反撃(後編)
騙されていたのかもと思いついたところで、ベルクール家のメイド長を締め上げたら、白状した。
理由は知らないが、新婚当初は一人だけ違うバターを出すように指示されていたと。しばらくして、そのバターは出さなくていいと言われた。
破棄するように命じられたので、現物は残っていない。
そのバターを作らされた料理人助手、その草を届けに来た庭師と辿っていき、その薬草を入手した。
私は街歩きに出るふりをして、薬局でその草が何かを確かめてもらった。
止血効果のある薬草だという。ツンとした香りで、内臓から出血している可能性があるときに服用する。軍人や、家畜・獣に襲われた農民に処方するそうだ。
生理を止める可能性は、昔から噂程度には囁かれているらしい。
だが、誰も検証したことがないのだと、薬師に逆に根掘り葉掘り質問された。
もしかして、貴族は公式行事と生理周期がかち合ったときなどに、密かに使っているのかもしれない。平民には教えてくれずに……。
貴族と結婚して、一つ知識が増えた。
私の実家が発明した魔道具は、叙爵されるときに王家に献上させられた。
私が子どもの頃に「爵位をやろう」と言われて、「くれるというなら、もらおうか」と軽く受けた。
それが失敗の元だった。
貴族の義務とか言って公共事業に金を出せと言われるし、発明した魔道具を王家に献上するのは誉れだろうとか言って金を払わないし。
爵位なんか突き返したい。
それが家族の総意になった。
悔しいけれど損をした分は諦めて、爵位を返上して他国に逃げようという計画はあった。
私が学園に入学して、私たち家族の貴族嫌いはますます加速した。
我が家が開発したのは、水を吸い上げて放射する魔道具だ。
この国では噴水に使われている。
王城に無償で作れと命じられ、高位貴族の庭から順に作って回っている。
貴族からはがっぽりお金をいただいている。
呼ばれたから行って工事をしているのに、「にわか貴族」とか「成り上がり者」って馬鹿にされる。やってられないよね。
数年経ったら魔石のメンテナンスをしないと使えなくなる仕組みだから、長いお付き合いになると思うとうんざりする。
想定外だったのは、私が貴族と結婚させられたこと。
すごく焦ったけれど、一年ちょっとで離婚された。
でも、こちらから離婚してやると考えていたのに、先に言われて、まるで振られたみたいになって……悔しい。
一泡吹かせるとか、ぎゃふんと言わせるとか、いろいろ想像していたのに。
だけど、好機は逃せない。
私の気持ちは一旦脇に置いて、行動した。
こっそり爵位を返上して、私たちは職人を連れて他国へ逃げた。
移住したくない職人もいたから、メンテナンスが必要になったら彼らに頼めばいい。
「足元見て、がっぽりもうけてやりますわ」
って、高笑いしていた。
「私たちの二の舞にならないよう、気をつけてね」という言葉を残して、私たちは大して愛着もない貴族用の屋敷を去った。
他国へ向かう道中は、不安を吹き飛ばすように、明るい雰囲気に満ちていた。
落ち着いたら上位互換の魔道具を作ってやると、みんな張り切っている。
農業で使えるような、シンプルで規模の大きいやつ。
それが広まったら、穀倉地帯が自慢の伯爵家は打撃を受けるだろう。
伯爵家の穀物を買っていた地方で、穀物が自給できるくらい採れたら……。
ベルクール家が輸出する穀物が安く買いたたかれて、アデライードのドレスがしょぼくなればいい。
意地悪な使用人たちの給料が安くなれば、ざまぁみろだ。
まあ、十年くらいかけての報復プランだ。
そして、数年後。
そんな野心を持っていたのに、早々にアデライードは離婚され、ベルクール家も破産の憂き目にあっているらしい。
自滅するのが早くない?
振り上げた拳は、どうしたらいいの?
――ビオラがアデライードを「親友」として思い出すことは、一度たりともありませんでした。




