お嬢様のお勉強会 後
じゃあ、今日は頑張ってねー。と夏海は言って、午前中のうちにあたしの家から去っていった。
今日はバイトの日らしくて、そのまま出勤するんだとか。
「……」
昨日の夜のことは、今思うとかなり恥ずかしい……。
お酒が入ったときの勢いとはいえ、なんであんなことしてたんだろう。
あとそれと、どうして経験ゼロの夏海にあれこれアドバイスされないといけないの。
昨晩散らかしたリビングを片付けていると、誠治君がやってきた。
「こんにちはー?」
「いらっしゃーい。上がって上がって」
うぃーす、と適当な返事をして、誠治君はいつものようにソファに座った。
誠治君を見るだけで、お風呂での夏海との会話が思い出される。
『いいおっぱいしてるんだから、それでちょーっとソノ気にさせたら一発だよ、たぶん』
いいおっぱいって……夏海はおじさんみたいなことを言った。
チラ、と誠治君を見ると、くわぁぁ、と大きなあくびをしている。
「どうしたの? 眠い?」
「あ、うん。ちょっと夜遅くまで、紗菜のゲームに付き合わされて……」
「仲いいね、相変わらず」
「そう? 春香さんとこも、夏海ちゃんと仲いいでしょ?」
「まあ、そうかな?」
仲がいいというか、ほとんど友達感覚だ。
でも、友達感覚過ぎてあれこれ明け透けに言い過ぎだけど、夏海は。
『春ちゃんのエロ乳で、空き巣くんをソノ気にさせちゃおう作戦!』
まんまだった。
そもそもお互い経験ゼロなんだから、建設的な意見なんてほとんど出なかったんだけど。
だから、ちょっとだけ今日は胸元が強調される服を着ているのです!
けど誠治君はとくに気づいた様子もなく、眠そうな目でテレビをぼんやりと見ていた。
二人分のコーヒーを淹れて、テーブルに置くと、隣に座って腕を組む。
「……」
そっと腕に胸を当ててみる。
……………………。
……リアクションがない……。
誠治君がこの前ガン見してたちょっとエッチなブラつけてる日なのに。
「コーヒー、あたしが飲ませてあげようか?」
「うん……?」
さっきより増して声が眠そう。
「口移しで」
「ふうん……」
あ、これダメだ。
眠すぎて、どうでもいいってなってるやつだ。
いつもなら、
『なんで口移しなんだよ! 自分で飲めるわ!』
とか、半ギレでツッコミを入れてくるのに。
「春香さんがふーふーしてあげる」
「うん……」
誠治君のマグカップを持って、ふーふーと息を吹きかける。
目をショボショボさせている誠治君。
目蓋が超重そう。
でも、なんだかちょっと可愛い……。
三秒くらい目をつむって、思い出したように目を開けている。
「ゲームし過ぎはダメだよ?」
「うん……」
「あたしのこと、好き?」
「うん………………」
「世界で一番愛してる?」
「…………う…………ん……」
「誠治君は、お姉さんタイプと妹タイプなら、どっちが好き?」
「…………うん……」
むうう……。
意識が朦朧としている状態みたい。
せっかくあれこれ作戦立てたのに。
ていっても、実際それを実行する勇気があるかは別なんだけど。
「……? あれ、ついに寝ちゃった?」
つんつん、とほっぺを触ってみる。
まるで反応がない。
「あ、そうだ。誠治君が寝てる今なら誘惑しても恥ずかしくないかも」
起きているとさすがにちょっと恥ずかしいから、今のうちに練習しておこう。
「ちょっとはだけさせて……」
脇を締めてむにゅっと谷間を見せる。
そして、上目遣いで名前を呼びます。
「誠治君……?」
当然のごとく、誠治君は寝ているので反応はない。
「うんうん。これ、いい練習になる」
次は、シャツを半脱ぎ状態にして、肩を見せながら顎を引きます。
「それで、手を口元に持っていって……儚げな目をして……」
昨日、打合せした通りにやってみる。
『これはちょっとアザとすぎない?』
『それくらいがいいんだよ。とくに空き巣くんは、春ちゃんが敷いた強固な防衛ラインがあるから、やり過ぎくらいがちょうどいいんだよ』
とか言ってたけど、もう、解禁でーす! ってぱっと言っちゃうほうがいいような気がしてきた。
「けど、それはそれで、あたしが……その……エッチなこと、したがってるみたいで……恥ずかしい……」
そう思われるのもなんかヤだ。
間違ってなくはないような……そんな気もしなくもないけど。
結局参考にしたのは、写真グラビアのポーズだった。
夏海が持ってきたエッチな本はエッチ過ぎて、途中で直視できなくなった。
二人とも。
「起きてないよね、誠治君?」
訊いても意味ないと思いつつ、念のため確認しておく。
「反応なし。よしよし。じゃあ今度は……」
誠治君のむかいに座って、ゆっくりとシャツを脱ぎ、ぱさり、と落とす。
下に着ていたキャミソールも同じようにして脱いでいった。
上は下着だけになった。
むふふ。あたしこんな格好してるのに、誠治君起きてない。
……寝ている彼氏の前で、ゆっくり服を脱いでムフフって笑う女……。
「…………あたしって、もしかして変態なのでは??」
ぶんぶん、と首を振る。
我に返ったらたぶん負ける。
何に負けるかは知らないけど。
どうせ誰も見てないんだからおっけー、おっけー♪
『その次は、四つん這いになって、女豹のポーズ!』
『なんで豹?』
『しなやかな感じがするからだよ!』
しなやかな感じというのが、どれほどの効力があるのか謎だけど、とりあえず打合せした通りにやっていく。
『春ちゃん、その次は鳴くんだよ。女豹』
『ニャー!』
『女豹はニャーなんて鳴かないよ!』
『えー? だって、猫科の動物でしょ??』
『肉食獣はそんな可愛い鳴き方しないよ。ガオーだよガオー』
ううん。やっぱりガオーは納得いかない。
「にゃーん」
彼氏の前で、ほぼ半裸で、にゃーんって鳴いているあたしって……。
ぶんぶんぶん、とまた首を振る。
我に返ったら負け、我に返ったら負け、我に返ったら負け。
よちよち、と四つん這いで近寄っていく。
次が最後。
頑張れ、あたし。
ソファの背にもたれて完全に寝ている誠治君に、向かい合うようにして誠治君をまたぐ。
『空き巣くんも、ママッーーーー! って言って春ちゃんのおっぱいに顔を埋めて頬ずりするかも』
『誠治君はそんな気持ち悪いこと言わないからっ』
落ち着きのある紳士なんだから、誠治君は。
夏海はなんにもわかってないんだから。
「よ、よし……!」
手を背中に回し、ブラのホックをプツっと外す。
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自主規制
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「――も、もう無理。もう無理。服着よう」
ぱっと誠治君の上からどいて、あたしは脱いだものを順番に着ていった。
予定したミッションはコンプリートしたわけだし。
時計は、もう一二時前。
「お昼ご飯の準備しよう」
何を作ろうか、冷蔵庫の材料を思い浮かべながらキッチンへとむかった。
◆真田誠治◆
…………な、なんだったんだ。あれ。
なんだったんだ、あれ(二回目)
なんなんですか、あれーーーーー!?
夢かと思ったら、そうじゃないらしい。
にゃーんって声が聞こえて薄っすら目を開けたら、下着姿の柊木ちゃんがこっちにむかってきていた。
あ、夢だ。
って思った。
でも、そうじゃなかった。
夢のような時間だった。
あれ思い出すだけでソファから立ち上がれない。
……柊木ちゃん、変態なのか……?
俺が寝ていると思ってたみたいだから、何も訊かないでおこう。
自主規制部分は書籍版で公開予定ですー。




