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すべてを元に戻すはずでした――親友に罪を着せた伯爵令嬢の誤算  作者: 紡里


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反撃(前編)

生理に関する描写が出てきます。苦手な方はご注意ください。

 私の実家の男爵家は、領地を持っていない。

 魔道具の職人を抱えた工房を営む平民だった。そこで、すごい発明品を出したから爵位を与えられた。


 実家では、契約書の確認や帳簿の手伝いをしていた。

 だから、伯爵家で夫の手伝いをするうちに、内情が少し見えてきた。

 当主しか触れないような秘匿性の高い情報は、もちろん知らないけど。


 結婚当初、メイドや料理人がふざけたことをしてきたから、撃退してやった。

 洗濯をしてくれないから自分でやったら、干した洗濯物をたたき落とされるし。食事を持ってこなかったり、虫を入れられたり。


 洗濯物はシーツを大量に干している日にやり返してやったし、料理長を呼び出して口に虫を突っ込んでやろうかと脅したりした。


「ふざけんなよ。それでもプロか。給料分、まともに仕事せぇや」

 がらの悪い職人もいる中でやってきた平民を舐めるなっつーの。

 貴族になったのなんか、数年前だからね。お上品な嫌がらせなんか、鼻で笑っちゃう。



 ところで、血筋を大切にする伯爵以上の貴族と、金回りが良ければ指名される男爵では、違うんだね。

「同じ貴族だと思わないで」

 と義母に言われた。

 貴族になるまで、知らなかったよ。


 それから「男爵」でも、代々貴族の男爵と、金を持っているだけの成り上がりは別物なんだって。


 そう考えると、アデライードが赤ちゃんを産んだことを誤魔化すためだとしても、私を利用するのはおかしい。


 あとで私と離婚しても「本当の貴族ではないから、そんな嫁と離婚するのは当然だ」とベルクール伯爵家の評判を落とさないですむ? それは私を選ぶ利点になるだろう。

 だけど、この赤子は私の子どもとして届けられている。

 つまりこの子も「純粋な貴族ではない」と陰口を叩かれて、後継者にするのは難しくなる。


 なんだ? 何がしたいんだか、わからない。


 アデライードと彼女の家の名誉を守るため?

 まさか、そんな腹の足しにもならないことのために、こんな大がかりな詐欺行為をするとは思えない。

 いや、まさか……ねぇ?



 私は、そんなふうに、まとまらない思考をぐるぐると巡らせていた。

 昼間は文章の清書をするが、夜は暇だ。新妻のお役目なんか、求められていないから。

 時間を持て余していて、ある日、突然閃いた。


 もしかしたら、ルシアンと私はやってないんじゃないか?

 いや、あの、男女のあれこれのことよ。


 まず、結婚してから一度も閨を共にしていない。

 愛がなくても、性欲を持て余している若い男なら、抱けるものは抱くのでは?

 一度やったら、後はなし崩しになるもんだよね。


 それだけ私に女として魅力がないと言われたら……辛いところだけど。

 でも、平均的な顔だよ。

 お貴族様みたいにキラキラしていないけど、悪くないはず。



 そう考えたら、たくさんの疑問が一本の線につながった。



 あの日、私は睡眠薬でも飲まされて、寝ていただけなんだ。

 服を脱がされて裸を見られたのは、あれだけど……もしかしたら、まだ純潔なのかも。


 そのあとの妊娠騒ぎは、薬を盛られていたのではと疑いを持って思い出せば、心当たりがある。

 寮生活だから、寮母を巻き込めば、薬を盛ることは可能だ。

 例えば、軽い吐き気がする薬と生理を止める薬とか。


 寮の各部屋には水道がないから、小間使いが飲み水を配ってくれる。そのピッチャーの中に何か入れるのは簡単だ。

 あの時期は、「水質が悪くなったからハーブを入れる」と言われて、苦いというか青臭い水が配られていたもの。

 警戒心が緩んで、そんな水でも飲んでいた。油断しすぎを反省しなくちゃ。


 生理なんて、周期があっても数日くらい普通にズレるじゃん。

 それなのに、あのときは寮母が「まだ来ないでしょ?」なんて何度も訊いてきたんだ。

 恥ずかしいし、「この人、急になんなんだ」と気味が悪かった。



 そして、「妊娠したのでは?」と寮母に騒がれて、退学。


 ルシアンに「責任を取る」と言われて、結婚した。

 しばらくしたら、生理が来た。

 今思えば、生理を止める薬を盛られなくなったせいだと思う。


 結婚当初は朝食のバターが青臭かった。この家のバターは独特だなと思っていた。

 しばらくしたら普通のバターになって、「新参者への嫌がらせだったのか」と納得したんだよね。


 でも、当時は周りが「流産だ」って騒がれたせいで、生理だと思わなかった。

 大げさで芝居がかった感じだと、勘に障った。


 数ヶ月分まとめて来た感じで、量は多いし、お腹は痛いしで大変だった。

 それも、後で思い出したらそうかも……っていうやつで、しばらくは私も流産ってこんな感じなのかと信じていた。

 心の中で、産んであげられなかったことを詫びたし、涙も流した。


 思い込んでしまうと、違和感を見逃してしまう。あのときの私は、人を信じすぎていた。


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