理幻鏡想 3
掃除後のショートホームルームを終えて、いつも通り赤華が千和々に呼ばれるのに梓麻がついて行き、鳶鷹と唯一はクラスメイトと軽くだべり、二つに別れて歩地がいる事務所のビルへと向かう。
と言っても彼のいる事務所ではなく二階三階とある資料やらと物置部屋となっている部屋に彼等四人の衣服等を置かせてもらっている。
それは放課後の作業に制服のままでは汚れたりシワが着いたりと面倒になるから、着替えができた方がいいだろうとの事でだ。
そう着替えが終わり鳶鷹と唯一が先に公園で二人を待つ。
鳶鷹は薄青い適当に文字や柄の入った半袖のTシャツと藍色のジーンズ、唯一は白く無地のカジュアルな長袖にグレーの長ズボンの服を身に纏う。
二人は待ち時間に空や建物などの景色とそこらにある木や花壇の花を眺めたり、公園で遊んでいる幼稚園や子供達といつの間にか仲良くなり遊具などで遊んで時間を潰していた。
すると唯一と一緒に花を眺めていた幼女が何かに気がついて公園の入口の方を見ると「わぁ…キレイ」と言葉を零し、それに釣られて他の子達もそれを見て似た事を呟く。
それらに続いて二人がそちらを向く。
そこに見えたのは気品のある清楚なお嬢様を思わせる白くも簡素ながら高級感のあるドレスと漂わせる丈の長いワンピースを纏う梓麻と、白いTシャツの上に黒い革ジャンと黒いカジュアルパンツを着て黒い帽子に髪を結ってポニーテール姿の赤華が並んで歩いていた。
二人ともが元々顔やスタイルがいいのもあって、それはまるでアイドル…いや、俳優同士のお出かけを見ている様に思える。
服の着こなしも綺麗でやっぱりお嬢様達なんだなぁと改めて実感してそれを周りの幼女達と一緒に見惚れる様に唯一が眺める。
「お~二人ともやっと来たんか」
鳶鷹が気がついて「友達来たからほな行くわ。じゃあな坊主共」と駄々をごねそうになる男の子達に「また、そのうち会えるんや。そんとき遊ぼや」と納得させて別れて二人の元へ走り寄る。
それを見て「あらあら、若いカップルかしら」「ダブルデート?」「年齢的にも多分そうなんじゃないかしら」「良いわね~」「うちの子達ともとても楽しく遊んでたし将来はいいパパさんになりそうねぇ」と少し離れた所で話していた子供たちの母親達が話し出す。
それを聞いて嬉しい気持ちもあるが何かモヤモヤして赤面したりとコロコロと心情が変化しながら顔を横にブルブルと振って唯一も先程まで遊んでた子供たちに「ま、またね」と手を振って三人の元へと駆け寄る。
「二人とも待たせてごめんね」
「う、ううん待ってな————」
「おお。遅いぞ二人とも」
その気遣いの無い言葉に唯一は鳶鷹の頬を無言で抓る。
「な、なんや…どうしたんや唯一」
何となく怒っているのは分かるがやはり理解出来ていないのが分かり溜息を漏らす。
「いいのよ唯一。それは彼に期待しすぎよ」
まぁらそれもそうかと納得して抓る手を離す。
「悪かったわね。こっちはこっちで色々とやる事があったのよ」
「おお、そうか。それはすまんかったな。にしてもセンセの言う通り問題は無いみたいやな」
「そうね」
周囲にいる人たちから赤華への敵意や先の学校での様な小さなものも感じられない。流石と言ったところね。
「そ、それにしても二人とも凄く似合ってるね。赤華さんはかっこいいし梓麻さんもかっこよくも気品のあるお嬢様みたいで、き、綺麗です」
「えへへ。ありがとう」
「ええ。ありがとう唯一」
唯一に褒められて赤華は素直に照れながら喜び、梓麻は褒められ慣れているのか余裕を持っている。
「おお、そうやな。唯一の言うように二人ともかっこいいな。確か…馬子にも衣装って奴よな」
と、先程まであははと楽しそうにしていた唯一の凍り付いたようええ…と言うように鳶鷹を見る。
当の本人はいい事言ったと満足げである。
「こ、これはその。ち、違くて…」
「どうしたんや唯一」
「鳶鷹は黙って」
「お、おう…ん」
慌ててフォローをしようとする唯一を不思議に思いながら鳶鷹が口を挟むが予想外の強い言葉が帰ってきて言われた通り口に手を当てて大人しくなるように黙りますという仕草をする。
最初は二人も時間を掛けたと言う思いもあったろうから、何とかなったけど今のは流石にこちらが悪い...悪すぎると、どうしようどうしよう、あわあわと慌てて言葉を探すも、何も思い浮かばず、ゆっくりと二人の方を向く。
すると二人は何か笑いを堪えていた。
どうして?と困惑し眺める。
「いや、唯一が珍しく強気になったかと思ったらすぐに慌てて、可笑しくてね...ごめんね」
「そうね。別にそこまで気にしなくても良いわよ。そいつが悪気があって言った訳じゃないのは分かっているから」
二人はちゃんと察してくれたようでホッと胸を撫で下ろす。
「ん?あれ…わい何か悪い事言ったんか?」
三人のその会話の様子から何か不味いことを言ったのだと分かったが、何が悪い事なのか理解は出来ていない様子。
「まぁ学生なのだから。とりあえず帰ったら馬子にも衣装について辞書でも引きなさい」
「私も、もう少し学を積んだ方がいいと思うよ」
「鳶鷹はあまり頭は良くないんだから、何かを伝える時は難しい言葉じゃなくて簡単な言葉で伝えようね」
「お、おう。すまんかった。いや、ごめんなさい」
思ったより応えたらしくいつもの元気がなくなっていき、その様子はまるで悪い事をしたと反省している犬などのペットを思わせる。
「私はあまり気にしてないから大丈夫だよ」
「私もよ」
「ほんま、すまんな」
「もう、いいから」
「お、おう」
「それで?とりあえずこうやって出てきて時間的には少し遅い昼食になるのだけれど、どうする?」
「そういえば、まだだったね」
昼食の話をしたからか鳶鷹からお腹の鳴る音が聞こえる。
「すまん…腹減って腹と背中がくっつきそうや...」
午前中に体力テストもあったし、仕方ないと言えば仕方ない事だし、ちゃんと二人を待ってくれていたのだから気にしなくてもいいのにと、思う三人。
「私はどこでもいいけれど。何か皆の行きたい場所はある?」
「ぼ、僕も何処でも大丈夫だよ」
「わいもなんでもええで」
こういう時は皆どこでもいいと言いがちだから、すぐには決まりそうにないなと思っていると、ゆっくりと赤華が小さく手を上げる。
「そ、その。私一度行ってみたかった所があって」
「そう。なら赤華が行きたい場所にしましょう」
「おう。そうやな」
「うん」
そう、行き先が決まり四人は再び商店街の方へ向かって会話をしながら歩いて行く。
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二人と合流する数分前。
二人は服を着替え終えて歩地に呼ばれて彼のいる事務所の部屋に入ると、同時に眩しいカメラのフラッシュとシャッター音がなり聞こえる。
部屋に入って直ぐに千和々がこちらにカメラのレンズを向けて今尚、赤華を撮り続けていると、部屋の奥からコーヒーの空き缶が彼女の後頭部に飛んできて「いでっ」と頭を抑えて蹲る。飛んできた方を見ると歩地が相変わらず煙草を吸いながら資料を眺めていた。
「やぁいらっしゃい二人とも。とりあえずそこに座りなよ」
最後の資料を読み終わり、それを机に放り投げて二人の座る対面に腰を降ろす。
「こういう時の為にと準備しといてよかったよ」
そう言って懐から藍色の小さな箱を差し出す。
「取り敢えず開けてみなよ」
言われるままに受け取ってそれを開くと、中には白金のネックレスが入っていた。
「これは?」
「それは今日の朝届いたものだよ。大三家。ウル家である私達の御館様から赤上である君への贈り物さ。それには君にかかった呪いを一時的に抑える効果が施されているよ」
御館様からの送りものって…見た感じでは宝石では無い何かなのは分かるが、それ以上のことはさっぱり分からない。分からないけど…この術式量は…。
「その効果って大体どのくらいのモノなの」
「今現在張られている結界二つを重ね、規模を赤華の体の形に限定させて、余分になった魔力を抑制の効果を高めさせている感じだ。もっと簡潔に言えばこれまで君から感じていた呪いによる嫌悪感を払拭させられる」
「それってつまり…外を出歩いても」
「ああ、何ら問題は無いよ」
歩地の言う貼られている結界。赤華の家や学校の結界でもかなりの大魔術のものなのだが、この街を覆う結界はそれを遥かに凌駕する、いわゆる神秘に近いものだ。その二つ重ねた効力だなんて…一体何を素材にされているというの…。
「だが、いいものには裏があるように悪い効果がある」
「それは一体何かしら」
神秘のような効力だ。その対価なんて計り知れないものを付けさせられるわけがないでしょと、そう睨みつけるような強い目で梓麻が見る。
「そう警戒する必要はない。君が思っているようなものではなく至って軽度のモノだ」
だと言うが普樂は頭がいい分、認識や感覚が私達とかなりズレていて全く安心できない。
「まず一つ目効果時間だ」
「時間?」
「その中に蓄積されている魔力を消費して効果を発揮する。つまり電池のようになものでエネルギーが無くなればその効果は無くなるという事だ」
「今日それを使い切れば新しいこれと同じ様なものが出来るまでまた出ることが出来なくなるという事?」
「いや、残念だが、それと同じものが次に作られるとすれば百や二百は軽くかかるだろうな」
それは年という事か。まあ、素材からしてそんな気はしていたけれど。
「これは外気にある魔素を自動的に取込み蓄積することが出来る。だからそれが溜まれば再び効果を発揮するから問題ないよ」
「その時間はどのくらいなの?」
「まあ大体、一日。二十四時間くらいは問題なく出歩けるよ。ここで問題なのはそのエネルギーを蓄積させる時間だ。一時間の効果時間を補充するのに大体一週間半を必要とする」
つまりこれがあっても毎日を普通の人々の様に出歩くことは出来ないという事ね。そう全てが解決という甘いことは無いかと思いながら横を見ると、赤華はそれについては全然気にしていない様子だ。それもそうか。そもそも午後の外を出歩けること自体許されていなかったのだから、たった数時間で歩けるだけでもマシ…いや、嬉しいものなのね。
「二つ目だが。これを付けている間は肉体の疲労が少し激しくなる。簡潔に言えば何をするにしてもいつもに比べて疲れやすいという事だ」
まあ、その程度なら彼女の体力なら、ほぼ問題ないような…。
「そして三つ目」
「まだあるの?」
「心配するな、これが最後だよ」
「…そう」
「最後の一つ。それは完全な魔力の制限だ」
「魔力の制限?」
「言った通りこれを付けている間は魔力の動きが制止され働かなくなる。魔術が一切使えないという事だ」
「うん?」
「それって魔術を使わない赤華なら関係ないんじゃない?」
「それは少し浅いな二人共」
「は?」
なんかこの男にそう言われると無性にイラつくわね。
「赤華は儚義の力でによって逸脱した身体能力持っている。だが儚義の力はお前たちの知る強化のそれに近いものだ。だからこれを付けている間は赤華の力は無力化され、ただの一般人になる」
それを聞けば普通をあこがれそうである彼女からすればこれほどうれしいことはないだでしょう。実際に少し嬉しそうにしているし。だけど…。
「ちょっと待って…。力の無力化は分かったのだけれど、まさかその状態で疲労感が増すってことなの?」
「ああ、その通りだよ」
それなら彼女がいくら体力があると言えど、何をするにしてもかなりしんどいんじゃ…。と彼女を見るがそんなことなど気にする様子は無いように見る私を見て「ん?」と首を傾げる。
それを見て今はそんなことどうでもいいと思い、ただ彼女に何でもないと首を振り微笑み返す。
「ありがとうね歩地さん」
「ああ、気を付けていくんだよ二人共」
関係ない今はそう…。関係ないんだ。私がその分支えてあげるわよ。
そう二人に見送られて事務所を後に二人のいる公園へと向かう。
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皆がこの街についてよく詳しくないのもあり、まるで観光をするように景観を眺めながら会話をして歩いて行く。
公園から商店街の入口を抜けて道路に沿って小さなビルが並び建つ、真っ直ぐ五分ほど歩くとある交差点を左に、そこに見えるのは両脇に植えられた木が高く伸びて、道路上に張り出された樹木によって自然のトンネルが作られている。
風通りもかなり心地よく、遠く先を見ると枝の隙間から差し込む日の光が、時折曇り空から光が溢れた時に見える神々しい光のカーテンに似て見える。
「きれいだよね。この道」
「ああ、なんちゅうか心が洗われそうなところやな」
「そうね。そのままあなたの頭を清らかにしてもらいなさいよ」
「おう、そろはなんか気持ちよさそうやんな」
「あはは…」
「それで行きたかった場所っているのが、ここなんだ」
そう彼女が指差す場所は、なんて事ない外に高々と看板とハンバーグのキャラクターが目印と掲げられている一般的なファミレスだった。
カランカランと入店するベルの鳴る扉を開けて店内に入るのだが、テーブル対応等をして忙しいのか入口には店員はおらず、とりあえず来るのを待っていると、レジ奥ののれんからゴツイ男が一度顔を覗かせる。コチラを一度見てキョロキョロと左右を見渡し、少し考えて出てくる。
でっか…。と四人が心の中で息が合う。
それはかなりムキムキの外国人又はハーフのシェフの恰好をした巨漢がレジを挟んでそこに立つのだが、コチラをじっと見るも何も言わず、目元が影で隠れており表情が分からない為、機嫌が悪いのだろうかと皆が固まり見る。
いや、皆がその巨漢を"クマ…?"と目線を無意識に逸らさない様にしているのが正しいだろうか。
「すみません、お待たせ致しました」と慌てて横から梓麻よりも頭一つ半ほど身長の低く、可愛らしい幼女の店員が現れる。
「いらっしゃいませ。四名様ですね。こちらへどうぞ」
その子に案内されて先の交差点と自然のトンネルが見える窓際の席に通される。
その席は角席で他の席が通常の二人二組が対面するように座る四人席に対して、円状の少し変わった席で外側に梓麻と鳶鷹、内奥に赤華と唯一が席に着く。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押しておよびください。では、ごゆっくりとおくつろぎ下さい」と一礼してその子は次の仕事へと向かう。
「お手伝いしているのかな?」
「とても礼儀正しかったわね」
「おお、ずいぶんとしっかりした子やな」
「す、凄いなぁ…あんなにも小さいのに…」
その歩きゆく小さな背中をしばらく眺めていた。
「まぁとりあえず何を頼むか決めようや。この後の予定もあるしな」
「そうだね」
差し出されたメニューを開き梓麻と一緒に眺め見る。
メニュー表の中は主に洋食のものが多く、ハンバーグのキャラクター看板というのもあってメインはハンバーグやハンバーガーといったものだった。
「そういえば他にも様々な食べる場所あるけど、なんでここに来たかったの?」
「まあ、確かに他にも行きたい場所は有るけど…昔から歩地さんの事務所から家までを行き来する時に、よく見かけてたから…。一度か…ううん…。友達と来てみたかったんだ」
「そういう事ね…。良かったわね、今日ここに来られて」
「うん」
一瞬何か言い淀んだが、それを言及する必要はないかな。
「二人共、注文決まったか?」
「ええ」
「うん」
「ほならボタン押すで」
そうボタンを押すと店内に呼出し音が鳴り響き、先の幼女の店員がすぐに来て腰のポケットにある可愛らしい伝票とペンを持つ。
「お待たせしました。ご注文をお伺いします」
「取り敢えずドリンクバー四つとチョベリグハンバーグを二つと…」
「いえ、四つお願いします」
「なんや、みんな一緒か」
「まあ、ここ一番のおすすめみたいだし。取り敢えずで食べておきたいじゃない」
「それもそうやな。あとチョベリグバーガーとチョモリポテトを一つずつで」
「ありがとうございます。ご注文を繰り返します。チョベリグハンバーグが四つにチョベリグバーガーとチョモリポテトが一つでよろしいでしょうか?」
「はい。それで」
「かしこまりました。ドリンクバーでのサービスはあちらになりますのでご自由にしてください。では、少々お待ちください」
注文をキッチンに伝えに行く彼女の姿を見送る。
「それじゃあ、飲みもん取りに行こか」
「うん」
「そうね」
そう定員が示した、ドリンクバーの元へ皆で行くと、初めて見るその機械に戸惑い感激する赤華に唯一が一つ一つ丁寧に説明していく。
「あの首飾りがそうなんか」
「あら、あとで説明しようと思っていたのだけど…」
「まあな。いつもとなんか感じが違うからな…それが代償か?」
「鈍感なあんたでも気が付いたのね…。その通りよ。魔力の制限によって強化が無くなり赤華の身体能力は低下しているわ」
「なるほどな。あれを付けとる時はワイらが守ってやらんとな」
「そうね…。まあ、そうならないように歩地さんがしてくれるのでしょうけど。こういう時はあんたを頼りにするかもしれないわ」
「おう、まかせい」
それぞれにドリンクのコップを持って席に着くと、少しして先の店員がカーを押して来てその上に乗るモノがテーブルに並べられる。
「ご注文の品は揃いましたでしょうか?」
「はい」
「では、ごっゆくりとおくつろぎください」
一礼してカーを押して彼女が去っていく。
「美味しそう」
「そう眺めてないで、冷めないうちに美味しく頂きましょうよ」
「やな。わいももうぺこぺこや」
「あはは。だね」
「うん。じゃあいただきます」
そう礼儀正しく手を合わせる彼女に続いて三人も挨拶をして、なんてことない日常的な会話をしながらそのひと時の食事を存分に楽しく過ごす。




