physician
☆アキヨシ☆
「どうだったか、そのガイロイド具合は?」
仕事終わりに父さんが聞いてきた。
「これはちょっと絞まりが悪いから、筋組織増量に設定しようと思う」
うちは父息子でロイドのメンテナンス業をやっている。
「そうか。筋組織調整は俺がやっとくから、今休め。それでその後でいいから、一通りちゃんと試験運転しとけよ。今夜はウミオいないから」
白髪の目立ち始めた父さんは何か腰の調子がよくないとかで、事務系や筋組織調整はやるが、他はほとんど兄さんと俺が担当だ。
うちは【林メンテナンスサービス】という個人経営の店だ。
社長の父さんの林ガイと、ウミオ兄さんと、俺、林アキヨシの三人でやっている。
兄さんはひとりで出張メンテナンスに行ったりして、もう父さんの片腕だけど、俺はまだ見習医工だ。
兄さんは今も大口の役所のロイドの定期検査に行っている。
うちでも、この別の大口の、観光船に登載されてるガイロイドの調整が持ち込まれてて忙しい。
忙しいわりには、うちは、ちょっと裕福じゃない。
今の世の中は【ゴリ・ラリアン】ていう階級の人達が治めている。
ゴリが丘って意味でラリが金単位でアンが年上とか尊敬とかしなきゃならん男だっていうんだって。
つまり【ゴリ・ラリアン】は今は【丘の様な金を持ってる高貴な男子】だか【丘の上の王子様】て意味らしい。
俺たちはゴリ・ラリアンから家庭用や役所用のロイドの検査を請け負い、不具合が有れば直すか、買い替えを勧めるかするのが商売だ。
不要のロイドを格安で払い下げてもらい、調整して販売もするけど、滅多にない。
この世界はイビツだと思う。
ゴリ・ラリアンは強い人類として産みだされたと学校で教えられた。
昔の人類は、衛星よりも、隣惑星よりも、遠く宇宙を移動でき、衛星にも隣惑星にも入植して勢力範囲を広げていたんだそうだ。
小惑星も資源採取の場所としたり、犯罪者の流刑地としたり、楽しみのための別荘地としたり。
しかし、ある時を境に人類はすぐそばの衛星にも行かなくなってしまった。
原因はパンデミック。
学校では、ある種の無害なウィルスが、宇宙空間で放射線によるものか、他の要因からか、遺伝子変化を起こし、有害ウィルスに変わったのだと教わった。
このウィルスは人類のある遺伝子のある染色体に結合し死をもたらした。
各地の小惑星、衛星と隣惑星の入植地はそのパンデミックから逃れられなかった。
地球もパンデミックに巻き込まれた。
しかし、一部の勇気ある人々が、生物科学の英知に身をささげての、染色体改造を行ったので絶滅がさけられたんだというんだ。
人類の希望、殺人ウィルスに結合されない染色体に改造する、という抗う術を身につけたのだという。
それがゴリ・ラリアンだという。
ゴリ・ラリアンはウィルス除去剤を手に、各地を回ったという。
ウィルスの広がるところは砂漠から氷の大地、海中、地底とウィルス除去剤を広めた。
多くの人々がゴリ・ラリアンに成り、ウィルス除去に加わり殺人ウィルスの絶滅という希望を手にした。
その結果、生き残った人類の90パーセント以上がゴリラリアンになったというんだ。
ゴリ・ラリアンが増えたのではなく、それだけ、割合が変わるほど人類が、死んでしまったんだろうと、父さんは言っていた。
人類は殺人ウィルスに冒されないという希望を手に入れた。
しかし、希望を手にした人類は絶望をも手にしてしまった。
染色体改造は改悪だったのだ。
殺人ウィルスは人類のX染色体に結合し死をもたらしたもの。
すなわち、X染色体をウィルスが結合できないように改造した人類がゴリ・ラリアンだったのだ。
ゴリ・ラリアンのX染色体には改造により異常が生まれていた。
ゴリ・ラリアンと成ったX染色体しかもたない女性はじょじょに死んでいった。
さらに、女性科学者と生き残ったゴリ・ラリアンの男性の間の、その改変したX染色体を受け継いだわずかしかいない女の子達もだんだんと死んでいった。
科学者達はゴリ・ラリアン達のX染色体の再度の改造を決めた。
しかし、それは達成できなかった。
ゴリ・ラリアンの改造された遺伝子を持つ細胞は急速に元のからある細胞と置き換わり、安定するとゆっくり置き換わるという性質をもっていた。
そうゴリ・ラリアンは数百年生きる大変な長寿となったのだ。
そして、異質な染色体を、遺伝子を、細胞を攻撃し排除する性質をも有った。
その結果、異常増殖細胞、つまり癌の驚異もゴリ・ラリアンからは去った。
しかし、だからこそ、あらためて改造した細胞を治療のためにゴリ・ラリアンに移植しても、即時に攻撃排除されてしまったのだ。
さらに、ゴリ・ラリアンは子を成すのが難しかった。
男性ゴリ・ラリアンが、女性科学者との間に子どもを作っても、その受精卵の細胞が自己攻撃をしてしまうケースが多々有ったのだ。
ゴリ・ラリアンは、まれにしか子どもが出来ない。
出来たゴリ・ラリアンの子どものうち、女の子どもはしばらくするとすべて例外なく死んでしまう。
ゴリ・ラリアンはそれを科学者達の仕掛けたゴリ・ラリアン排除の手段だと受け取り、科学者を狩った。
男性科学者はゴリ・ラリアンのために、ロイド達とともに働く者とされた。
女性科学者は人類存続のための卵子製造器具として扱われた。
女性科学者と男性科学者の間に女の子どもを作らせるという考えにゴリ・ラリアンが向かわなかったのは、その子ども達が科学者の子ども同士で子孫を作るとゴリ・ラリアンの存在価値がなくなるからと考えたのかもしれないと父さんに聞いた。
俺たちはその男性科学者の末裔なのだとも父さんはいう。
俺たちはゴリ・ラリアンの五分の一くらいしか時間がない。
だから、俺たちは12になったら働かなくてはならない。
俺は13になる。
もうすぐ、見習医工2年目を迎える。




