最初の誤算
どうして、こうなったのだろう?
わたくしは今、大規模なお茶会の会場で嘲笑を浴び、立ち尽くしている。
***
田舎から貴族学園に通うために出てきた貴族令嬢。それがビオラだった。
身だしなみを整えることもできないのか、手入れされていない髪。ぼさぼさの眉毛。
きょろきょろ見回す姿に、忍び笑いが起きている。
わたくしは王都育ちで、姉から学園のことを教えてもらっていた。
一緒に冷笑するのも、品がないと思った。
声をかけてあげたら、パッと明るい笑顔を見せてくる。
まあ、子犬に懐かれたみたいで、悪くない。
わたくしに懐いてきたので、それからも面倒を見てあげた。
カーテシーなど頑張っていたが、角度がなっていない。
淑女の、気持ちを読み取らせない笑みを練習しても、「まあ、いいんじゃない」と言った瞬間に歯を見せて笑う。
あとで振り返って見ると、絶対にライバルにはならないという安心感が心地よかったのかもしれない。正直、侮っていた。
わたくしは伯爵家の次女だ。
昔は伯爵の中でも序列が高い方だったが、今は子爵に落ちそうなくらい財力も名声も危うくなっていた。
だから、わたくしは条件のいい婚約者を捕まえなくてはいけないのだ。
わたくしは、二代前に子爵から伯爵へ上がった令息に目を付けた。
人によっては「成り上がり」と敬遠している。
だが、逆に言えば上り調子ということだ。
わたくしの家の「歴史」と、等価交換できるのではないだろうか。
わたくしは彼と恋人になることができた。
あとは、家同士で話し合って婚約を成立させてくれればいい。
そんなふうに順調に進んでいたのに、生理が来ない。
どうして?
お互いの気持ちを確かめ合ったけれど……ほんの数回のことなのに。
淑女としての名声が地に落ちてしまう!
わたくしは、お母様に泣きついた。
すごく叱られたけれど、大人たちが話し合うことになった。
「あなた、面倒を見ている男爵令嬢がいるそうね」
「え、ビオラのことかしら?」
「そう。今度、家につれていらっしゃい」
「どうして? いつもなら男爵令嬢なんか付き合うなと……」
一度家に彼女を招待したら、母が嫌な顔をしたのだ。
「あなたの不始末を押しつける相手が必要なのよ」
それからは怒濤のような日々だった。
ビオラとわたくしの婚約者が、我が家で過ちを犯した。
彼女は退学になり、わたくしの婚約者が責任を取って結婚。
だけど、ビオラはすぐに流産してしまう。
彼の家で、肩身の狭い思いをしながら生活を送っているという。
彼女の実家は、爵位が二段階も上の伯爵家に逆らうことができず、いいなりになっている。
社交シーズンも、最低限しか王都に滞在しない田舎貴族だ。
わたくしは親友と婚約者に裏切られて、領地で静養していることになっている。
実際は、お腹が大きくなり、出産するまで領地に隠れ住んでいるだけ。
月満ちて、男の子を出産した。
その子は乳母と一緒に、今から王都へ向かう。
彼とビオラの子どもとして登録するために。
あとは、彼がビオラを離縁して、わたくしと再婚すればいい。
すべてが正しく、元に戻る。
そのために、わたくしは王都へ戻って、復学する。
何食わぬ顔で「心の傷は癒えましたわ」と言えばいい。




