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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
理幻鏡想
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理幻鏡想 1

暗い赤夜の空に、赤雲が覆い埋め尽くす。

パラパラと小雨の雫がその山深くの森の中に降り注ぎ、枝木に伸びる葉っぱに落ち、騒々しく雨音を響き渡る中、闇に目を光らせる細く長いその生物が、雨を吸って柔らかくなったその地面に跡を残しながら、這いずり進む。

それはお腹が空いているわけでも、雨宿りをする場所、寝床を探しているわけでもなく、ただまっすぐ進み続ける。

すると目的地に着いたのか、その場で立ち止まると、何か示し合わせたかのように雨が止み、深い赤雲が晴れはじめ、徐々に広がるその隙間から赤色の月が顔を覗かせて、明かりが降り注ぎ、その場を照らし見せる。

そこは、山の頂上にある大きな池。大昔に人が堀り作られたもの。山奥ということで不便であり、水道の通った現代では当然使われておらず、人が近づく事はない。今では野生生物の飲み場となっているのだが、今日は何か、いつもと違うことに気が付くが、這いずるその視点からではよく見えない。

近くある高く伸びる木に登り、その場を見下ろす。

そこには一人の少女が朦朧とみだらな姿で横たわり、空を見上げていた。

下敷きにされた白銀の長い髪が広がり、泥に汚れ、破られ乱れた白いワンピースを身に纏い、そこから覗かせる肌の至る所に、痣が見える。

見るに堪えないその惨状だが、その生物にとっては何ら興味などなく。何かを思うことも、何の感情も抱くことすらない。

言葉も知識も、住む世界が全く違う別の種。故に、そもそもその場で何が起きたのか。それが何を意味するのか。理解などできはせず、疑問にすら思わないのだから。

そう。

横たわる彼女の周りに、無数の大人の服だけが、抜け殻の様に散らばっていたとしても。


—————————————————————————


真っ暗な部屋の中で蝋燭の火がそこに佇み開き読む本と手を照らす。

その本は童話の一つシンデレラで開かれているそのページは留守番をしている場面。

続きをめくることは無く、ただそのページを眺め続けて数分、背後から三度のノックする音が響いて少し開かれた扉の隙間から男が「仕事だ」と告げる。

その声を聞いて、フーと蠟燭に息を吹き掛け火を消して立ち上がる。


ある薄暗い一室。

その部屋は普通の部屋ではなく、例えるならば修道院又は教会の聖堂を模した様な一室。

そこには椅子や机といった家具は一切無く、壁や天井に明かりを灯すであろう電光は点けられておらず、奥にある大きなステンドグラスから薄く日の光が差している。

左右の影に二人。二人の視線の先にステンドグラスから光差す所に二人が対面するように立っていた。


「ああ…ああぁ」

程なくして女性は膝を崩し、口元を抑えぽろぽろと涙が溢れ震える声が漏れる。

「ああ…ゆきちゃん…。私の…ゆきちゃん。ごめんなさい…ごめんなさい…」

胸元で両手を強く握り締めそう呼び掛ける彼女に、光を背にして神々しく立つ黒いベールで顔を隠すその人影は、ただ静かにその姿を眺めていた。


「時間です」

影に立つ男が腕時計を見続けそれを告げるも彼女は上手く動けない様で、もう片方に立つ男が歩み寄り体を支えてゆっくりと立たせ後ろの扉へと向かって歩き出す。


「ありがとう…ありがとうございます…ありがとうございます…」

そう部屋の外へ出る扉まで感謝の言葉をただ繰り返し扉の前まで行くと肩を貸してくれている男に耳打ちする。それを聞き入れゆっくりと男は支えるのを止める。

女性は振り返りそこに立つその彼女に向かって深く頭を下げる。


「本当に…本当に…ありがとうございました…。理鏡りきょう様」

そう感謝の言葉を告げると、出口側の扉の傍に待機していた二人の男がその重厚な扉をゆっくりと閉じ、静かな部屋にその音が響いた。


—————————————————————————


六情高校。

昨日の学年始のテストを終えて、今日は体力測定が行われており、クラスの男女ごとにグラウンドや体育館で各種目を回っていた。

体育館の中で生徒が二つの列に並ばされ、片方は反復横跳びを、もう片方は座って数を数えていた。設置された机の上に置いてある黒いタイマーが五秒を表示しており、秒を刻んで零になるとブザーの音が鳴り響き、生徒たちが寄り合い記録の話を始め喜んだり悔しがったりと様々な反応をし合う。

膝をに手を着いて呼吸を整え梓麻は赤華の元へ行く。


「何回?」

「六十三回だよ」

「そう…てことはギリギリ十三点」

梓麻のその反応は嬉しいも悔しいもないが、ただ真剣だった。

本来十点以上などないのだが、彼女は少し特別な事情がある。

というのもそれは今朝の家で朝食を食べていた時のこと。

今日はオフの日と決めていたので、走ってではなくみんなと一緒に車で登校する事となり一緒に朝食を食べていた。


そんな中、唐突に鳶鷹が立ち上がり、何事かと三人が見る。

「おう、梓麻勝負しようや」

「勝負?」

「せや、今日の体力測定で勝負や」

「唐突に何?」

「聞いたで千和々先生から。梓麻、かなり運動神経良くて高成績出してるって。やから勝負しようや」

「いやよ。くだらない」

「お、なんや負けるんが怖いんか?」

そんな安い挑発に最初は少し機嫌が悪くなったが、少し考え始めるとなにか思いついたように機嫌が良くなる。

「いいわ。やっぱり乗ってあげるわ」

「よっしゃ」

「その代わりあなたが先に挑んだのだから、今度私からの勝負を仕掛けたとき潔く受けなさいよ」

「おう、望むところや」

「だけど、どう勝敗を決めるつもりなの?」

「それはえっとなあ…」

どうやら考え無しの思いつきで発したことの様で上の空を見た後う~んと考え始める。まぁそれが彼らしいものではあるのだが。

「あなたのこれまでの判定はどんな感じなの」

「当然A判定や」

そう自慢げに言うあたり。まあ自信があって挑んだものなのだろう。だけどAならそれ以上が無いし勝負になるのだろうかと思うのだが。

「私も同じA判定だから、判定勝負ではなく点数勝負になりそうね。となると記録では何以上は十点となるけど、その更に刻んで点を加算させましょうか」

「おお…お。そうやな」

と何んとなく分かっていない反応を見せる。

「一応説明しとくと、例えば握力なら五十一から五十五が九点。五十六以上が十点となってるわ。つまり前の刻みを見て、五十六から六十を十点。六十一から六十五を十一点。六十六から七十が十二点という風にするのだけど。理解できた?」

「おお。そういうことか。分かったわ」

そう自信満々に答えるが、身体測定は男女別れて行い記録用紙も終わったら回収されるために鳶鷹が各種目の記録と点をしっかり覚えておかないといけないのだが、覚えれそうにもないし、点数の計算もちゃんとできるのかと心配そうに梓麻が見るのを見て唯一が恐る恐る手を上げる。

「ぼ、僕が一緒いるだろうから…僕がちゃ、ちゃんと見てるよ」

「そう、お願いするわ」

梓麻なりに唯一はそれなりに信頼できるようでそれを聞いて安心する。

「唯一と赤華もどうや?」

「私は残念だけど遠慮しておくわ」

「ぼ、僕も。きっと僕じゃ勝負になりそうにないから…」

「そっか残念やけど…まぁ、しゃあないか」

そう少々、鳶鷹はしょんぼりとしてしまう。

「どうせ勝負するなら勝った側に何かあってもいいと思わない?」

「それもそうやな。だけど何をするんや?」

「そうね…可能な限りのお願いを一つ聞くってのはどうかしら」

「可能なお願いか…。ええで。それでいこか。やけど負けても泣くなよ」

「あなたこそ私に負けて自信を損なわないようにね」

とそんなこんなで互いに納得して勝負する事となった。


「次はあなたの番よ」

「うん。…そういえば反復横跳びの七点って何回だっけ?」

「四十五から四十七回よ」

「そっか。ありがとう」

そう言って赤華は位置について反復横跳びが始まり終わると、皆が生きなどを整える中、赤華はかなり余裕を持って梓麻元へ行く。


「流石ね。ちょうど四十六ピッタリよ」

「そっか良かった」

赤華は大体の平均値より少し上である七点になるように調整している。

というのも自分はズルをしているからと、そう決めているらしい。


例えば私達が身体能力を強化したら、体力測定の世界記録なんてを軽く越すだろう。そんな事をすれば注目が集まるし、そもそもそんな人前で魔術を行使していいわけもない為、使わないのが普通だ。

だけど、赤華はそれを行っている。と言うより意志とは関係なく強化されているというのが正しい。

彼女の師である儚義悠梅の儚義とは梓麻達の名家からしたら大三家に次いで知らぬものは居ない、一昔前はそれほどに有名な大三家、各名家の守り続けた護衛等を専門とした戦闘一族だった

時代が進むにつれて各家で護身術等を取り入れるようになり自分達の家の事は自分達で何とかするという考えとなり、儚義は大三家専属の護衛一族となり、かなり衰退してきていると本や資料に記されていた。

というのは、儚義には飛翔家、里見家の様に固有、家系の魔術があるのだが、それは我々、魔術と研究を突き詰めていく魔術師にとっては受け入れがたいものである為だ。


儚義の特有の家系で習うその魔術は超人的肉体への進化である。

長い年月をかけて体内にある魔力と大気の魔素を体内に流れる血液と共に循環させ続け肉体と交ざり、肉体を常時強化を施すというもの。

それにより我々の様に一々強化を行う必要もなく、更に一度の強化で重ね掛けもできると言う、言わずもながらの戦闘特化のものなのだ。

だが、当然デメリットがある。

それは肉体そのものを強制的に強化、進化されるために負担がひどく、最初のうちは全身に何十キロと言う重りを付けられ、地面から伸びる縄に縛られたように身動きができないとか。それはそう知らされているだけであるために確証は無い。

魔術師が受け入れられないのはその次の事である。

魔術師は魔術を行使したり成長がするにつれて個人差があるが保有する魔力量が多くなるのだが、儚義は決して魔力の保有量が多くなることは無く、寧ろ徐々に失っていくのだ。

それは常に肉体と魔力が交わり続けることで、徐々に保有、溜め込むための器が肉体と同化する事により、肉体そのものへと流れ続け、魔力を保有する事が出来なくなる。

そうなると当然、魔術など行使できるはずもなくなり、私達魔術師からすれば彼等は魔術師とは言えない。結局その進化というのも、ただの強化とあまり変わらない。

言うのであれば研究、探求と魔力を魔術師としての成長を辞めた、ただの超人と言うものだろうか。


だからその儚義の悠梅さんから、それをおそらく習っている赤華も同じ様に常に肉体に強化が施されている。だから自分がズルをしていると思って大体の平均値に合わせてやっているのだろう。

だけど、子供の頃から毎日何キロと言う距離を登校する胆力があるのだから、素直に考えて彼女ならば最高点くらいの記録など普通に出せるだろうから、そこまでの遠慮は必要ないと思うのだけれど。


次の種目である長距離走を行うグラウンドに向かい、走る為に軽い準備運動をしていると梓麻に話しかけようとしていたクラスメイトの三人と見覚えのない他クラスの何かスポーツをしているであろう体格の良い一人がこちらへと向かって歩いて来ている。恐らく私達の先の方に用があるのだろうと気にせずに続けていると、その四人はすぐ隣に立ち止まり、何か言いたげに腕組などをして睨みつけてくる。


「綾嶄寺さんちょっといいかしら」

三人組の中で気の強いいつも中心のリーダー的位置にいる麻中あさなか由奈子ゆなこが話しかけてきた。

言葉を続けないところから、この場ではなくこっちに来て話をしましょうという事なのだろう。

どちらにしろ嫌な気はがするが、素直に聞き入れる筋合いなどこちらにはない。

「何かしら?今ここで話せばいいじゃない」

そう言うと三人は一度顔を見合わせ、一瞬視線を赤華を見て、再びこちらを見る。

「綾嶄寺さんが何か弱みを握られてるんでしょう?」

「私の弱み?」

「そう、じゃなきゃ綾嶄寺さんがそんなのと蔓むわけないじゃない」

「そうそう。綾嶄寺さんはお嬢様なんだから、そんな気味の悪いのと本来一緒にいるはずないもの」

取り巻きの二人が由奈子の横に体を出して声を上げる。


呪いのこともあって赤華の事は分かり切っていたけど、私に対しては少し予想の斜め上の反応だ。こういう時って大体「あなた最近調子に乗っているんじゃないの?」とか、そういう感じの事を言われるかと思っていたのだけど…。まあそんなことよりも。


「まあいいから、一緒に行きましょうよ綾嶄寺さん」

そうこちらへ伸ばす手を梓麻が拒絶するように叩き払う。

「え…」

梓麻のその反応を微塵にも思いがけていなかった様で困惑の表情を浮かべる。

「あなた達が私の何を知っているというの?」

強く眼を付けて言うと、その圧に三人は怯んで半歩後退る。

「え?じゃないわよ。私が好きで赤華と一緒にいるだけだと言うのに、変な難癖をつけるのは辞めてもらえないかしら。不愉快よ」

そう突き放す言葉に何も言えないようでたじろいでいると、それを見ていた一人が由奈子の肩に手を置く。

(けい)先輩…」

先輩ってことは年上の人か…。なら、この様子を見れば彼女らを諭してくれるだろう。というかこの人...何処かで...。


「まあまあ、綾嶄寺さん分かってる。分かってるから」

「そう。それじゃあもう用は無いわね」

「弱みを握られちゃあ、そうやって私達を突き放すようにしなきゃだもんね」

「はぁ?」

「赤華さんさぁそういうの良くないよ。幾ら友達が居ないからってそうやって転校生を脅して丸め込むなんてさぁ」

その言葉に二人は思考が停止しそうになり、呆れて何も言えないでいた。

これは話が通じないヤバい奴という可能性もあると思うが、様子を見るにそもそもこちらからは有無を言わせずに事を成そうと言うのが見える。こうなっては、ずっと平行線を辿るだけだ。

どうしようかと考えていると先輩の足を見て思い付く。

「先輩何か運動を?」

ベラベラと自論を述べている言葉を遮り尋ねると、彼女は自信ありげに腕組みをする。

「ああ、陸上部だよ」

「そう。では、勝負をしましょう」

「勝負?」

「これから私達は持久走を測るの、多分先輩もそうなんでしょう?」

「ええ。まだだけど」

「なら先輩含めてのあなた達四人が私達二人のどちらか片方に勝てたら貴方達の言う通りにするし、なんなら私のできる範囲であなた達のお願いを聞いてあげるわ」

それを聞くと四人は明らかに嬉しそうな反応を示し、互いに見合せてこそこそと話始めてまとまったようでこちらを見る。

「いいけど、赤華さんもそれでいいのよね」

そんな勝手にと思いながら梓麻を見て溜息を零しながら、まあ合わせようと頷く。

「…うん、それでいいよ」

「言ったね。後から無しとかないから」

そう言って走る準備をするべくスタート位置へと向かう彼女を三人が一度こちらを見て直ぐについて行く。


「悪いわね。付き合わせちゃって」

「全然いいよ。むしろ私のせいで付き合わせちゃってるんだろうし。でも、どうするの?彼女、走りにはかなりの自信があるように見えたけど」

「問題ないわよ。そもそも今の私の勝負の相手は鳶鷹だけよ。それ以外は眼中にもないわ」

かなり自信があるみたいだし、本当に大丈夫そうだ。

「それで一つ、赤華にお願いがあるのだけど」

「まぁ、無理のない範囲ならいいよ。やってあげる」

「簡単よ。ただ、二番よりも三歩前をキープするだけよ」

つまり、とりあえず一位になってという事か。普通に常識的に考えれば難しい事なのに、簡単って…。

「了解。あなたのためにも自分の為にも一位は取らせてもらうわ」

「ええ。そうしてね」

そう、少し悪い顔をする彼女と共に準備が整ったスタート位置へと向かう。

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