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すべてを元に戻すはずでした――親友に罪を着せた伯爵令嬢の誤算  作者: 紡里


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2/3

わたくしの栄光

 名ばかりの母親になった元男爵令嬢が、どのような生活をしていたかなど、わたくしは知らない。


 わたくしは数ヶ月ぶりに貴族学園に登校した。

 お友達が心配して、声をかけてくれる。

 子犬のようにまとわりつき、世話を焼こうとするビオラがいないのが……少し寂しいと思う。


 彼女がわたくしを裏切っていないことは、わたくしが一番よく知っているのだから。


 元婚約者のルシアンが近づいてきた。

 正義感の強いお友達が、彼を睨みつける。


「……元気そうで良かった。僕が至らないばかりに……謝罪する」

 珍しく言葉につかえながら、頭を下げるルシアン。

 その様子に、教室には緊張が走る。彼が謝罪するところなど、想像したこともないのだろう。


「……それも神のお導きでしょう。許します」

 わたくしは慈愛に満ちた言葉を返した。

 わたくしたちの間にわだかまりはないということを示したのだ。


 周囲は戸惑っていた。

 修羅場が始まるのを期待していた人もいるだろう。

 ほっとした表情をする人たちもいた。



 その数日後、わたくしはルシアンの屋敷を訪ねた。

 自分の子どもに会うために。



 執務室で書類の清書をさせられていたビオラは、わたくしの顔を見て泣き出した。

「アデライード様! 申し訳ありません。私にも何がなんだかわからないうちに……。

 あんなによくしてくださった方の婚約者とこんな……私が望んだことではないのです。

 信じてください!」


 こんな状況になっても、なお、わたくしを疑うこともなく信じているとは……。

 哀れで、可愛い、忠犬だこと。

 わたくしは心からの微笑みを向けた。


 ルシアンが合図をして、他の使用人たちを部屋から出した。

 ビオラは痩せて、着ている服は使用人の私服のような品質のものだ。

 彼女が不幸そうで、安心した。今の地位に満足して、居座られたら困るもの。


 わたくしは、自分の計画が思ったとおりにうまくいっていることに、満足した。

 ただ、それを口外できないことに、少々鬱憤を抱えていた。

 驚き、賞賛する観客がいないのだ。


「大丈夫よ、ビオラ。あなたが裏切っていないことを、信じます」

「ああ、アデライード様!」

 感謝しますと叫びそうなビオラ。


「流産したはずなのに、いつの間にか子どもが現れて、私の子どもだってみんなが言うんです。私の頭がおかしいって」


 ああ、追い詰められているのね。

 ちらりとルシアンを見ると、うんざりだというように肩をすくめた。


 ビオラには、わたくししか頼る人がいないのね。

 仄暗い喜びを感じないよう、脇においやる。


 そして、その善良そうな顔を一瞬で歪ませてあげようと、わたくしは息を吸った。

「だって、子どもを産んだのはわたくしですもの」


「……は?」


 間抜けな顔。わたくしは企みが成功したことを実感し、昂揚した。

 貴族学園で黙っていた分、堰を切ったように口から言葉が飛び出してくる。


「わたくしとルシアンの子どもなの。

 わたくしたちは恋人だし、婚約しているから何も問題はないの。ただ、結婚式を挙げる前というのは少々外聞が悪いでしょう?」


 ビオラからは表情が抜け落ちていく。


「だから、親友のビオラに協力してもらったの」


「き、協力……?」


「私たちが学園を卒業したら、離婚してちょうだい。わたくしが再婚して、その子どもを養子として育てるわ。貴族の家系図にはあなたの実子として載ってしまうけれど」


「アデライード。そんなにぺらぺらしゃべって大丈夫か?」

 ルシアンが心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫よ。ビオラの親友はわたくし一人。彼女がここに来てから、誰か訪れた人がいて?」

「いないな。まあ、あと数ヶ月ほど頑張ってくれ」

 ルシアンがそう励ましても、ビオラはピクリとも動かなかった。


 椅子から床に滑り落ち、そのままうなだれてしまったビオラ。

 わたくしたちがソファに移動してお茶をしている間、ブツブツと何かを言っていた。

「せっかくだから、こちらにいらっしゃいよ」

 そう声をかけてあげたのに、立ち上がる気配はなかった。


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― 新着の感想 ―
えげつない。 人の心を斧でずたずたに引き裂いておいて、でも本人は「針でちょっとつついただけよ?」くらいの感覚なんでしょうね
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