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幼女のお悩み相談室


 日曜日のあれから、柊木ちゃんは何もなかったかのように、俺に接してきた。


 本当に、あれは何だったんだろうな……。


「兄さん? 話を聞いて」


 肘でつんつんと突かれて、俺は我に返った。

 朝の通学路で、歩いている生徒たちがこっちを見ていた。


「おまえがでかい声出すから、みんなこっち見てるじゃねえか」

「兄さんが、サナの話を無視してるからでしょ」

「ああ、学祭の出し物な?」

「聞いてるなら反応しなさいよ」


 うちのクラスは、学祭に懸ける想いというやつはそれほどなく、簡単な喫茶店をやることに落ち着いていた。


 段ボールであれこれ作る手間もないし、非常にお手軽。

 やってきた客に注文を聞いて、あとは出すだけ。

 シンプルイズベストなお店になりそうだ。


 軽食のメニューは、ホットケーキのみ。

 それを作る人は、まあシフト交代制で回すらしいし、自分のクラスよりも学祭全体を楽しみたいっていうやつがクラスメイトの大半を占めていた。


「喫茶店~? つまんないの」

「いいんだよ。二年は、はじめてでもないし、最後でもないから、力の抜き具合が上手いんだよ」


 ……柊木ちゃんの昨日の様子も気になるし、未来の状態も気になる。

 このまま行くと、俺は柊木ちゃんじゃなくて夏海ちゃんとくっついてしまう。


 HRG社での立ち回りか、それとも今この高二で何かする必要があるのか……。


「うううんんん……」

「昨日から唸りっぱなしね。あ、昨日のお昼、ちびっ子が来てたわよ?」

「ちびっ子? ああ、怜ちゃんか」


 あれ……?

 そういや、怜ちゃんは俺が童貞って言ってたな。

 間違ってはないんだけど。


 ……?


「サナのクラス、お化け屋敷をすることになったの」

「へえ。あ、そう」


 思ったけど、兄妹並んで登校って、恥ずかしいことなのでは?


「サナ、嫌だったんだけどお化け役……やることになったの」

「へえ。あ、そう」

「女の人の幽霊役、やるの」

「へえ。あ、そう」


 そういうの、何が何でも拒否しそうなのに。


「サナは、嫌だっていったのに、推薦多数により、可決……」

「数の暴力か……」


 何だかんだ、こいつもクラスに馴染んでるんじゃないか。

 推薦されるってことは、それなりにみんなに慕われているってことだし。


「体育祭のときも応援されてたもんな」

「あ、あれは、ちょっとしたイジりっていうか……みんな、サナのことイジって面白がってるのよ」


 本格的なボッチや陰キャラは、あんなふうに『サナたん、可愛いー!』とか『サナたん、足細ーい!』とか、そんなイジられ方しないし。


「……よかったな?」

「穏やかな生ぬるい目でこっち見ないで」


 そういや、前回高二のときは、紗菜が幽霊役なんてやることもなかったっけ。


「頑張れよ。時間あったら、見に行ってやらんこともないぞ」

「兄さんのくせに、偉そう」


 出番がない間は、家庭科部のカレー屋を手伝うんだろうけど、紗菜は忙しい学祭になりそうだ。


 紗菜と昇降口で別れると、ざわざわ、と後ろがざわついた。


「子供?」

「可愛い~」

「小学生だ」

「誰かの妹?」


 もしやと思って振り返ると、黄色い安全帽に赤いランドセルを背負った怜ちゃんがいた。


「せんぱ~い!」


 みんなの視線が俺へとむけられるのがわかった。


 ランドセルを揺らしながら、こっちへと走ってくる。


「ボク、ボク、先輩のお弁当作ってきました!」

「あ、ああ……ありがとう……」


 ハンカチで包まれた弁当をずいっと押しつけてくる怜ちゃん。


「先輩の好きな、ハンバーグも入ってるから!」


 一〇歳の小四だけど、中身はハタチなんだよなぁ。

 グイグイくるなぁ……。


 それで、この前戻った現代で怜ちゃんは、俺の愛人志望だった。


 ここだと周りの目が気になる。


「怜ちゃん、ちょっとこっちに」

「?」


 手招きして、俺は人けのない校舎裏までやってくる。

 確認したいことがあった。


 石段に座って、何をどう言えばいいか考える。


「どうしたんです、先輩?」


 きょとん、と首をかしげる怜ちゃん。

 幼女パワー恐るべし……。

 仕草ひとつひとつが妙に可愛く見える……!


「この前、俺は一旦現代に帰って、またこっちに戻ってきたんだ」

「へっ? そんなことができるの?」

「できるってわけじゃないけど、たまにそういうことが起きるんだ。それで、その未来では、俺は職場ではリーダーで、ご令嬢の夏海お嬢様と付き合ってた」

「そうだね」


 これは、怜ちゃんの知っている現代と一緒、か。


「でも俺は真田じゃなくて、柊木誠治になっていたんだ」

「名字が変わってる……。ということは、正式に婿入りが決まったの?」

「そういうことなのかな」


 てことは、怜ちゃんは、俺が今柊木ちゃん……姉のご令嬢と付き合ってるってことは知らないのか。


「怜ちゃん、俺のことを童貞って言ってたでしょ?」

「違うんです?」

「違わなくないんだけど、未来では、すでに経験しているパターンもあるんだ」

「うううん?? でも、職場の人たちにそれをイジられてましたよ?」


 イジられてるの? 童貞を?

 悲しすぎる……。


「先輩、元気出してくださいっ!」

「あ、うん。ありがとう」


 柊木ちゃんと上手くいくと、俺はどこかのタイミングでご経験なさる。でも、会社ではこれといった出世はしない。


 柊木ちゃんと上手くいかなくなると、未経験のまま、俺は夏海ちゃんと付き合って柊木の人間になる。会社ではほんのちょっと出世する。


 直近の未来では後者のルート。

 柊木ちゃんとは、高三になるまでに別れるらしい。


 今は一〇月半ば。学校は学祭にむけて準備をしているところ。


「あと半年もないのか」


 どの未来にも共通するのは、会社の業績がヤバみ深いってところだ。


「先輩、ボクにできることがあったら、何でも言ってくださいね?」


 幼女の背後から後光が差しているように見えた。


「恋愛相談からエッチな相談まで、何でも受付中だから!」

「恋愛相談……」


 そっか。

 怜ちゃん、これでもハタチの今どき女子だ。

 この手のことは、得意だろう。


 柊木ちゃんの不可解な行動を、妹の夏海ちゃんに相談するのも気が引ける。

 それこそ、夏海ちゃんも引くかもしれないし。


「あのお、実はですね……」


 遅刻するけど、そんなのお構いなしで、俺は昨日起きたありのままを話した。


「えっ……」

「ビックリするでしょ?」

「先輩、先生と付き合ってるんですっっ!?」

「そこかよ」


 まあ、言ってないなら驚くか。


「先生は、エッチな人…………!?」

「そういう人じゃないのに……俺が寝てるからか、大胆なことをしてて……」

「そういう性癖?」

「そうじゃないと思いたい」


 本当は夢でした、ってほうがまだ納得できる。


「それは、先輩、猛烈なアピールですよ」

「アピール?」

「エッチなことがしたいにゃーん♪っていう。ボクの経験上、間違いなくそうっ」

「…………っ?」


 柊木ちゃんは、エッチなことが、したい……?


「先輩の、真顔。面白い……プフフ」

「でも、ダメって言ったのはむこうなのに」


 あの日はそういう気分だったってだけなのか?


「ボクはよくわかんないですけどね」


 興味がないわけじゃない、っていうのは、本人も認めていたし。


 ……柊木ちゃんは、エッチなことが、したい――。


 って気分のときもあるらしい。

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