では無い。

人を、魔術師では無いただの一般人を核とされているからな。殺す訳にはいかない」


そこまで見えていたから、胴体には一切傷付けずに二の腕や足を切り飛ばしていたのね。

おそらく魔術師では無いと核心ついているのはここまでの異形の動きからの事。攻撃が全く戦闘慣れしてない、単調で一直線的でしかなく、数を重ねる毎に動きは改善されているけれど、結局全て私を狙っての攻撃。だから読みやすい故に、かなり速い動きをしているけど容易く捉えらてしまっている。だけれど…。


「だが、このまま俺が対峙していてもジリ貧もいいところ。うちの奴らか、お前さんの仲間が事を解決させる事で収まるかもしれなし、収まらないかもしれない。それか、コイツが俺を倒す程に強くなってしまい、どうしようもなくなるかもしれないな。そうなった時は…致し方ないだろう…」

「…何か解決策は」

「あるにはある」

「それは何なの」

「こいつはお前ばかりを狙っているところから、何らかの恨み、又は思うところがある人物が核となっている。心当たりは?」

「さぁ、多過ぎて分からないわね」

「多過ぎてって、お前…」

「仕方ないじゃない。私はお家柄、見下されたり、妬まれたりと色々あるのよ」

「そ、そうなのか…」

「でも、何となくだけれど…ここまで様子を見ていて、一人浮かび上がったわ」

「…そうか、ならお前が倒すって言うのが手っ取り早いが…」

「無理って言いたいようね」

「そのくらい自分でも分かっているんだろう?」

「そうね。私はここまで見ていても目で追うのがやっと。それに、これ程の異形を倒す火力なんて、今は持ち合わせていない。到底無理。だけれど、考えはあるわ」

「それは何だ」

「その前にちょっとお願いするわ」

そう言って胸元に忍ばせていた術式の書かれた紙を地面に置き術式を発動する。

それを見て反応し、異形が唐突に襲い掛かるのを先までと同じように妨害する。

…やはりこいつ、どんどん動きが良くなってきているな…。熊颶利と似た感覚タイプか…。

そう、突進から格闘による近接戦闘に切り替えてきたそれに対応しながら、梓麻の様子を見る。


思念伝達…あいつと似た魔術を、術式のみで再現しているのか。


そう連絡を取り終えたのが見え、振り下ろされる腕を峰打ちで弾くと共に、とてつもない威圧を放たれ、異形は気圧されて直ぐに距離を取る。


「それで、どうするつもりなんだ」

「ここから理鏡の所まで駆けつけるのに、どれくらいかかる」

「…だいたい三十秒くらいはかかるな」

「なら、一発あいつに食らわせてから行ってくれないかしら。そこで私の仲間と変わって欲しいの」

「二人で何とかなるのか」

「いいえ。この場は彼女に全て任せて私も後で理鏡の方に向かうつもりよ。互いの状況を話し合ってそれが得策であると判断したわ。彼女の相手は私よりも適任でしょうから」

「お前達で話し合って出した答えであるのであれば構わないが…死ぬぞお前」

一切の濁しも遠慮もないその本気の言葉が投げ掛けられる。

「死なないわよ」

迷いないその即答、本気の言葉には本気の言葉で返すその姿を見て、納得するように頷く。

「そうか…なら、お前のそれに乗るとしよう」

「いいの?私みたいな、ただの小娘の戯言かもしれないのに」

「俺は戦うことは得意だが、頭で深く考えるのは、あまり得意じゃない。それに対してお前は戦闘経験は浅いが、頭が良く、それなりに切れる…。それはこうして話して、目を見れば何となく分かる」

「あまり褒められてる気はしないし…嬉しくないわ」

「それもそうだろうな…お前の場合」

「…」

「そう不服そうにするな。適材適所だ…。今は、これ以上の言葉はいらないだろう」


そう言って顎門は異形の方へと歩みながら持っている刀を鞘に納めて、カチャ、カチャと音を鳴らして親指で弾くように抜き差しを繰り返し、四度目の音が鳴り終えると同時に走り出す。

迎撃しようと異形が振りかぶった右拳を放つそれに合わせて抜刀し、まるでその腕を肉体を滑りゆくように刃が流れながら、四度振り抜く。


琉穹りゅうきゅう四連しれん 荒暮あらくれ


右腕の先から根元まで捻じれて開くように裂け切れ、真っ黒な何かに覆われた核となっている人物の腕をさらけ出して、左腕と両足に大きな斬撃を与えて、支えの効かないその体は容易く地面に倒れる。

直ぐに立ち上がり、反撃しようとするが、顎門は既に相手にする気がないように山頂へと向かって走り行き直ぐに姿が見えなくなる。


「あの男ならもう、貴方にも、ここにも、用がないから行かせたわよ」


切られた四肢を再生させながら這い蹲る異形は梓麻の方を振り向くと、いくつもの紙にペン先を走らせて身体強化を施し、そのままペン先を差し向ける。


「性に合わないけど、付き合ってあげるわ。女同士の醜い言い争いって奴を」



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