↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべてを元に戻すはずでした――親友に罪を着せた伯爵令嬢の誤算  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

正しい姿

 わたくしの計画どおりに、事は進んだ。


 わたくしが学園を卒業する直前に、ビオラは離縁された。

 下男と浮気をしたということで、屋敷を追い出されたのだ。



「私、そんなことはしていません! 信じてください」

 ビオラは、ルシアンの執務室で泣きながら訴えた。


「僕が相手をしてやらなかったからって、下男に手を出すとは……。品格を疑うね」

 ルシアンはわたくしの腰を抱きながら、ビオラを見下ろした。

 この屋敷の中では、彼の婚約者はわたくしのままだ。使用人たちは、ビオラを新しい婚約者だと認めていない。

「さあ、離婚届に署名しろ。荷物をまとめて、今日中に出ていくんだ」


「それなら、実家に帰るまでの移動手段だけでも……」

 ビオラは俯いたまま、低い声で要求してきた。

 不気味な迫力に、わたくしは少しだけ怖いと感じてしまった。


 そんな気持ちを振り切るように、わざと高い声を出す。

「ならば、下男と荷馬車を差し上げたらどうかしら?」

 少しだけ、ルシアンがビオラと仲良くなったらどうしようと不安だったのだ。最後に嫌味を言っても許されるわよね? そんな軽い気持ちだった。


「ああ。それはいい考えだ」

 ルシアンもどこか興奮したような声を上げた。


「――結構です。荷馬車だけで」

「ふん。しゃれの通じない女だな。いなくても構わないお前と違って、下男には下男の仕事がある。そう簡単に解雇するわけないだろう」


「……さようですか」

 ビオラは観念したようで、執務室を出て行った。一歩一歩、踏みしめるように。

 そして、振り返ることはなかった。


 屋敷を追い出されたビオラは、王都を出て行く前に教会に寄っていたらしい。

 ちゃんと王都から出ていくか見張らせていた下男から、報告があった。


 下男には、茶番に付き合った分のお駄賃をあげる。

「これ、口止め料も入っているのよ。口外したら許さないから」


「クビにされるのかとヒヤヒヤしましたぜ」

 下男はだらしのない顔で、媚びを売るように頭をかいた。


「教会に離婚を無効にしてほしいとでも言いに行ったのか」

 下男が出ていくと、ルシアンは馬鹿にするように笑った。

 ビオラ相手でも好かれると気分がいいらしく、ほんの少し機嫌がよく見えた。


 誰のせいで、こんなややこしいことになっていると思っているのだ。

 ルシアンが暴走したからなのに――と、脳天気な彼に軽く苛立った。


 ビオラが荷造りをしている間に、侍従が離婚届を提出に行った。だから、教会に行っても手遅れだと言われただろう。

 愚かで健気な子犬――わたくしはそう思った。



 そのあとすぐに、わたくしはルシアンと婚約した。

 残念ながら、婚約披露パーティーはなし。

 離婚直後に婚約パーティーを開くのは外聞が悪い。不貞していたと宣伝するようなものだ。

 半年ほど待ってから婚約すれば、盛大なパーティーを開けた。けれど、わたくしは早い方を選んだ。


 なぜならば――卒業パーティーで、ルシアンと堂々と踊りたかったから。

 もうビオラにルシアンを奪われた、可哀想な元婚約者じゃない。


 同級生たちは「悪女に負けずに純愛を貫いた」と、わたくしたちを賞賛した。

 傷心を装うためにしばらく夜会に出ていなかったので、久しぶりの華やかな世界だ。

 くるり、くるりとドレスを膨らませながらターンする。

 ああ、なんて楽しいの。


 後ろ指を指されることなく、わたくしはすべてを手に入れた!

 「これが正しい姿だ」と幸せに浸り、明日から気軽に会えなくなる同級生たちと話に花を咲かせた。


「アデライードも、少女小説を読むのは卒業ね」

 現実主義で、小説を低俗だと言っていた同級生だ。最後まで噛みついてくる。

「……結婚の準備で忙しくなるから、仕方ないわ」

 まだ婚約者が決まっていないことを当てこすってやる。


 貴族社会はただ楽しいだけではないと、思い知らされた。



 卒業から半年ほど経った頃に、わたくしはルシアンと結婚した。

 ビオラとのときは教会で署名しただけなので、ルシアンにとっても初めての結婚式だ。

 誰もが笑顔で、わたくしたちを祝福してくれる。なんて素敵な一日なのでしょう。


 そして、もう何をはばかることもなく、一緒にいられる。

 わたくしには希望の光しか見えなかった。



 継子をかわいがるわたくしに、社交界は温かかった。

 本当は実の子どもなのだ。物心つく前に、取り戻せてよかった。

 ビオラがいた痕跡など、さっさと消し去ろう。

 といっても、好みの調度品を揃えるでもなく、ドレスや宝飾品を与えられることもなかったビオラ。


 ビオラが残した私物は、ルシアンの執務室にあったペンくらいのものだった。

「これは捨てるけど、アデライードも書類の清書をしてよ」

「ええ? そんなのは使用人にやらせればいいじゃない」


「内容的に、任せられないものもあるんだよ」

「あなたの字は読みやすいわよ。そのままで大丈夫」

 そう言ってルシアンを励まし、黙らせた。

 正直に言って、そんな地味な仕事はしたくない。わたくしがやるべきことではない。


 ビオラに関する話題は、それくらいのものだった。

 義理の両親たちも、彼女のことは一切口にしない。



 ビオラという異物など存在しなかったように、わたくしたち家族は幸せに暮らし始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>愚かで健気な子犬 子犬が手ではなく、首を噛みに来るのを心よりお待ちしております。 アデライード&ルシアンの両親や使用人含め、ろくな人間がいないですな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。