59.答え合わせ
「やばい女なんてことはないはずよ」
『 なんでよ 』
「ユリア様は春のご令嬢と言われている方なの」
タイル伯爵家は特別に権力を持っているわけでもないし、経済力があるわけでもない。だが伯爵夫妻は大層見目麗しく穏やかで親しみやすいと評判の良い方達である。
一人娘であるユリア様も美しく穏やかで立ち居振る舞いは優雅で誰にでも優しい方だ。しかも頭もよく話が上手なのでいつも多くの人に囲まれている。
『 はあ?なんなのその胡散臭い女は?そんなの演技よ。女は皆女優よ?女は皆心の中に醜い生き物を飼っているんだから 』
「…………」
なんたる偏見。世の女性に失礼だとは思わないのだろうか。何度か社交の場でお会いしたことがあるが、とても穏やかな空気を纏う方だった。その優しい人柄が滲み出るかのような見ているものが心安らぐ笑みはとても印象に残っている。
あれが演技であれば人間不信に陥りそうだ。
「なんだ?オリビア嬢はユリア殿に何か問題があると思っているのか?それならば何も問題はないはずだ」
はっきりと言い切る大将軍におや、と眉を上げるオリビアとムッとするマリン。
「こちらも婚約が決まった日にリョクが消えたので調べたのだ。聞き込みをし屋敷に密偵まで送り込んだのだが、噂に違わぬ素晴らしい女性だった」
……密偵って。
まあ貴族がよく使う手だけれど。当たり前に使う手だけれど。目の前で堂々と言わないでほしい。
「今もな……抜け殻のようになってしまったアレンの様子を毎日見に来ては優しく話しかけ微笑みかけ献身的に支えてくれているのだ」
一方的に彼女が話す様はなんとも心苦しいと大将軍の目に涙が浮かぶ。
『 オリビア。原因はわかったわ。その芝居上手な女狐よ。間違いないわ。さぁ答え合わせに行くわよ 』
男の涙なんて関係なしとばかりにバサリと翼を広げ飛び立つ準備万端のマリン。
「答え合わせ?」
怪訝な顔をするオリビアにマリンはニッと笑った。
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ガーネ侯爵家を出た途端、マリンは空に向かってグルアアアアアアア!と叫んだ。外まで見送りに来ていた大将軍とセレナは何事かと身構えていたがオリビアは平然としていた。
なぜならマリンは
『 パパァァァァァァァァァ 』
と自らの父親を呼んだだけだから。
暫くすると猛スピードでこちらに向かってくる一頭のドラゴンが姿を現した。近くに来るとスピードを落としバッサバッサと翼を動かす音とともに地面に降り立つ雄々しき黒きドラゴン。
「黒のドラゴン……なんと美しい」
大将軍が息を呑む。
『 愛しい我が娘よ。一体何の用だ?おお!オリビアもいるではないか。実に眼福だ 』
「ご機嫌ようマリンパパ」
「「マリン…………パパ!?」」
オリビアの言葉にガーネ侯爵家の父娘は目を見開いた後、マリンとマリンパパを何度も見比べる。
わかる。親子とは思えないものね。
マリンも大きくなったらこんな感じになるのだろうか。いや、なんか違う気がする。女の子だから母親のレイチェルのような優雅なドラゴンになる可能性の方がまだ高……。
『 よし、わかった。乗れオリビア 』
「え?」
『 オリビア早く早くぅ 』
マリンと話をしていたはずのマリンパパが背をオリビアに向けている。いやいやマリン、急かされてもなにがなにか……。そう思いつつ背中に乗ればまたたく間に空に浮かび上がるマリンパパ。
「えっ?」
『 ではリョク探しにゴー! 』
『 おー! 』
いつの間にかオリビアの背中にしがみついていたマリンのかけ声にマリンパパが楽しそうに応える。
それから1時間後――
オリビアは木や草が生い茂る山の中にいた。そして目の前にはマリンとパパドラゴンが口論している。
『 ちょっとパパァ。ここにもいないじゃない。ここで間違いないのよねぇ? 』
『 ああ。お前だって他のドラゴンたちからここにいると聞いただろう? 』
『 じゃあなんでいないのよ 』
『 あいつの気配は残っているが……また別の場所に行ってしまったようだな 』
『 ケッ。役に立たないオヤジね 』
『 こら、パパにそんなこと言っちゃダメだろ。泣くぞ?泣いちゃうぞ? 』
『 勝手に泣けば? 』
『 うう…… 』
父娘のじゃれ合いなのか、喧嘩なのかよくわからないやり取りだ。
この1時間ほど様々なドラゴンに声をかけリョクというドラゴンの居場所を聞いて回っているのだが、なかなか見つけられない。
というよりもその場所に辿り着いても既にいないというべきか。どうやらあちこち動き回っているらしい。
姿さえまだ確認できぬ事態にマリンがパパドラゴンにあたっているわけだった。
小さいドラゴンが巨大なドラゴンに噛みつく(言葉で)様はなかなかシュールな光景ではあるが、父娘のやりとりだと思えば微笑ましいものにも見えてくる。
山の中にあった大きめの岩に腰掛けながら終わらぬ父娘喧嘩?をぼーっと眺めていれば、今更ながらは……と思いつく案。
「あのー……もしかして私が呼んだら来たりとか?」
ピタリと止まる二頭の動き。互いしか見ていなかった首がギギっと動きオリビアの方に向けられる。
『 た、確かに聖女であるそなたが心から呼べば来るだろう。我らと聖女は特別な繋がりがある故な…… 』
『 そうだったわ。なんか前もこんなことがあったような…… 』
ああ。バリー隊長に背負われたときね。あの時は恥ずかしかった。
それはさておき。であれば呼んでみようと息を吸ったときだった。
『『 ダメ(だ)!!! 』』
二頭に急に大きな声を出され、オリビアは盛大にむせた。




