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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
理幻鏡想
26/38

理幻鏡想 12

まだ状況が理解出来ていないようで、異形は考え事をしているように首を傾げて固まっていた。

それは梓麻も同じだが、異形が動かない様子を見て口を開く。

「ただのおじさんって…そんなわけないでしょう。そんな刀まで携えるだけでなく、アレに全く動じてないのだから」

「まぁ…同じ裏の世界の住人には通じないわな」

私達のことを知らない事から千和々達が寄越した応援という訳では無いのは確かでしょう。それでいて私をどうやってか助け、あの異形に刃を向けているのだから、恐らく敵でも無い。

「それで、貴方の目的はなんなの。わざわざこんな真夜中に山へ散歩って訳でもないのでしょう?」

「俺の目的は…そうだな。攫われた姫さんの奪還ってところか」

理鏡の後ろについてる関係者ってところか。

「そういう嬢ちゃんはどうなんだ?」

「私たちの目的は、あの異形の退治と事の解決よ」

「なるほど。てことは…目的は違えど、利害は一致してるって事だな。なら、協力しないか?」

人手が足りない現状。それは願ってもいない提案ではある。あるのだけれど…。

「そうね。貴方達が理鏡を使って変な儀式をしないというのであれば、願っても無い提案ね」

「まぁ、こんな怪しいおじさんの話簡単に信用出来るわけないもんな。だが、そんな犠牲を用いた悪の組織の様な野望めいた事は持ち合わせてない。安心しな。心配なら別に今ここで命を掛けた契約、制約を行って誓ってもいい」

そう言って男は右親指で刃に触れて少量の血を垂らして見せた。

この男…たかがこんな問答に平気で命を掛けようとするなんて…。

「分かったわ。そんな事しなくても信用してあげるわ」

「そうか。了承してもらえてありがたいよ…。そういえば互いに名は明かしてなかったな。俺の名前は野刃(やいば) 顎門(あぎと)だ」

そう、自己紹介しながら立ち上がる手伝いをしようと手を差し出され、断る必要もなく、手を借りる。

「綾嶄寺 梓麻よ」

「そうか、梓麻。ちなみに先に聞きたいのだが」

そう何かを尋ねられようとした瞬間、手を強く引き寄せられた。

「ちょっと何を…」

最初はその行動に理解が出来なかったが、直ぐに聞こえたその轟音の後に生々しく騒々しい音を聞いて理解した。

振り向くと、いつの間にか異形は私が先程まで立っていた一直線上の奥に中腰で背中を向けており、砂煙が舞い上がっており、顎門が再び刀を地面に突き刺すのに遅れ、空からボトッと異形の左腕が落ちてきた。それは切れたトカゲの尻尾のようにのたうち回り、直ぐに動かなくなった。

全く反応出来なかった…。

「この間の坊主と君と同い年ぐらいの赤い長髪のお嬢さん、ちょっと頼りなさそうな…坊やは君の連れでいいのか?」

「…ええ。間違いないわ」

そう答えると、空いた左手を耳に当てる。

「だそうだ。鮭馗羅、俺は俺で今目の前に理鏡を攫ったやつが目の前にいて手が離せそうにない。そっちはそっちで上手く伝えてやってくれ」

通信系の魔術…。赤華達の事を確認したということは彼の仲間が皆のところにもいるって事か…。なら、あっちは何とかなるでしょうけれども…。

「さて、嬢ちゃん気ぃ引き締めろよ。一瞬でもよそ見したら、あの世一直線やからな」

「わ…———」

言葉に仕掛けた言葉が詰まる。それは無意識に両手と両足が震えているのに気が付いたからだ。震える両手で顔を覆い深呼吸をして心を呼吸を整える。

脚の震えがゆっくりと納まり、だらりとリラックスできたように腕が落ち、上を向いてもう一呼吸し、前を向く。

「分かってるわよ」

気だるげにも頼りがいのあるその背中の後ろでペンを抜き身構える。

「いい心意気だ」


—————————————————————————


「だから、その赤髪の子は敵じゃないッスから。もう切るからな、上手いことやってくれよ。熊颶利」

通信先から周囲にキンキンとするノイズが音漏れするような大声に参ったように左手を遠ざけるも、聞くに堪えないようで鮭馗羅は通信を強制的に切る。

「たく…。いちいち大声出すなっスよ。あいつは」

ため息を漏らしながら、胸ポケットから煙草を叩いて取り出して一服し始める。

「たく…やないねん。一服する前に俺の上からどかんかい!」

器用にもうつ伏せにさせて両腕を後ろクロスさせて身動きのできないように座って一服を始められたことに鳶鷹が当然の怒りを上げる。

「あ~?ああ。まあ、落ち着いて待つっス」

「落ち着いて待つっス、やないねん。落ち着けられるか。おまんら結局どっち側の人間やねん。急に横から襲い掛かかってきて動けんようにしてきて、ヤバイ思うてたら、あのゾンビみたいなのも倒すわけでもなく同じように動けんように縛り上げるだけやし…」

そう少し外れた木影の方で同じスーツ姿の男二人が、ゾンビ達が暴れて互に傷つけあわないように猿ぐつわなどをつけて動けないように体を縄で縛っていた。

「むしろ、俺よりも丁重に扱われないか?」

「それはそうっス。君の目も、俺達らの目からもアレはゾンビか何か、怪物にしか見えていないっスが、あれはゾンビでも使い魔でも、魔術師でもない、ただの一般人っスから」

「はぁ?いったいどういう事や」

「それはある魔術によって一時的に催眠を受け、そして姿を変えられてるんス。だから、むしろ感謝して欲しいんすよ?あと一歩の所で君、なんの罪も無い、巻き込まれただけの人を、一人殺してたんスから」

「それは…すまん。ありがとうございます…」

「素直に言える奴は好きっスよ自分。許すッス」

「そんで、姿を変えられているって事はちゃんと元に戻るんか」

「さあ、それは分かんないっス」

「分からんって…」


「それは確証がない事、無責任な事は断言でき無いもんな」

森の奥からまた別の人物の声が聞こえた。

その声の方向を見ると修道服の似た装いで、物干し竿の様に長い棍を持った男がこちらへと向かって歩いてきていた。

「お前が俺の方に来たっスか…猿角(えんかく)

「なんや。知り合いかいな」

「元うちの組。楽芽組らくがぐみの構成員で、裏切り者っス」

「楽芽組…?組って、あんたらただの魔術じゃのうて、ヤクザさんかよ」

「まあ、そんなとこっスね。それで、なんで裏切ったんスか?」

「裏切るも何もない。元々俺達は違う組織出身だからな。命令が下されたら従うだけだ」

「そうっスか…」

まだ、余りある煙草を携帯灰皿に入れ、やっと鳶鷹の上から立上り着崩れた上着を直す。

「今なら背後に何者もいないから、逃げるなら今っス」

「ああ?ここまできてんねんのに逃げるわけないやろ。あんたらの事情っていうのは分かるけど、今回の事はこっちの事情もあんねんから。関係ない奴はとは言わせんで。それに俺は悪さんを前にして逃げるなんてする訳ではないで」

やる気満々に良く不良少年とかがやるように、ぽきぽきと指を鳴らす。

「そうっスか…まあ、いいっスけど、その関節を鳴らすの不健康だからやめた方がいいっスよ」

「え…まじかいな。でも、なんかよくこういう場面でやってるよな」

余りにもショックだったのか、呆然とブツブツ喋るその姿を見て、静かに男は微笑む。

「おいらの名前は鮭馗羅いぐら暖欒(だんらん 鮭馗羅いぐら)っス。あんたさんの名前は」

「お、俺は鳶鷹。飛翔 鳶鷹や」

飛翔…どうりで…。

「どうしたんや?」

「いんや。鳶鷹くん身のこなし甘いっスけど…未経験という訳でもないみたいっスね。実戦経験はどのくらいっスか?」

「実戦はこれが二回目や。模擬戦は何十回…骨を何回も折るくらいにはやらされとる。まぁ幼い時やけど…」

「幼い時って何時っすかそれ」

「確か…十三くらいまでやな」

「…なら、まあいいっス。だけど、あいつは完全な武闘派。甘くないんで気を引き締めるっス」

「おう」

「会話はもう十分か?」

鳶鷹と鮭馗羅のそんなやり取りを木に持たれて大人しく待ち眺めてくれていた。それは、それほどに余裕があるようだ。

それに、鮭馗羅の部下達があの男が現れたその瞬間から武器を構え続けている事から、それ程に警戒する人物であるのが伝わる。

「随分と余裕っスね。一対四だというのに」

「まあな。そもそも一体複数は俺は慣れているのもあるが、この数ならそもそも気にする必要が無いって事だ」

「どういう事っスか」

「これから起こる事のまんまだよ」

そう言って何かを吹きかけると、男の周囲に同じ身長、同じ格好、同じ武器を持つ、全く同じ気配を漂わせる顔が陰で隠れた人間が現れた。

「何スか、それ…」

「さあ、なんだろうな。ただ言えるのは、俺はお前が相手だからといって、油断する気など一切ないという事だよ」

猿角が鮭馗羅に差し迫ると同時に、陰の顔の人間達がそれぞれ三人へと迫り行く。

「そうっスか。あんたにそう言われるのは…光栄っス」

刺し穿つ棍を、身体強化を施したその腕で迎え撃つ。


—————————————————————————


「たく…横入りなんてくそしょうもねぇ邪魔しやがって…っよ」

そう、不貞腐れながら意識を失った修道服の人間を身動きできない様に縄で縛りあげ、無造作に放り投げる。

手をぱんぱんと掃除を済ませたようにする熊颶利と赤華の周りには、同じ様に意識を失い縛られた全六人の修道服の男が転がっていた。

「それで、どうする。続きするの?」

「…やんねぇよ。アニキに釘刺されたから、これ以上続けたのを知られたら頭に知らされて怒られちまう」

「そっか。それは良かった」

「それで、赤髪」

「赤髪じゃなくて。赤華」

「そうか、赤華。俺は熊颶利だ。それでお前、歳は」

「歳…?16歳だけど」

「そうか。なら俺の方が上だな」

年上なんだ…。人は見かけによらないな。でも何の確認なんだろう。

「それでお前の目的は?」

「私はこの異変の解決。それだけ」

「ってことは、あの変な黒いバケモンとは繋がりないみたいだな。こいつらも容赦なしにお前に襲い掛かっていたし…。何より、お前のその目は信用できる。俺が言うのはなんだけどな…」

コレって褒められているのかな…。

「で、てことはお前はこれから上に向かうのか?」

「うん。そのつもりだけど」

「そうか。ならお前に異変の根源…うちの姫さんを救い出す役目を任せる」

「任せるって、勝手だなぁ…。まぁいいけど。なら、熊颶利さんはどうするつもりなの」

「私はちょっと野暮用だ…。面倒だけど、こう誘われちゃあ、行かないわけにもいかねぇ」

そう、彼女が見る方向。それは確か唯一がいる方。この子が言うことが正しいのであれば、そちらに何か起きているという事なのだろう。…心配だけど、私は唯一を信じてる。

「分かったけど。そっちに私のとも…仲間がいるの。私が任せられたのだから、こちらもお願いしていいかな」

「っな。お前、俺に命令してるのか」

「命令じゃないよ。熊颶利さんのその技量を感じてお願いさせてもらっているの」

「っち。そういう事なら仕方ねぇな」

そう、強く言うものの満更でもないように。少し嬉しそうに微笑んでいた。

「いいぜ。任されてやる。だが、俺に頼んだんだ。半端なことしてたら許さねぇからな」

「ありがとう。それじゃあ、よろしくお願いします」

「おう」

やっぱりいい身のこなししてるなぁ、あの子。

走りゆくその姿を見送り、赤華も本来の目的通りに山頂へと向かって走り出す。


■■■


山頂へとたどり着き、境内へと続く正面の石階段から登って入っていく。

ここまで、敵の目を考えてなどしていたが、既に中からは人の気配が全くない。

だから、神社という神聖な場所に玄関以外から入るというのも失礼で罰当たりな気がして、礼儀正しくしようと思っての事なのだろう。

境内はとても静かで、一見何事もないただの神社なのだが、その本殿の中からは言葉にはならない、不思議な感じがする。

まるでそこには何も無い筈なのに何かがあって、何かがある筈なのに何も無い。

そんな矛盾があり得る筈など無いと分かり切っているが、それ以外の言葉が、例えが見つからない。いや、視線を向けると隠れて、他所を見ると頭を出してこちらを見るモグラという例えが近いかな。

と一人、そんな可愛らしい妄想して微笑みながら門番の様に両端に伸びる木の間と鳥居を潜り、堂々と少し長い参道の真ん中を歩いて行く。

見張りや守りの術師がいるのであればそれを許す筈など無く、襲い来るはずなのだが、やはりそんな視線は勿論、気配も一切無い。

争わないで済むなら、それはそれで赤華も望む所なので嬉しいところだ。

だが、油断はしてはならない。その隙を突いて来るのかもしれないのだから。何が起こるかなど、その時まで、最後まで分からない。

それが、普樂の二人、そして師である儚義悠梅から強く言われた事だから。

再びある石階段を上がり、再びある両端の神木の様な木の門の下を通り抜け、虚ろの気配を漂わせる、その本殿への扉を開く。

そして視界に映ったのは、特にこれと言った物など何も無い、誰も居ない、ただの本殿だった。


理鏡さんは何処に…。


周囲をよく見渡すも、やはりその姿は見えず、何も無い。


だけど、何か…この何か引っかかる違和感は…。


そう、自身の感覚の感じるままに、見えない糸を手繰りにその床へと右手を伸ばす。

すると、確かに指先に何かが触れたのだが、直ぐに何も無い空を貫き、床に指先が触れた。


何今の…確かにさっき何か触れた気が…。だけど、今触れているのはただの床板。かんなで滑らかに仕上げられた、古い木の板だ。


何かに触れた、その指を眺める。


気の所為…?だけど、確かにまだ何かを触れたという感覚が指先に残ってる…。なら。


『赤華は少し特殊な感覚を持ってるからね。視覚や魔力から感じるものより、その内にある感覚が感じる様にするといいよ。特に今のその状態が感じ取るためには向いてる』


そう、家の道場で同い年の男の子に言われたその言葉を通りに、瞼を閉じて瞑想に近いその感覚で再びその右手を先の床へとゆっくりと伸ばしていく。

暗く何も見えない視界。いつ指先がその床に、その何かに触れるかも分からない。

ただ、その数秒が長く、長く、永く感じてきた。その時、それに触れた。

その瞬間、真っ暗な世界で指先から水滴が零れ落ち床に跳ねると、まるで真っ黒な紙に白い墨汁の染み付いた筆で、にょろにょろと描くように線が遠く先まで伸びて行った。

目を開くと、その線は見えないが何処へ伸びているのかは、はっきりと感じ取れ、視界の奥にある本殿の壁の先に続いているのが分かる。

本殿を出て裏に周り、その白い道標が続く深い森の奥へと歩いて行く。

森の中は静かで、相変わらず人の気配もそうだけど、動物…虫と言った生物の気配が全く感じ取れない。

確かに、これ程のものなら儀式の場にも向いているのかもしれないが、ただの森の中が神社や寺よりも優れているとは思えない。

そう不思議に思いながら歩き、瞬きをしたその瞬間、その視界に映る変化に直ぐに気がついた。

それはさっきまで真っ暗な森だったというのに、見るからに恐らく先の少し開けた場所が、真昼間のように明るく光が射し降り、明らかに儀式を行っている場所だと言うような雰囲気に一変した。

そして、確かに白い道標はその場所へと向かい進んでいる。

警戒しながらその少し少し開けた場所へと森を抜けると、急に眩しい光が溢れ、目を細めながら光を遮り視界を守ろうとゆっくりと腕を上げるのだが、そんなの意味をなさないように上からだけでなく正面や下から逃げ場などないように光が射し、閉じてしまう。

瞼の先からその光が収まり行くのを感じてゆっくりと開き、目の前に広がるその光景に呆然としてしまう。


その開けた場所にあったのは湖程ではないそこそこ大きな泉だった。

天にはステンドグラスの空が広がり、そこから神々しく射し降る光は、重なり合いオーロラの様な光のカーテンを見せながら、泉の中央に立つ理鏡らしき人物を照らす。

白と黒のローブとベールに身を包み、顔を隠していたベールは無く素顔が見えた。

白く透き通った美しい肌と長い髪がなびきながら、眠っているのか、それとも祈りを捧げているかのように瞳を閉じていた。


その光景は正しく、昔本で読んだ『金の斧銀の斧』に登場する泉の女神と幻想的な世界が広がって出来ていた。


「綺麗…」

あまりにも無意識に自然と出たその言葉に少ししてから気が付くと同時に、その声に反応するように理鏡の目尻に線が湧き現れると、それは鱗の様に浮かび上がり、目覚めた様に両目を静かに開く。

右に金色、左に赤色の瞳が現れて、静かに赤華を眺め見る。


「赤い…髪…」

そう、ボソッりと呟くと、ゆっくりと右手を顔の高さまで上げる。

すると理鏡の真下から彼女を囲うように白い光が一周し、左下から孤を描くように右下までと、黒い点が現れると、それは周囲から何かを吸い上げるように渦を巻き、黒い球体となり、それぞれに火、水、風、電、瓦礫を纏わせる。


「あれは…まずいかな」


そして号令の如く、理鏡が右手を赤華へ向けて下すと五つの魔弾が放たれ襲い掛かる。

二発の魔弾をその場で避けると、足元へ衝突し激しい破壊音と砂塵を巻き上げる。

そこから駆け抜け、泉の外を周るように走り後から軌道を変えて放たれた三つの魔弾を避ける。

これで全部…。一先ず終わり。でも、どうやって近づ…。

そう、視線を向けるとまるで火の玉が現れるかのように五つの魔弾が装填されていた。


そんな直ぐに…。


容赦なく再び魔弾が放たれ、体力を消耗させないためにその場で最小限の動きでその五発を避ける。

だが、そんな甘い話ではないようで、射出方法を変えてまるでガトリングで放っているように彼女の右下から放たれると同時に左下に次の魔弾が無限に出現する。


いやいや…。それはずるでしょ…。


それでもうまく避け続けるも直ぐに回避の限界が訪れて、受け流すという最小限のダメージに済ませようとするが、すぐに対策されて、不可避のそれを左腕で迎えながら、捻り流し。魔弾は横へ軌道を変えて、木をなぎ倒した。

それを見て、何か考え事をしているの様に攻撃が止んだ。

魔弾を流した左腕を見ながら、プラプラとさせて感覚を確認する。


軽く痛むが、これくらいなら何ともない。ないけど、まともに受けるのはやっぱり危ないかな。


高圧縮された魔弾はまるで砲丸のように固く重い。それが球児が放るそれ以上の速度で放たれているのだから、強化を施しているとはいえ、大ダメージは避けられない。

しかもそれが泉の中央という接近が難しい遠距離から、一方的にまだまだ放つことができるというのだからズルという言葉以外出てこない。

それは簡単に例えると、ただの格闘家が小舟に乗って様々な銃火器を揃え装備した兵隊に戦いを挑むようなモノなのだから。


さて、どうしよう。魔弾の使い方から、魔力枯渇なんて期待できないからなぁ…。何う~ん…。少し自信ないけど、やってみるしかないかなぁ。もしなければ、ただ一方的に甚振られるだけだし。


互に作戦が決まったように赤華が身構え、理鏡は魔弾を装填させて放ち、それを先と同じように避けて、タイミングを計っていると、視界に入った装填されている三つの弾丸に違和感を感じた。


回転…回ってる?


そしてその回転している一発目が放たれると、それは二発同時に発車された。

それは先程と軌道が違い、大きく膨らむようにカーブしながら左右から挟むように軌道を描き、そして回転の掛かった三発目が放たれると、それはこれまでにない速度を上げて迫り来た。

おそらく着弾時間を合わせた左右正面という、三方向からの同時攻撃。回避は不可。

三発が着弾し激しい衝撃音と砂煙がその場を襲い、更に十数発の魔弾をそこへと乱射された。

そして、様子を見る為に、その砂煙が散るのを待っていると。砂煙を切ってこちらへと赤華が飛び出す。

だが、当然走り飛びをしたとしても距離が離れているために、理鏡に手が届くことは無い。

着水の水に脚を取られる、その瞬間を狙うべく手を向ける。


赤上流 走法 水渉みずわたり 


右足の着水と同時に、水面を跳ね走る。

まるで石の水切りのように移動しだすその様子に、理鏡は少し動揺したが、すぐに魔弾を放ち始める。

自ら近づいている事から魔弾の着弾も早くなるのだが、自身で狙いを絞らせ、弾速と発射タイミングをほぼ完璧に理解している赤華は、反復横跳びの様に左右に跳ねることで容易に回避が可能だ。

接近し続けて、正面から来る次弾を避けずに左拳で薙ぎ払いながら弾き、強く踏み込んで、飛び、一気に距離を詰める。


痛いだろうけど、一撃で終わらせるから。


赤上流 一式


赤色の魔力を纏う、その右拳を理鏡へ目掛ける。


『赤零』


その拳を放った瞬間、赤華と理鏡の間を割って入るように泉から巨大な影が飛び出し、赤華の拳はそれに阻まれる。


壁!?いや、でも変な弾力が…。


そしてまた一つ泉から影が湧き出る様に現れた。

それは横から赤華に突撃し弾き、理鏡と距離させ、三方向から次々と影が伸びて襲う。

上手く受け流しながら利用して陸へと戻り、その影の正体を確認する。


理鏡を護るように現れたその影は、とても長く大きい首。凍てつくような禍々しい目と鋭い牙に、チロチロと細長い舌を出す。硬くも弾力のある肉々しい鱗をもつ、九つ頭を伸ばす怪物。

そう、それは、日本の神話で登場する八岐大蛇(やまたのおろち)を連想させる生物が目の前に現れたのだ。


「夢なら夢であって欲しいなぁ。これは…」


そんな、淡い期待をしながら頬を抓るも夢では無く、落胆しそうになるが、そんな暇など与えないように、大蛇達が襲い来る。


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