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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
夢想還魂
11/38

赤色追録 2

少し長い春休みを終えて新学期が始まれば、当然のように訪れる学生の一つ目の苦難であり憂鬱。いや、人によってはそうとも思わない人もいるのだろうか。

そんな学力テストは午前中に終えた。

軽い教室の掃除とホームルームを終えれば放課後となる。昨日同様、放課後が始まると同時に赤華は先生に呼ばれて教室を出ていき、クラスメイト同士の軽い談笑が行われ始める。

「あの綾嶄寺さん」

昨日のように今朝、挨拶をした三人が話しかけてきたのだが。

「ごめんなさい。知人との約束があるので」

「ああ…そうなんだ」

「それでは」

軽くお辞儀をして、教室を出る間際にチラりと二人に目配せをして出ていった。

それに気が付き、時計を見て二分三分くらいそのまま会話を続け、

「あ、悪い。ワイらこれから用事あるんや」

「そうなんか。じゃあまた明日な」

「おう、また明日な」

「ま、また明日」

そう挨拶を交わし、二人も教室を後にした。


—————————————————————————


学校を出て、二人は会話をしながら少し遠回りをして、昨日話していた歩地の手伝いをするべく事務所へと向かい、インターホンが無い為ノックした。

すると階段を降りてくる音が扉の奥から聞こえ、鍵がの音を鳴らしその扉が開かれる。

そこに現れ出迎えたのは歩地や先に来ているであろう梓麻でも無く、見知らぬ小さな男の子が扉の隙間から覗くようにこちらを見てた。

年齢は五、六歳程度だろうか。服装は無地の白くぶかぶかのTシャツに短パンを穿いている。

黒い短髪で、目元には少しくまができており、その面影は少々、若かったであろう歩地を思わせる雰囲気を漂わせていた。

「ん!?若返りの魔術か!」

「いや、違うでしょ」

その二人のやり取り男の子はただ静かに面倒くさそうに眺めていた。

「ワイらは歩地はんの手伝いに来たんやけど」

その言葉に暫く無言でじろじろと観察するように見られ、何も言わずに頭を動かした後、扉の取ってから手を放し、扉が閉じられると階段を昇って行く音が聞こえた。

「えっと…入れってことなのかな」

扉の取っ手に手をかけて少し開く。

「まぁ、鍵を閉めてないってことはそう言う事なんやろうな」

二人は顔を見合わせて、良識ある唯一が頷く。

「お邪魔しま~す」

「お、お邪魔します」


扉の中に入ってすぐにあったのは物音通り、急な階段だった。

手すりがあるものの、その急勾配きゅうこうばいはかなり酷く若い二人でも少ししんどく思えるものだった。

階段を上り切り、一畳半くらいの小さな踊り場に着くと、また一つ中の様子を覗かせない窓のない扉がありそれを開くとそこは薄暗い一室だった。

「うわ…」

そう入って早々に声が漏れてしまった。

というのもかなりその場所は散らかっていたからだ。

床にはまるで巨大な紙の山を崩したように大量の文字が書かれた紙が散らばっていた。

その隙間からは洋風のそれはそれは高そうな、どこか見覚えがあるような無いようなと思わせる絨毯が床に敷かれており、アンティークの机や椅子が並び、部屋を囲うようにびっしりと紙の資料とファイルが敷き詰められた書類棚が並んでいる。

部屋の明かりはというと、天井に吊された薄橙色に灯る明かりと、窓から射しこんでくる日の光だけ。

そして、その日の光が指している方にまた一つデスクがあり、そこに歩地がおりパソコンで作業をしているようで、今尚その机の上にあるコピー機から紙が吐き出され、床に落ちていた。


「やぁ、いらっしゃい二人共。来て早々悪いが床に落ちている紙を拾ってまとめてくれるかい。順番は左下や右下に英字と数字が書いてあるから。取り敢えず適当に集めてそこの机でまとめ直しといてくれ」

「お、おう。分かったわ」

「は、はい」

言われた通り散らばったその紙を踏まないように、足元にある紙から回収していく。

右下や左下の端には言っていた通り英字と数字が確かに書かれているのだが、予想していた1Rとか57Mくらいだと思ったのだが。見たそれはLA48LO2 1996 AP06 2H AEB4768と長く複雑なものだった。

その紙とは見るに恐らく普樂の資料。

つまりは情報屋としての武器、商品となる情報そのものなのだろう。見るべきではないのだろうが、正直気になってチラリと盗み見てしまう。


な、なんやこれ。


「別に見ても構わないよ。到底それを君たちには解読は不可能だろうからね」

そこに見えたのは歩地が言った通り意味不明なものだった。

「僕達普樂の情報はまぁ…それなりに重要なものだからね。もしもの時に他人に見られていいようにしっかりと独自の暗号を元に資料をまとめているのさ。一応これでも世界最高峰と呼ばれているからね。その暗号も複雑で文字列には世界全ての言語に独自の数百というオリジナル言語。つまりは約七千という言語を混ぜてね。だからその暗号を解読するのに常人であれば数百年、数千年という年月があったとしても難しいだろう。そして例え一人の普樂の暗号を解読できたとしても僕達一人一人で独自の違った文字列の暗号を用いているからね。本当にそれが解読できているのか分からない。だからどうあがいても全てを知るという事はできないだろうね」

そう作業をしながら呟くその壮大な話しを、複雑な文字の順番に悩まされながら少しずつまとめていた。

まとめていくのだが、十枚の束をまとめるよりもコピー機から吐き出される紙の方が多い為、「これは終わるのだろうか」と二人は少し焦り始めていた。

その様子を一目見て「よしろ」と声を掛けると。先ほど二人を出迎えた少年が資料棚の隙間にあるとなりの部屋から現れ顔を出した。呼び出しただけでその後は何も言われずに少年は見渡して理解し、床に落ちている紙を拾いながら二人の対面のソファーに座りまとめる作業に参加した。

その手捌きは尋常ではない。途轍もなく早いものだった。

先程まで一向にに終わりそうになかったのに見る見るうちに床にある紙が無くなり机の上には幾つもの資料の山ができており、束の山の中でも区分けがされている様で、文字の書かれた色付箋が挟まれていた。

そしてそれ以上手助けはいらないだろうと自主的に判断してか、再び隣の部屋へと戻ろうとする。

「おおきにな。よしろくん」

「あ、ありがとう」

その二人の感謝の言葉に立ち止まり、扉の先を見たまま静かに軽く頷き部屋の奥へ消えて行った。

「人見知りってやつか?」

「た、たぶん」

そう、閉じた扉を眺めて再び作業を続けようとすると、扉が開く音がした。

それは事務所の入り口であり、二人より先に学校を出たはずの梓麻がそこに立っていた。学校にいるときから二人は感じていたが、何か機嫌が悪い。

「やぁ、いらっしゃい。よほど気に入ったようだね」

「…うるさいわね」

何をしていたのか見透かされているようで、プライベートも無いのかとキレ気味に睨みつける。

「すまないすまない。君も二人と一緒に手伝い頼むよ」

そのふざけた謝罪をされるも相手にするほど無駄だと無視して周囲を一先ず見渡し、何をしているのか理解する。

「…分かったわ」

不服そうに返事を返して今なお床に散らばり続ける紙を集めながら二人の対面の席に座りまとめる作業を始める。

最初は二人と同じようにその長い文字列に戸惑っていたが、五枚ほどまとめ終わると先の少年ほどでは無いが、かなり手際が良くなっていた。

「そう言えば彼女、赤華は今どこで何をしているの?」

「彼女は今、千和々と共に昨日の呪いの残滓の処理や色々しているよ」

「そう」

聞いた割にはその答えにあまり興味なかったような返事をする。

「それで、赤夜については話してくれるんでしょうね。それと——」

作業に慣れて喋る余裕が出来たようで、そう歩地に(たず)ねる。

「ああ分かっているよ。それはこの作業が終わってからでもいいかい?」

「ちゃんと何も包み隠さず話してくれると約束するのであれば」

「ああ、約束するよ」

「分かったわ」

そう返事を返すと更に手際が良くなり作業の手が早くなり、皆黙々と作業を続けた。


—————————————————————————


まとめられた資料を順番通りに軽く綺麗にまとめ並べ作業を終えて三人は鈍り、凝った体を伸ばす。

「終わったぁ〜」

「三人のおかげで作業を早めに終わることが出来た。いい時間だしこれからお昼にしようか。お腹も空いただろうし」

時計を見ると十三時二十分になっていた。

学校を終えたのは昼前の十一時からだから約二時間作業していたのだろうか。

ただ、座っての紙をまとめる作業だが、それでも手を動かしたりすればお腹は空くので、それを聞いて二人は嬉しそうにするのだが、ただ一人ムスッとしていた。

「心配しなくていいよ。食事の事で話をはぐらかしたりしないさ。ただ赤夜と赤上の話をするには僕よりも詳しい人物がいるからね。一先ず食事を済ませて、その後その人の元へ行こうってだけさ」

そう説明され何とか納得し頷く。

「分かったわ」

「それじゃあ食べに行こうか」

「え、えっとよしろくんは…」

支度をして入口へと向かうのを見て、先の男の子が篭っている部屋の方を見て聞く。

「よしろって誰れよ」

「僕の後継者候補さ。まぁ声をかけてみなよ。多分何も言わずに出てこないだろうから」

そう言われて、唯一が扉をノックする。

「よ、よしろくんご飯食べに行くけど一緒に行かない?」

だが、部屋の奥からはまるで誰もその部屋には居ないのではないかと思わせるほど物音など聞こえず無反応だった。

「行かないようだから僕達だけで行こうか」

「ほんとにええんか?」

「構わないよ。それに食料や軽食はちゃんと完備してるからね。適当に食べるだろうさ」

「それならええんか?」

「どうするにしても彼個人の事だ。他人である僕たちが口出しするような事では無いよ」

「は、はい…」

最もなことを言われ、それでも少し心配そうにその扉の方を少し眺めて、唯一は降りていく三人について行く。


「さて何食べたい?君たちの住んでいた都会には数は劣るが和洋中、ファミレスやファストフードと色々とあるよ」

ビルの傍に止められているステップワゴンに乗り込み三人に尋ねる。

「私は和食」

「ワイはジャンクフードかラーメンとかの中華の気分やなぁ」

「ぼ、僕は洋食が…オムライスとか食べたいかなぁ」

「ラーメンにオムライスそれに和食か…見事にバラバラだな…まぁ最初から行くお店は決まってたけどね」

「なら、なんで聞いたのよ」

「とりあえず聞くことは大切だろうと思ってさ」

歩地が適当にあしらいながらポケットからポケベルを取り出し誰かとやり取りをする。

「ふむ…丁度いいみたいだから、このまま先の約束の人の所へ向かおうか」

「昼飯は?」

「そこで済ませるつもりだよ。元々行こうと思ってた店主がそっちに行っていたみたいだからね。食材やら調理器具もそこにあるから問題ないみたいだ」

「…あまりにも都合よすぎない?」

「たまたまだよ」

そう目的地は決まりワゴンを発進させる。


—————————————————————————


車で数分ほど街道を走らせ、脇道を通り道沿いにある小さな空き地の駐車場に車を駐めた。

そこは居住区でマンションや住宅が建ち並んでいて、車がギリギリ二台通れる狭い小道を歩いていく。

「ここだよ」

そう告げ着いたのは、とある施設だった。

中からは子供、幼児達が施設にあるグラウンドとまでは言え無い広場で鬼ごっこや追いかけっこと遊んでいる様子が施設を囲う柵の隙間から聞き見える。

幼稚園や保育園にしては身長が高く、小学生や中学生と思われる子供も見える。

そんな年齢の離れた子供が一緒にいる施設。

「ここって孤児院か?」

「ああ。僕が援してる施設だよ」

「普樂がわざわざ孤児院を支援?」

「普樂がでは無く僕個人がだよ」

そう言いながら歩地が正門を通り過ぎ裏にある小さな扉の鍵を開けて施設の裏口から入っていく。

施設の中は幼稚園などと言った至って普通の内装で学校などと広くは無いものの狭くもないと言えるものだった。

皆外に出ているからか施設の中はそれなりに静かで明かりも消されているのもあり、薄暗い。

「やぁ、いらっしゃい歩地。久しぶりだね」

——————!?

突如声が左の方から聞こえ見ると割烹着を身に纏う小さな女性が椅子に座ってこちらを見ていた。

…いつから…いや、最初から居た?座っていたのに気が付かなかった?


「お久しぶりです。卯恋(うれん)さん」

「珍しく人を連れているじゃないか。跡子かい?」

「いや、違うよ。しばらく預かってるだけだよ。そちらこそ手伝いの二人はどうしたんだい?もしかしてとうとう逃げられたのかい?」

「分かってるくせに。後のことを任せてるだけだよ」

「悪いね。時間からして掃除とかしてた後だったんだろう?」

「いんや。気にしてないよ。作るのは好きだからね。それよりも聞いてくれ」

「なんだい?」

「最近新作ができたんだが…どうだい?」

「いや、今日は遠慮しておくよ」

「そう遠慮しなくていいんだぞ」

「…多分そのうちこの子達がそちらに向かうだろうから、その時にご馳走してあげてくれ」

「ふむ、そうしよう。君たち私のお店に来た時楽しみにしてくれ」

そう何か嬉しげに勝手に話が進みながら廊下を歩き行き、一つの部屋の中へと入っていく。

その部屋は一つの横長い木造机に二つの黒いソファが挟み周りには資料棚が並ぶのを見て応接室だろうというのが分かる。

適当に席に着くと、それと同時に入ってきたドアが開かれいい匂いが漂ってくる。

そこに居たのは同じく割烹着を身に纏う双子らしき青年の男の人が二人料理の盛り付けられたお盆を持って現れた。

「おまたせしました。半熟オムライスに、五目そば、コロッケ定食です」

座る三人の前にそれぞれがが食べたがっていた料理が並ぶ。

「コロッケ…」

と出されたそれを見て少し疑問気味に梓麻が呟く。

「な、何か気に触りました?」

「嫌いなものが入ってました?」

そう二人が少々慌てて尋ねる。

「いや、何でもない。大丈夫」

と言いながらも一瞬強い目で歩地を睨みつけるのだが、そんな事お構い無しに歩地は二人の方を見ると。

「ありがとうね二人とも」

「いえいえ」

「仕事ですので」

「お疲れ様二人とも」

「はい。それじゃあ僕達はあと片付け済ませてきますね」

「ああ。片付け終わったら先に出て弁当とか届けてやってくれるか。どうやら私はまだ残っていた方が良さそうだからね」

「分かりました。それでは」

そう言って二人は部屋の外へと出ていった。

「ぽ、歩地さんは食べないんですか?」

「ああ。僕は気にしなくていいよ。僕は朝と夜の一日二食と決めているからね」

「へ〜腹減らんのんか?」

「大人になるとね、より多く食べるようになる人もいれば少食になる人もいるんだよ。まぁ、そんな事は気にせず食べ盛りのきみ達はしっかりと食べなよ」

「おう、それじゃあいただきます」

「い、いただきます」

「…いただきます」

そう三人は礼儀正しく、食事を始める。

「それで卯恋さん。最近のここに来てないから予定がどうなってるか分からないんだが分からないんだが。変わらず十四時頃からやってるのか?」

「うん。変わってないよ」

「そうか。なら半頃に向かうとしよう」

「その時間に何かあるんか?」

「ああ。さっき言っていた僕よりもこの街に詳しい人に会いに行くんだよ」

「それってどんな人なんや」

「そうだな…。簡単に説明するなら…現役時代なら、かなり強いという言葉が似合うくらいには強い人だよ」

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