60.追いかけっこ
え……なぜ?
二頭のドラゴンの言葉に混乱するオリビア。ダメだ。むせているから空気がうまく脳に行き渡っていないのか余計に混乱してくる。
と、とりあえず咳が落ち着くのを待とう。
「なんでリョクを呼んじゃダメなの?」
咳が止まったオリビアは二頭と向き合う。
『 なんでって……ねぇ 』
『 なぁ 』
いやいや、そんな当然わかるでしょみたいな空気を出されてもわからない。自分はドラゴンでもなければ家族でもないのだから。
『『 カッコ悪いから(だ) 』』
うん?聞き間違えだろうか。カッコ悪い云々だなんて……。
『 だってあちこち聞き回って見つけられないとか負けたみたいじゃない! 』
『 ああ、ドラゴンの誇りにかけて必ず追いついてみせる 』
……聞き間違えではなかったよう。
「そ、そう」
これはまだまだリョクを見つけることは難しいかもしれない。
『 大丈夫だオリビア。先程までは遠くてわからなかったがこれだけ近づけばどこにいるかはもうわかる。あとは追いつくのみ、だ 』
オリビアの心の中を見透かしたのかマリンパパが安心させるかのように胸を張りながら自信満々に言う。
『 次こそはイケるわ! 』
マリンからも感じる溢れる自信。
ドラゴン✕2の頼もしい自信なのになぜだろうか。
嫌な予感がするのは。
~ 1時間後 ~
オリビアはマリンパパの背中にしがみついていた。
『 こら待たんか! 』
『 やだねー 』
『 なんなのあいつ!ムカつくーーーーっ! 』
あれからすぐに見つかったリョク。
初めて見るそのドラゴンは緑色の身体にオレンジ色の瞳を持つ――元気いっぱいなドラゴンだった。
気配を辿り見つけたものの、声をかけようとすれば楽しそうに逃げていくリョク。そこから追いかけっこが始まった。常時であれば捕まえられたのかもしれないが何せマリンパパは今背中にオリビアを乗せている。騎士でもなければドラゴンに乗ることにも慣れていないオリビアに配慮した動きでは到底追いつけない。
そう。配慮してくれているのだ。
それはよくわかる。だからこそ我慢していた。
だが、もうそろそろやばい。
吐き気が。
長時間ビュンビュングルグルと動き回る目線。残念ながらひ弱なオリビアには耐えられなかった。
「ごめん。マリンパパ吐く」
オリビアの言葉に急ブレーキをかけたマリンパパ。ドラゴンの驚異的な聴力で同じくオリビアの言葉が耳に届いたリョクもピタリと動きを止めた。
その衝撃で気高きドラゴンの背にリバース寸前だったがなんとか堪えたオリビアは地面にゆっくりと降ろされた後、マリンの小さい前脚に背中を撫でられていた。
『 いやぁ。すまないっす。聖女が俺を探してるとか聞いて嬉しくて。構ってもらえるのが楽しくて調子に乗りすぎたっす 』
オリビアの前で地面にお尻をつけてちょこんと座ったリョクが満面の笑みを浮かべペコリと頭を下げる。これは悪いと思っていなさそうだ。
まあ可愛いから許すけれど。
「私たちがあなたを探していた理由は知っているかしら?」
『 ああ、まぁ……。俺ら地獄耳っすからね 』
?
歯切れの悪い物言いのような……。
『 アレンのことっすよね?アレンには申し訳ないことをしたと思ってるんすよ?ほんの少しだけっすけど 』
?
『 でも俺も被害者っていうか、これは致し方ない選択だったっていうか 』
???
全く話が見えてこない。
『 何こいつ勝手に先走るタイプ? 』
『 自分が考えていることは相手もわかると思うタイプなんじゃないか? 』
マリンとパパさんも呆れたようにリョクを見ている。
「リョク。全く話が見えてこないわ。なぜアレン様の元から消えたのか最初から話してちょうだい」
オリビアの言葉に一瞬きょとんとしたリョクだったが、コクリと頷くと少しばかり気まずそうに口を開いた。
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「おー!もう原因を突き止めるとは……!見事だオリビア嬢!」
アレンの件についてドラゴンの気持ちがわかったとの手紙をオリビアから受け取ったリカルドは翌日再び王宮に来るようにオリビアに命を下した。王宮にやってきたオリビアは今日もとても美しい。
王の執務室にオリビアが足を踏み入れるのを見て執務机で書類とにらめっこしていたリカルドはガタンと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がってしまう。
おっと。
まあいいか。
やはり聖女というものはドラゴンに関して仕事が早い。スムーズにことが運ぶ。なんと素晴らしい。本当に彼女は優秀だ。思わず目を輝かせ腕を広げ近づけば――
「「セクハラ」」
話を一緒に聞こうと執務室に待機していた皇太子、宰相がぽつりと呟くものだからピタリと足が止まった。
そんなセクハラセクハラと言わなくても……ハグくらい普通だろうに。自分は一応王なのに。しょぼんとしながら椅子に戻ろうとすれば何やら背中が痛いような冷たいような……。
そっと横を見れば護衛にあたるバリーが冷たい目で自分を見ていた。
見なかったことにしよう。うん。
リカルドは何事もなかったかのように椅子に腰掛けた。それと同時に廊下をバタバタと走る音が近づいてくる。
王宮の廊下を走るとは無礼極まりない行為ではあるのだが、近づいてくる者たちの心の内を表しているかのようでちょっと微笑ましかったりする。
コンッコンッ
足音が止まると同時に扉をノックする音が耳に入る。
入室許可を出せば部屋に足を踏み入れるのは今日も熊のような大将軍と娘のセレナ。そして――
「おお。久しぶりだなアレン。ユリア嬢もよく来た」
数カ月ぶりにガーネ侯爵家から外に出たであろうアレンとその婚約者のユリアの姿もあった。




